モーター大手のニデックが工作機械大手、牧野フライス製作所の完全子会社化を目的に実施中だったTOB(株式公開買い付け)を撤回した。牧野フライスが導入した買収防衛策について、ニデックは差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請していたが、これが却下されたのを受けた判断だ。ニデックが矛を収めたことで、約4カ月半に及ぶ両社の攻防戦はひとまずピリオドを打つ。
ニデック、戦略の見直しは?
ニデックは2021年に三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)を買収し、工作機械事業に参入。同社を含めてOKK(現ニデックオーケー)、TAKISAWA、イタリアPAMAの中堅どころの4社(1社は海外企業)を傘下に収めた。
そして新たな標的に定めたのが大手の一角を占める牧野フライスだったが、今回の買収断念で戦略の見直しを迫られることになる。
もっとも、ニデックとして工作機械事業を今後の柱の一つとして育成する方針が揺らぐことは考えられず、業界内には早くも次の標的がどこになるのかに関心が集まっている。場合によっては牧野フライスに再度アプローチする可能性もある。
一方、“難”を逃れた形の牧野フライスも今後の展望が明確に開けているわけではない。自主独立路線を堅持したいのが本心と思われるが、投資ファンドの傘下に入る選択肢も俎上に載っているからだ。
追い込まれた牧野フライスが複数の第三者(投資ファンド)から初期的な買収提案が寄せられていることを公表してすでに2カ月となるが、焦点とされる買付価格の提示など交渉の進展状況については何ら明らかにされていない。
一時は争奪戦に発展する可能性も
ニデックが牧野フライスに1株1万1000円でのTOBを提案したのは昨年12月末。TOBに関する事前の通知や協議は行わず、同意なき買収を提案した。買収額は2570億円。
ニデックは賛同を得るために十分な協議期間を設けるとしてTOB開始日を4月4日に設定。牧野フライスは当初から5月9日以降に延期するよう繰り返し要望してきたが、ニデックはこれを拒み、予定通りに4月4日にTOBを始めた。
この間、牧野フライスは3月10日、複数の第三者から完全子会社を目的とする買収の初期的な意向表明書を受け取ったことを発表。ホワイトナイト(友好的な買収者)が出現し、争奪戦に発展する可能性が出てきたのだ。
牧野フライスは各提案を比較検討するための時間を確保する必要があるとして、ニデックにTOB開始を5月9日以降に延期することを改めて要望した。
ニデックが延期に応じない中、牧野フライスが対抗措置として打ち出したのが既存株主への新株予約権の無償割り当てを内容とする買収防衛策の導入だ。