カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
(画像=テレビ東京)

この記事は2025年6月5日に「テレ東BIZ」で公開された「企業を元気にする! 驚きの手法の舞台裏」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 売り上げ2割アップの秘密~リブランディングとは?
  2. カフェチェーン、神社…~売り上げ増につなげたデザイン
    1. 元気にするリブランディング術1~デザイン部長として深くお付き合い。
    2. 元気にするリブランディング術2~強みを打ち出し、大胆に変える
  3. COEDOビール復活秘話~全てを変えた!大胆な決断
  4. 医療の現場にも変化が~「おしゃれな感じで…」
  5. ~村上龍の編集後記~

売り上げ2割アップの秘密~リブランディングとは?

北海道民にはおなじみの道内で60店舗を展開する「サザエ食品」。看板商品はおむすびで、オリジナルレシピの具材を各種、包み込んでいる。一番人気はエビ天が丸ごと1本入った「秘伝のタレが染み込んだ元祖えび天おむすび」(334円)だ。

もう一つの看板商品が店内で手作りしている昔ながらのおはぎ。「十勝おはぎ つぶあん」(216円)をはじめ、甘さ控えめだが、どこか懐かしい味と評判だ。

札幌市・宮の森本店の常連客は「(店内が)きれいで(商品が)見やすくて買いやすくなった」と言う。少し前まで店内は昭和な感じが漂っていたが、現在はリニューアルし、明るく変身した。

▼少し前まで店内は昭和な感じが漂っていたが現在はリニューアルし明るく変身

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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リニューアルを決断した石水創社長は「お客様も従業員も少し高齢化してきて、もっと若い世代にも届けたいという声が聞こえてきたので、リブランディングした」と言う。

1957年に創業した「サザエ食品」は2024年11月、ブランドイメージを刷新するリブランディングに踏み切った。ロゴは小豆色から活気のある赤色にし、パッケージの文字はスッキリしたデザインに。ビニール袋からテープまで、客の目に触れるもの全てを変えた。

▼1957年に創業した「サザエ食品」客の目に触れるもの全てを変えアピールに成功

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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これにより幅広い世代へのアピールに成功し、家族連れや若い客が増え、おむすびとおはぎの売り上げは2割増えたという。

リブランディングを仕掛けたのがエイトブランディングデザイン代表・西澤明洋(49)。エイトブランディングデザインは、依頼主のブランドイメージを変えるブランディングデザインを行う会社だ。

「自分たちの取り組みが広がって、いろいろな会社が元気になるようになれば、その行き着く先として、日本を元気にすることにつながると思って活動しています」(西澤)

西澤が腕を振るう相手には北海道を代表する菓子メーカー「石屋製菓」も。北海道土産の定番「白い恋人」のテーマパーク、札幌市の「白い恋人パーク」は、工場見学はもちろん、自分だけの「白い恋人」を作ることができる体験コーナーもある。

大成功を収めている「白い恋人」だが、リブランディングしてさらに攻勢に出ようとしている。

この日、石屋製菓本社の会議室には西澤の姿があった。2026年12月、発売50周年のタイミングで「白い恋人」のロゴ変更を検討中。そこで西澤に白羽の矢が立ったのだ。

これまで西澤は「ヤマサ醤油」や「キリン生茶」、「ドトールコーヒー」のほか保湿クリーム「ユースキン」などのリブランディングに成功。引く手あまたとなっている。

カフェチェーン、神社…~売り上げ増につなげたデザイン

元気にするリブランディング術1~デザイン部長として深くお付き合い。

東京・目黒区にある評判のカフェ「ナナズグリーンティー」自由が丘店。客を呼び込んでいるのは抹茶やほうじ茶などの和の飲料だ。

▼「ナナズグリーンティー」客を呼び込んでいるのは抹茶やほうじ茶などの和の飲料

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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海外での抹茶人気もあり「ナナズグリーンティー」は国内外に80店舗以上まで拡大している。実は西澤のデザインがこの店の躍進を大きく後押しした。

西澤は「現代の茶室」というコンセプトで、まずロゴを一新。お茶を立てる時に使う茶筅(せん)のイメージで仕上げた。メニュー表は抹茶の緑色が際立つようバックを黒にした。

ここまでなら普通のデザイナーの仕事だが、西澤はさらに経営に踏み込んだ仕事も行う。

「ちょっとおせっかいかもしれませんが、経営戦略や商品の企画といったところも、会社と伴走していって、できるだけ会社の中の人でいたい。『御社のデザイン部長であり、僕らの会社がデザイン部であるように見てください』と言っているんです」(西澤)

デザイナーの枠を超え、社内ブレーンであろうとする西澤。「ナナズグリーンティー」ではフランチャイズ展開する際の店づくりのルールも考えた。ロゴなどは全店統一。しかし店に合わせてカップのデザインは少し変えてよく、店内のインテリアなどは大きく変えてもいいことにした。

例えば千葉・浦安市のイクスピアリ店は、天井からレースをつるし、その重なり具合で光の濃淡を作り、茶室の「わびさび」を表現している。また、テーマパークが近くにあるので、家族連れが重宝しそうなキッズスペースも作った。

こうした個性的な店舗80軒以上を、西澤は一軒一軒、監修。結果、一貫したブランドイメージを保ちながら個性的な表情を持つカフェチェーンが出来上がった。

▼個性的な店舗80軒以上を西澤さんは一軒一軒、監修している

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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「出店を加速するルールを西澤君がつくってくれた。会社が良くなるという経営感覚でデザインしてくれるところが(普通とは)違うところだと思います」(「ナナズグリーンティー」を運営する「七葉」代表・朽網一人さん)

元気にするリブランディング術2~強みを打ち出し、大胆に変える

西澤が手がけるのは企業ばかりではない。群馬・前橋市ののどかな田園風景の中に佇む、安産・子育てにご利益があるという「産泰(さんたい)神社」。社殿は江戸時代に建てられた由緒ある神社だ。

しかし、境内の雰囲気は今風なところも。中では若い夫婦がご祈祷を受けていた。2025年9月に第1子を出産予定ということで、安産を願いやってきたという。

ご祈祷の後に寄ったのは石段の上の水くみ場。置かれているのが安産祈願の「抜けびしゃく」だ。底の抜けたひしゃくを水がそのまま抜けていくように、楽にお産ができるよう願うのだ。

夫婦が町から外れた場所にある安産の神社を知ったのはネットから。「ウェブページも見やすくて、『ザ・安産』という感じ」だったと言う。

以前のホームページでは、安産祈願と七五三や厄除けの情報が並んでいた。しかし今は「泰(やす)らかに産み、育てる」というキャッチコピーだけだ。西澤が安産に絞ってデザインし直し、閲覧数は10倍に跳ね上がったという。

依頼した産泰神社の鯉登敬紀さんは、少子化の影響から参拝客が減っていく中で、今、手を打たねばとリブランディングにかけた。

「神社でデザイナーさんを入れることはなかなか冒険でした。我々は神社や神様自体を伝えていかなければならない。それを守るためには変化は必要なことだと」(鯉登さん)

西澤は由緒ある社紋まで変えた。ターゲットとなる妊婦の方を向き、丸みを帯びた、柔らかなイメージのデザインにした。

▼由緒ある社紋を丸みを帯びた柔らかなイメージのデザインに

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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さらにお守りは、これまで他の神社でも買えるものしか置いていなかったが、安産祈願に特化した、オリジナルのお守りを作った。

▼さらに安産祈願に特化したオリジナルのお守りを作った

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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このリブランディングの結果、参拝客が増え、収入も2割ほどアップ。産泰神社は息を吹きかえした。

参拝客数が頭打ちだった神社のイメージを、西澤はデザインの力で変え、安産という強みにフォーカスし、一点突破で成功に導いたのだ。

COEDOビール復活秘話~全てを変えた!大胆な決断

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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東京・港区にあるエイトブランディングデザインのオフィス。常に抱えている30ほどの案件にはそれぞれ、担当デザイナーが付いている。西澤は毎朝、2時間かけてそれぞれの進捗をチェック。こんなやり方で緻密に仕事を進めている。

滋賀県で生まれ育った西澤。野山や琵琶湖で遊び回る活発な子どもだったという。高校を卒業すると京都工芸繊維大学に進学し建築を専攻。卒業後、「東芝」に入社する。だがわずか2年で退社、28歳で独立した。

退路を断ち、裸一貫となった西澤が当時、手がけたブランドが埼玉県にある。

日本のクラフトビールのさきがけとなった「COEDOビール」(1本/333mL、310円~443円)。ラベルの色別に6種類の味があり、今やスーパーなどでも売られるほど人気となっている。このビールが西澤の出発点だった。

▼「COEDOビール」ラベルの色別に6種類の味がある

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以前は地ビールの1つ「小江戸ビール」として販売されていた。しかし地ビールブームは終焉(えん)を迎え、ビール事業も赤字に転落。なんとか立て直そうと動いたのが、「協同商事コエドブルワリー」の朝霧重治社長だ。

西澤は大学の恩師のつてで朝霧社長と出会い、仕事に取り掛かる。当時の西澤は独立したばかりで何の実績もなかった。

「『デザイナーとしてブランドや経営者と伴走していきたい』と熱く語っていて、考え方も合致したので、その場で『一緒にやりましょう』と」(朝霧さん)

「めちゃくちゃうれしかったです」(西澤)

西澤は朝霧社長の考えをベースに土産用の地ビールから脱却し、職人がこだわって作る「クラフトビール」を前面に打ち出すリブランディングを行っていく。

この時、依頼主の朝霧社長が驚きの決断を下す。これまで販売してきた地ビールのラインナップを全て廃止してしまったのだ。

「地ビールではなく、人間起点のクラフトビールというマーケットを新しくつくっていく。そこで私たちもポジションをつくっていく。断固としてやるしかないだろうと決めて臨みました」(朝霧さん)

この決断に、製造現場の職人は困惑した。クラフトビール共創チーム・小谷野宏さんは「もちろん不安はありました。それまで造ってきたものをどうやってリブランディングするのか。見た目が変わるとお客様が受ける印象も変わりますので」と振り返る。

しかし、朝霧社長の決意は揺るがなかった。この経営者の覚悟を間近で見て西澤も腹を決め、人生を掛けて仕事にあたる。

世界で売っていこうという思いから6種類のビールのラベルには、日本の伝統色を採用。商品名も「瑠璃-Ruri-」や「紅赤-Beniaka-」などとし、これまでとは違った感覚を打ち出した。瓶も当時珍しかったフォルムにして新しさをアピールした。

こうしたやり方で土産の地ビールだった「小江戸ビール」を、世界で評価されるクラフトビール「COEDOビール」に生まれ変わらせたのだ。

「経営者の考えていることを具現化するプロでいようと。実際の経営者が何を考えて行動しようとしているのかを初期に見せていただいたことが本当に学びだったし、仕事の原点になっています」(西澤)

医療の現場にも変化が~「おしゃれな感じで…」

群馬・前橋市内の「石原総合歯科医院」。治療器具の大半は使用後、洗浄や滅菌を行い、繰り返して使っている。

この日も、高温の蒸気を当てる滅菌の準備が進められていた。そこで滅菌する器具の入った機械に入れたのは、ちゃんと滅菌ができたかどうかを判定する製品。カラフルな容器の中に仕込んだ紙が反応し、滅菌状況が分かるようになっている。

こうした、主にバックヤードで使う道具の数々を西澤は1つにまとめ、「SALWAY(サルウェイ)」と名付けてブランド化した。

▼「SALWAY」バックヤードで使う道具の数々を西澤さんは一つにまとめブランド化した

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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「デザインがおしゃれな感じで、ブランドとして統一感があるので信頼感が増す感じがしています」(副院長、第一種滅菌技師・佐藤繭美さん)

西澤は今まで製品ごとに作っていたカタログを「SALWAY」ブランドとして一冊のカタログに集約。ホームページにも「SALWAY」のカテゴリーを作り、リニューアル。商品の特徴が分かりやすくなり、受注数が4倍になった製品もあるという。

医療現場で使われるB to B製品のリブランディング。この効果を強く実感しているのが「SALWAY」を販売する会社「名優」の営業スタッフだ。

地道に全国の病院を回っている営業スタッフだが、「SALWAY」のリブランディング以降はカタログやホームページのおかげで格段に営業しやすくなったという。

「伝わりやすさは相当感じています。伝わりやすいから一つ一つの製品にかける説明の時間が短縮されたので、営業の効率が良くなったと感じています」(営業部・佐藤秀樹さん)

表に出ないB to Bの企業も、西澤はデザインの力で元気にしていた。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

カンブリア宮殿,エイトブランディングデザイン
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ブランディングデザインとは最初わかりづらかったのだが、西澤さんと話していて、具体的なものが目に見えるようになり、これかなと推測できた。

独立してから、営業をいっさい行わず、クラフトビール「COEDO」のデザインをはじめた。「COEDO」が、ブランディングなのだ。ロゴの、細かいポイント、全体的なイメージがそれを物語る。

独立には高い壁があると言う。「最大の壁は、資金かも知れないが、成功したデザイナーをベンチマークすること、何でも聞けるメンターを持つこと」これが、ブランディングかも知れない。

<出演者略歴>
西澤明洋(にしざわ・あきひろ)
1976年、滋賀県生まれ。2002年、京都工芸繊維大学大学院修了後、東芝入社。2004年、東芝退社。2006年、エイトブランディングデザインの前身の会社を設立。