本記事は、小川 仁志氏の著書『悩まず、いい選択ができる人の頭の使い方』(アスコム)の中から一部を抜粋・編集しています。

「お金」を選択思考で問い直す
「将来に備えるべきか、今の生活をもっと充実させるべきか」「何にいくら投資するか」「安定した給与を得られる仕事と、自由だけど収入が不安定な仕事、どちらを選ぶべきか」など、私たちは日々、お金に関するさまざまな選択を迫られています。
その背景には、「お金=安全や豊かさの絶対的な指標」「お金は多くあればあるほど良い」といった思い込みがあります。
しかし、あなたにとっての「お金」の意味が明確になれば、「どう稼ぎ、どう使うか」という問いへの答えが変わり、お金に関する選択の仕方が変わり、日々の消費行動や資産の配分の仕方、仕事の選び方などが大きく変わっていくはずです。
たとえば、あなたにとってお金が「人生の可能性を広げるための道具」と再定義されれば、単純に数字を増やすことに執着せず、「このお金の使い方は自分の可能性を広げるか」という視点から判断できるようになります。
旅行や学びへの投資を、単なる「出費」ではなく「可能性への投資」としてとらえるようになるでしょう。
あるいは、あなたにとってお金が「自分の価値観を具現化する表現手段」と再定義されれば、世間体や常識に縛られず、本当に大切なことにお金を使えるようになります。
食事、服、住まい、寄付など、お金の流れが自分らしさを表現する手段となり、使うことにも貯めることにも罪悪感を覚える必要がなくなるのです。
お金を再定義すると、「十分か、不十分か」「使うべきか、貯めるべきか」という二元論から解放され、自分自身の価値観に基づいたバランスが見えてきます。
「このお金の稼ぎ方、使い方は自分の定義するお金の役割に沿っているか?」と問いかけると、複雑に思えた金銭的な選択が驚くほどシンプルになっていくでしょう。
お金は「おっかねー」
選択思考で考え、私は「お金」を「誰もが黙る無限の恐怖」と再定義し、「おっかねー」という新しいコンセプトをつくりました。
その中心となったのは、「視点を変える」で出てきた「笑わせるな」「恐怖の元」という要素。
そこに、「疑う」で出てきた「共通」「無形でもいい」という要素、「無限性」「平等性」という「あったらいいな」と思う要素をを加味しました。
「おっかねー」は「お金」と「おっかない」=「怖い」を掛け合わせた言葉です。
「お金」は単なる交換や取引の道具・媒体でしたが、「おっかねー」は恐怖を特徴とする、日常や生き方を律するための道具・アイテムとなります。
そして、「おっかねー」というコンセプトを持つと、「もっと稼がなければ」「将来のためにもっと貯めなければ」と際限のない不安や欲望を抱いたり、逆に無頓着に使ったりするのではなく、「今の生活に必要なものは何か」「本当の豊かさとは何か」などと考え、日常や生き方を律するようになります。
「お金を使う価値」を高める考え方
以前の私は、お金を「自己実現のための道具」ととらえ、安易に使っていました。
本が欲しければすぐ買ったり、休みごとに海外に行ったり、哲学者のサルトルにならい、お金が入ってもすぐに後輩や学生たちにおごったりしていました。
しかし、お金を「おっかねー」ととらえるようになってから、そういう使い方を見直しました。
今は冷静な判断ができるようになり、お金に対して無頓着ではなくなりました。
さあ、ここからはあなたの番です。
ぜひご自身で、「お金」を再定義してみてください。
お金は有限です。
使った後に後悔することも多いでしょう。
しかし、ここで大事なのは、
お金の後悔は、「何に使ったか」ではなく、『何を基準に使ったか』で決まる。
ということです。
多くの人は、「あれを買わなければよかった」「この出費は無駄だった」と後悔しますが、本当の問題は、買ったモノ自体ではありません。
「お金に対する自分なりの価値観」「お金を使う自分なりの基準」がはっきりしていなかったことが、後悔を生む本当の原因なのです。
たとえば、あなたにとって、お金が「新しい体験をするための道具」であれば、旅行や趣味への出費は決して無駄遣いではなくなります。
「豊かな人生のための投資」と感じられ、後悔することもないでしょう。
一方、周囲に流され、自分にとって価値を感じられないものにお金を使ってしまうと、必ず後悔が残ります。
お金を使う「自分なりの基準」を定めることで、後悔は劇的に減るでしょう。
お金を選択思考で再定義する最大の価値は、「お金に振り回されず、お金を自分の価値観に合わせて活用できる」と実感できることにあります。
そうすればお金の不安や執着、後悔から解放され、あなたらしいお金との付き合い方が生まれるはずです。

1970年、京都府生まれ。京都大学法学部卒、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)を経た異色の経歴。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で課題解決のための新しい教育に取り組む傍ら、全国各地で「哲学カフェ」を開催するなど、市民のための哲学を実践している。NHK・Eテレ「世界の哲学者に人生相談」「ロッチと子羊」では指南役を務めた。
近年は、中小企業から大企業まで業種を問わず「ビジネス哲学研修」を多数実施。哲学思考を活用し、企業のコアメッセージ再定義から新規事業開発、働き方改革、部署間コミュニケーション改善まで、多様なビジネス課題をサポート。深い問いかけと対話を通じて、組織と個人の本質的な成長を支援している。
専門は公共哲学、哲学プラクティス。著書も多く、ベストセラーとなった『7日間で突然頭がよくなる本』をはじめ、これまでに百数十冊を出版。YouTube「小川仁志の哲学チャンネル」でも発信中。