トランプ関税で世界経済の先行きに懸念が広がる。足元では長引く物価高が家計を直撃している。こんな中、迎える2025年ゴールデンウイーク。いつになく、お出かけの予定が立てづらいかもしれない。近場のおすすめスポットとして産業・企業ミュージアムはどうだろうか。
香港ヘッジファンドのオアシス・マネジメントに資本効率面から見直しを迫られたDIC川村記念美術館(千葉県佐倉市)が閉鎖に追い込まれたように、企業ミュージアムへの「逆風」も強まっている。そこで、今だからこそ訪ねてみたい企業ゆかりミュージアムを3回シリーズで紹介する。
飛鳥山3つの博物館
東京都北区にある飛鳥山公園。8代将軍の徳川吉宗が江戸庶民の行楽のために整備したことで知られ、桜の名所の一つにも数えられる。王子駅の目の前、標高25メートルほどの小高い丘に広がる辺り一帯は別名、「渋沢翁のテーマパーク」と呼ばれる。
渋沢翁とは昨年7月から使われている新1万円札の顔の渋沢栄一(1840~1931)。日本の資本主義の父と言われ、国内最初の銀行である第一国立銀行(現みずほ銀行)や東京商工会議所、東京証券取引所など、生涯に500余りの企業・団体の設立にかかわった。その渋沢が邸宅を構えたのが飛鳥山だ。
公園内に博物館ゾーンが誕生したのは1998年のこと。渋沢の足跡を今に伝える「渋沢史料館」、洋紙発祥の地を記念する「紙の博物館」、郷土・風土資料を紹介する「北区飛鳥山博物館」が軒を並べる。

「渋沢史料館」栄一91年の生涯をたどる
渋沢は近代日本のリーダーとして実業界のみならず、教育・社会公共事業、民間外交に指導的役割を果たした。渋沢史料館には、こうした多方面にわたる事業や活動、人々との交流に関する数多くの資料を収蔵し、展示している。
91年の生涯を生まれから順に、郷里、転身、官途、実学、公益、協調、儀型の各パートに分けて紹介し、渋沢の息吹や志に触れることができる。手紙や書画、錦絵、写真も豊富で、興味深い。
渋沢は15代将軍徳川慶喜の弟・昭武のパリ万博出席に随行し、欧州諸国を約2年間遊学した。先進的な社会・経済制度や技術を目の当たりにしたことがその後の人生に決定的な影響を与えた。
現在開催中の企画展は「渋沢栄一と喜賓会」(5月11日まで)。喜賓会は1893(明治26)、外国人観光客誘致と旅行者の支援を目的につくられた非営利の民間団体。明治期にすでに、今日はやりのインバウンド(訪日客)が意識されていたことに驚かされる。
渋沢邸は太平洋戦争の空襲で大半が焼失したが、その一部だった迎賓館「晩香蘆」、書庫「青淵文庫」が現存する。いずれも大正期の建築で、国指定重要文化財。ぜひ立ち寄ってみたい。
