2024年、物流・運輸業界を対象にしたM&Aは、陸運を中心に大きく動いた。
件数は33件(12月25日時点)と前年比9件増。この背景にあるのが「2024年問題」だ。トラックドライバーの時間外労働の上限が年間960時間となり、人手不足に拍車がかかった。かねてから指摘されてきた問題で、2023年から倉庫・陸運で大きな動きがあったが、2024年もこの問題を背景にしたM&Aが続いた。
人材不足でM&Aに拍車
陸運のなかでも特に影響を受けたのは中・長距離輸送だ。人材不足に加え、燃料費の高騰などの問題も加わり、物流中堅のエスライングループ本社はMBO(経営陣による買収)を選択した。物流網の拡充とサービス強化を軸とした事業改革に取り組むために株式非公開化の道を選んだ。
同じく物流マッチングを手がけるトランコムも、米投資ファンドのベインキャピタルと組み、MBOを選択した。2024 年問題を背景に長距離輸送が困難になるとトランコムは予測。荷主が物流効率化を進めるなかで、中距離輸送ニーズが拡大すると分析しており、物流構造やニーズの変化をとらえ、抜本的な対策を打ち出すのが狙いだ。
人材不足は買収合戦でもM&Aの一要因となった。「桃太郎便」で知られるAZ-COM丸和ホールディングスは2024年3月、低温物流(コールドチェーン)を得意とするC&Fロジホールディングスに対して同意なき買収提案を行った。C&Fを取り込み、グループ全体で効率的な配送を行うことで2024年問題の緩和にも寄与すると提案をしたのだ。
しかし、過去にAZ-COM丸和との経営統合について議論を重ねた経緯を持つC&Fは、それを受け入れることなく、宅配便大手の佐川急便を傘下に持つSGホールディングスと接触。SGは低温物流の取り込みを目的に対抗TOB(株式公開買い付け)を発動し、C&Fを傘下に収めた。SGも2024年問題を経営課題としてとらえており、人材獲得の側面も多分にあろう。総額約1240億円の買収劇となった。
3PLの強化を図る案件も
物流業界において市場が拡大している3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)の強化を図る案件も見られた。3PLは荷主の物流戦略の立案、倉庫・在庫管理や輸配送など、物流全般を一括して請け負うサービスで、ヤマトホールディングスは、3PL事業を手がける物流サービス大手のナカノ商会を買収。ヤマトHDは中期経営計画で成長領域として3PLを位置付けており、M&Aや提携による事業拡大を図るとしてきた。
同じく3PL大手のロジスティード(旧日立物流)は、アルプス物流へのTOBを経て子会社化した。電子部品物流に強みを持つアルプス物流を傘下に迎えて、3PL事業の基盤強化と拡大を目指す。アルプス物流の筆頭株主で業績低迷に苦しむアルプスアルパインが事業ポートフォリオ改革を進めるなか、株式放出を決めた案件となる。