カンブリア宮殿,シーベジタブル
(画像=テレビ東京)

この記事は2025年5月15日に「テレ東BIZ」で公開された「世界中の海を元気に 新たな海藻の食文化を!」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. 有名レストランからコンビニまで~希少な海藻で急拡大する秘密
  2. シーベジタブルの海藻革命~海藻を再生し海を元気に
    1. 海藻革命1~絶滅の危機から次々に再生
    2. 海藻革命2~星付きスゴ腕シェフも参戦
    3. 海藻革命3~とさかのりで海の危機を救う
  3. お好み焼きがきっかけ~シーベジタブル誕生秘話
  4. 大企業とのビッグビジネス~AIで海藻が進化?
  5. ~村上龍の編集後記~

有名レストランからコンビニまで~希少な海藻で急拡大する秘密

東京・港区の「DEAN&DELUCA六本木」に並ぶ惣菜。「つばき鯛と筍のカルパッチョ」(1,296円/100g※店舗によって取り扱いメニューが異なります)に乗っているのは、とさかのりという赤紫の海藻。

▼「つばき鯛と筍のカルパッチョ」乗っているのは"とさかのり"という赤紫の海藻

カンブリア宮殿,シーベジタブル
(画像=テレビ東京)

コリっとした食感が楽しめる逸品だ。カレーで味付けした「鶏むね肉のカレーグラチネ グリーンリコッタクリーム添え」(1,296円/1ピース)には磯の香り豊かな海藻、すじ青のりが乗っていて、クリームにも青のりが練りこんである。

厨房(ちゅうぼう)では珍しい海藻を調理していた。

「若ひじきです。食べてびっくりしました。ひじきの香りはするけど、もっとフレッシュ」(統括シェフ・境哲也さん)

できたのは若ひじきととさかのりをケールに合わせたシャキシャキのサラダ。ここでは他にない海藻の味わいを展開している。

そんなさまざまな海藻を売り出し、急拡大しているのがシーベジタブルだ。

「セブン-イレブン」にもシーベジタブルのマーク付きの商品がある。「セブンプレミアム」では、すじ青のりを使用した3商品を展開している。「塩焼そば」(257円)はすじ青のりをたっぷりかけて仕上げる、香ばしい磯の香りが食欲をそそる逸品だ。

東京・港区の人気ピザレストラン「ピザフォーピース東京」。店で一、二を争う人気メニューが、青々としたおかひじきが山盛りのピザだ。窯で焼きあげられた熱々のピザにたっぷりと振りかけるのはシーベジタブルの海藻だ。

「(あつば)アオサです。香りがいいのがシーベジタブルの海藻のいいところ」(シェフ・三代武さん)

香り豊かなすじ青のりとあつばアオサを使用し、健康的で他にはない味わいが客をとりこにしている。

丸めたピザ生地を揚げたおつまみ「ゼッポリーネ」にもあつばアオサがたっぷり。

▼熱々のピザにたっぷりと振りかけるのはシーベジタブルの海藻

カンブリア宮殿,シーベジタブル
(画像=テレビ東京)

この店では、シーベジタブルの海藻のおいしさを知り、積極的にメニューに取り入れたという。

「いろいろな海藻を食べましたがどれもおいしかった。(海藻)単体で食べてもおいしいことに気付いて、海藻はメインになるべき食材だと感じ、海藻の魅力を伝えられるピザを作りました」(「フォーピースHD」・久保田和也さん)

シーベジタブルの本拠地は高知県。太平洋を望む場所に自慢の施設がある。

▼直径26メートルの巨大な水槽の中では青々としたすじ青のりが育っている

カンブリア宮殿,シーベジタブル
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直径26メートルの巨大な水槽の中では、青々としたすじ青のりが育っていた。

「青のりを水槽の中で満遍なく広げることで日光を均等に受けることができて光合成をして成長につながる。海藻の成長段階に応じてタンクの大きさを変えて栽培しています」と言うのは、何種類もの海藻を育てているシーベジタブル共同代表・蜂谷潤(37)だ。

「あつばアオサは陸上で育てると異物が入らないのでそのまま食べられます」(蜂谷)

シーベジタブルが誇る海藻の陸上栽培だ。ミネラル豊富で異物が少ない地下海水を使ったあつばアオサの栽培技術は世界初で、特許も取っている。環境にこだわり抜いた海藻は、そのまま食べられるほどクリーンなものだ。

蜂谷は高知大学時代から海藻を研究してきた海藻のエキスパート。自ら全国の海を調査する一方、世界でも珍しい植物の「タネ」にあたる胞子から海藻を育てる技術も完成させた。胞子から育てることができる品種はすでに30以上あるという。

そして蜂谷の海藻への思いをビジネスに変えるのが、ともにシーベジタブル代表を務める・友廣裕一(40)だ。

「『儲かるからやろう』というより、この先、はっちゃん(蜂谷)が見る風景がどんなものかに興味があって」(友廣)

2016年、2人で創業したシーベジタブルは2025年全国に30以上の拠点を構え、海藻の研究から栽培、加工までを行っている。

シーベジタブルの海藻革命~海藻を再生し海を元気に

カンブリア宮殿,シーベジタブル
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海藻革命1~絶滅の危機から次々に再生

今、海藻には、ある危機が進行している。例えばおにぎりに使われる黒のり。近年生産量が激減し、平均単価は2025年までの10年で倍以上に跳ね上がっている。

「調達が難しくなっている話はよく聞きます。のりの巻いてないおにぎりが普通になるのは、1つの食文化が消失してしまうことだと思う」(友廣)

この危機を解消しようと、シーベジタブルは6年をかけ、2025年、黒のりの陸上栽培の量産技術を完成させた。だが、危機に瀕(ひん)する海藻は黒のりだけじゃない。

「海藻が生えている場所を藻場(もば)と言いますが、藻場の面積が1年ごとに東京ドーム1,000個分ぐらい減少しています」(蜂谷)

そんな中で、シーベジタブルはさまざまな栽培技術を作り上げてきた。

山口・下関市の北にある漁港でシーベジタブルが育てているのは、ちょっと太めのもずくだ。かつてこの地域に豊富に自生していたもずくを再生するため、シーベジタブルは5メートルほどの水深に細長い大きな網を張り、そこにもずくの胞子をつけ育てる方法を開発。絶滅が危ぶまれたもずくの再生に成功した。

▼「何度も試行錯誤を重ねてようやくこぎ着けたという感じです」と語る蜂谷さん

カンブリア宮殿,シーベジタブル
(画像=テレビ東京)

「海藻ごとに育て方や特徴が違う。分からないところを解明しながら、何度も試行錯誤を重ねてようやくこぎ着けたという感じです」(蜂谷)

一方、熊本・天草市の深海漁港。友廣がやって来たのは、みりんという赤い海藻の栽培現場だ。「もともと天草で食べられていた海藻で、かめばかむほどネバネバして、めっちゃおいしい」(友廣)と言う。

みりんは古くから天草で食べられていたが、近年は採れなくなっていた。シーベジタブルはみりんの生態を研究。独自に水面下に設置したかごの中で育てる方法を確立した。

「栽培技術を確立して、種苗生産から成功して、2025年はたくさん採れます」(友廣)品種に応じてさまざまな栽培技術を考案し、地元で親しまれたおいしい海藻を復活させている。

「昔の天草みたいな豊かな海を取り戻さないといけない。そのためにはシーベジタブルの力が必要です。一緒にタッグを組んで」(「深海漁協」・浦本力さん)

海藻革命2~星付きスゴ腕シェフも参戦

シーベジタブルで海藻を使った料理を開発する商品・料理開発リーダーの石坂秀威シェフ。かつてミシュランの星付きレストランのスーシェフを務めるなど、世界的なレストランで料理開発を担ってきた。現在はシーベジタブルの海藻を使い、今までにないメニューを開発、発信している。

この日、試作したのは、天草の海で育てた新鮮なみりんを使ったメニュー。トマトからとった酸味のあるだしにつけ、独自の食感を持つみりんをそばのように食べる、夏向けのメニューだ。

今、世界の一流シェフも海藻に注目し始めており、2021年、石坂も海藻の可能性に魅せられてシーベジタブルに入社したという。

「今の世の中、世界中を回っても、初めて出会う食材はほぼない。その中で、海藻は誰も探ってない可能性が眠っている食材だと思います。料理人としてすごく面白い」(石坂)

海藻革命3~とさかのりで海の危機を救う

天草の栽培拠点では、とさかのりも水中にかごを設置して栽培しているのだが、その中から友廣がつまみ上げたのはワレカラだ。海藻に付く甲殻類の一種で、「これが増えると魚が増える、生態系のピラミッドの底辺」(友廣)と言う。とさかのりを栽培することでワレカラが繁殖、それを餌に周囲の魚が増えるのだ。

▼「海藻に生態系を回復する機能があることを数字で証明できた」と語る友廣さん

カンブリア宮殿,シーベジタブル
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「海藻に生態系を回復する機能があることを数字で証明できた」(友廣)

実際、とさかのりを栽培するエリアには、海藻がない場所の36倍もの魚が来るようになったという。

シーベジタブルは、海藻栽培が海の生態系に与える影響について調査研究を行う一般社団法人「グッドシー」の調査に協力している。今後さらに海面栽培を増やしていくことで海の生態系を再生したいと考えている。

「僕たちは海を豊かにするのが大きなミッションですが、海を豊かにするには、事業として回らないと広がらない。そういう世界をつくっていきたいと思います」(蜂谷)

絶品の海藻を再生し、海を元気にするのがシーベジタブルの挑戦なのだ。

お好み焼きがきっかけ~シーベジタブル誕生秘話

広島に本拠地のある人気のお好み焼きチェーン「ちんちくりん」。広島市安佐南区のCOCORO店では1日300枚を焼くという。この店のこだわりが、仕上げにたっぷりかける青のりだ。

▼お好み焼きチェーン「ちんちくりん」こだわりが仕上げにたっぷりかける青のりだ

カンブリア宮殿,シーベジタブル
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「ここをケチるとお好み焼きではない」(運営する「K2S」代表・川上博章さん)

だが青のりの価格が高騰し、価格の安いあおさに切り替えるお好み焼き店が急増した。

「不本意だけど、あおさにしようと。青のりにこだわらない店主が最初に着手するコスト削減でしょう」(川上さん)

そんな青のりへの危機感は、お好み焼き企業「オタフクソース」にもあった。

シーベジタブルの始まりは、20代の頃に日本中を放浪していた友廣と、高知大学で海藻を研究していた蜂谷の出会いから。友廣は海藻に没頭する蜂谷に惹(ひ)かれたという。

「地道に毎日、海藻の世話を楽しそうにやっていた。海藻より蜂谷に興味が……」(友廣)

一方 蜂谷には、「海藻を事業にどうつなげるかが分からない」という不安があった。

2017年、高知大学を通じて蜂谷の元に「オタフク」から相談が持ち込まれる。

「国産のすじ青のりにこだわって使ってきたけれど、『このままでは使えなくなるかも』と、お声がけをいただきました」(友廣)

「オタフク」は創業以来、香り高い青のりにこだわってきたという。

「あおさとは香りが全然違います」(「オタフクHD」会長・佐々木茂喜さん)

自社で青のりの販売も行っていた「オタフク」は仕入れ価格の上昇に困っていた。

「生産量が激減した時は3~5倍の値段になりました」(佐々木さん)

川から水が流れこむ場所にかつて多く生息していた青のり。減り続ける水揚げ量に価格が高騰していた。

「海藻が必要とされていることに、相談されてから気付きました」(友廣)

青のりの大規模な栽培施設の建設を決意する友廣と蜂谷だが、その資金はなかった。2人は考え抜いた末、オタフクへある提案をしに行くことにする。会合にはオタフクの佐々木社長(当時)が出席した。

蜂谷が海藻や海への熱い思いを話し、友広が「生産した青のりを長期的に買い取る契約に」と切り出した。リスクの高い提案だったが、佐々木社長は「5年の長期契約でいきましょう。その代わり、最高の青のりを作ってくださいね」と答えた。

「目をキラキラさせて、海藻の魅力や自分たちの夢を語る彼らの熱気にほだされました」(佐々木さん)

こうして青のりの栽培が始まり、世界でも類を見ない海藻ベンチャーが走り出した。

大企業とのビッグビジネス~AIで海藻が進化?

カンブリア宮殿,シーベジタブル
(画像=テレビ東京)

「東京ビッグサイト」で開かれたスタートアップ企業の展示会「スシテック東京2025」。国内外600以上のスタートアップが集まるイベントに、新たなビジネスチャンスを求め、多くの企業が集まっていた。

そんな会場の一角で、友廣は「陸上で海藻を育てることに関して、世界で我々が最大の事業者だと言われています。ミシュランの星付きのレストランだけでも50店舗以上で使われています」と語った。今までにない海藻のビジネスに来場者たちも興味津々だ。

多種多様なおいしい海藻を作れるシーベジタブルに、さまざまな企業が注目している。

「最近は、食品メーカー以外の会社からの問い合わせも多い。自動車メーカーとか、燃料の可能性、バイオプラスチック……。創業した時は『海藻の事業をやる』と言っても、『海藻?』みたいな感じで、そこから比べたら、風は来ていると思います」(友廣)

家電大手の「パナソニックHD」はシーベジタブルにいち早く注目し、すでにプロジェクトが動き出している。

シーベジタブルとともに行っているのは海藻の生産効率を上げるための実証実験。例えば、パナソニックの画像認識システムを使い、海藻の生育状況をAIで分析する。

▼パナソニックの画像認識システムを使い、海藻の生育状況をAIで分析する

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「シーベジタブルと一緒に取り組みをすることで、新しく見えてくることもある。それが1次産業に向けてのビジネスにつながる可能性はあると思っています」(「パナソニックHD」・松村浩一さん)

「天候など自然条件に左右される部分の難しさはあります。ただ、そういった環境が技術を進化させるチャンスだと思って、取り組みを進めている」(同・松延徹さん)

パナソニックとの協業は社員食堂でも行われている。定期的にシーベジタブルの海藻を使った料理を提供、従業員にも好評だという。

「食堂が開いてから30分たたずに売り切れました」(同・和田淳志さん)

「おいしかったですね。『同じ釜の飯を食う』という言葉があるが、一緒に食べて、これはおいしいから何かできることないかな、と考えたくなります」(前出・松村さん)

たった2人で始めた海藻をめぐる挑戦は今、さまざまな企業を巻き込み、拡大を続けている。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

カンブリア宮殿,シーベジタブル
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「シーベジタブル」ってどちらが思いついたんですか、と聞いたら、2人で考えましたという答えが返ってきた。仲がいいという感じではなかった。ただ、強烈な信頼感がある。「蜂谷は海藻の声が聞けるんです」と友廣さん。

どんなことを話すんですか、と聞くと「腹が減った」とかだと真剣に答える。海藻の声を聞くためには最低でも3年は必要だと。ずっと海藻のことを考えて3年なのだ。長期契約を結び、前受金としてのお金を預かって、それを設備投資に充てることで事業は走り出した。「海藻に対して愛があるのか」海藻は、美しい。

<出演者略歴>
友廣裕一(ともひろ・ゆういち)
1984年、大阪府生まれ。早稲田大学を卒業後、2016年、合同会社シーベジタブルを蜂谷と創業。
蜂谷潤(はちや・じゅん)
1987年、岡山県生まれ。高知大学農学部で海藻養殖を研究。2013年、アワビや海藻の陸上養殖事業を行う。