
この記事は2025年4月17日に「テレ東BIZ」で公開された「“ご当地麺”で大手に挑む! 中堅メーカーの生き残り術」を一部編集し、転載したものです。
目次
全国のご当地麺を再現~ファン急増!話題のカップ麺
2025年3月、さいたま市で開催された「ラーメンフェス2025」。全国の名店8店舗が集うイベントだ。滅多に味わえない名店の一杯を求めて多くのラーメン好きが集まった。
そんな会場の一角にあるブースで、カップ麺が飛ぶように売れていた。「カップ麺らしくない」「店の味」とラーメンファンが絶賛するカップ麺は「ニュータッチ」の「凄麺(すごめん)」。
▼さいたま市で開催された「ラーメンフェス2025」カップ麺が飛ぶように売れていた

札幌みそラーメンや喜多方ラーメンなど、全国のご当地ラーメン約30種類をカップ麺で展開している。
▼「凄麺(すごめん)」全国のご当地ラーメン約30種類をカップ麺で展開している

特に麺にこだわり、栃木「佐野らーめん」(275円)なら平打ち麺、家系ラーメンの「横浜とんこつ家」(275円)ならもちもちの極太麺と、麺の特徴まで再現している。
東京・北区のスーパー「サミット」王子店には「凄麺」をズラッと揃えた特設売り場がある。
▼「サミット」王子店には「凄麺」をズラッと揃えた特設売り場がある

全国のご当地の味をカップ麺で手軽に楽しめると大人気になっていた。
公式サイトでは好きなもの12種類を選んでまとめて買うこともできる。つい、あれこれ食べてみたくなるというファンが続出しているのだ。
「凄麺」を作っているのは茨城・八千代町の即席麺メーカー、ヤマダイ。従業員数は約200人。年間約8,000万食のカップ麺を売る中堅メーカーだ。
▼「凄麺」を作っているのは茨城・八千代町の即席麺メーカー、ヤマダイ

この日、本社の一室に集まったのは商品開発のスタッフ。週に1回、新しく開発したり、改良を加えたりした商品の試食会を行っている。
用意されたのは2010年発売の「新潟背脂醤油ラーメン」。しょうゆラーメンでは珍しい極太麺が特徴だ。今回は発売済みの商品と麺を改良した2種類を試食した。
「一口食べて、ラーメン専門店の味に限りなく近いもの、ゆでたてのうまさを再現するということです」と言うのは社長・大久保慶一(68)だ。
そんな味が客に支持され、2001年の「凄麺」発売以降、着実に売り上げを伸ばしている。
「凄麺」の強み1~マネのできない麺づくり
一般的にカップ麺の麺は、生麺をまず蒸す。そのあとは油で揚げるフライ麺と熱風で乾燥させるノンフライ麺の2種類に分かれる。ヤマダイの凄麺はノンフライ麺だが、他のメーカーとは作り方がまったく違うという。
通常、麺を蒸すところを、ヤマダイは町のラーメン店と同じように麺を一度、しっかりとゆでている。「たっぷりのお湯でゆでることで、もちもち感や滑らかな食感をつくることができる」という。
ただし、ゆでた麺は蒸した麺より水分が多いため、乾燥させるとくっつき、ほぐれにくくなってしまう。この問題を独自の乾燥技術で乗り越えた。
乾燥室を出てきた麺は、トップシークレットの技術によって、お湯で戻した際、ゆでたてのようなおいしさになる、という訳だ。
「終売しない」商品戦略&眠れるご当地麺を商品化
凄麺の強み2~リニューアルで磨き続ける
広島・広島市。ヤマダイ広島営業所・大野和隆が訪ねたのは、地元のラーメン店「くにまつ」八丁堀本店だ。
この店の看板メニューは「汁なし担坦麺」。ラー油と山椒のピリッとした辛さが特徴だ。広島名物になっていて、市内のあちこちの店舗が「汁なし坦坦麺」の看板を掲げている。
ヤマダイは地元の9店舗に協力してもらい、2021年に「汁なし坦坦麺」を商品化した。今回、そのリニューアルにあたり試作品の意見を聞くために来たのだ。
変更したのはタレ。以前はゴマや山椒の香りが立ち過ぎていたが、今回は配合を変えたという。試食した「くにまつ」の松崎司さんは、以前より本物に近くなったと大絶賛。
「コクが増えたけどわざとらしくなくていい。食感もいいです」(松崎さん)
▼「くにまつ」八丁堀本店、協力を仰いだ店全てを回り意見を開発に生かす

こうして協力を仰いだ店全てを回り、意見を開発に生かすという。ヤマダイではほとんどの商品でこんな細かいリニューアルを繰り返している。
例えば「仙台辛味噌ラーメン」は11回、「熱炊き博多とんこつ」は12回リニューアルした。「横浜とんこつ家」に至っては2005年の発売以来、実に16回も改良の手を加えている。売れ行きが悪くても改善し、ロングセラー商品に育てていく戦略だ。
「絶えずいい原材料、いい素材を活用しながら、どんどん進化させていく。大手がやりたくてもやれないことをかたくなにやり続ける」(大久保)
凄麺の強み3~ご当地から引っぱりだこ
愛媛・八幡浜市のご当地ラーメンが「八幡浜ちゃんぽん」だ。市内の至るところに「八幡浜ちゃんぽん」ののぼりが立つ。
鶏ガラと魚介だしのあっさりしたスープで名物の「じゃこ天」が乗る。地元では有名だが、全国的には知られていないご当地ラーメンをヤマダイは2022年に商品化した。スープや麺だけでなく、「じゃこ天」も地元メーカーの協力で再現した。すると2023年の公式サイトの人気投票「凄麺総選挙」で、人気ナンバーワンに輝いた。
今、ヤマダイには、ラーメンのご当地から商品化の依頼が殺到している。
古くからの酒蔵の町、京都市の伏見もその1つ。伏見のご当地ラーメンは「酒粕ラーメン」。濃厚な鶏ガラスープに伏見の酒粕をたっぷり溶かした個性派ラーメンだ。
ただし全国的にはほとんど知られておらず、伏見で何軒かの飲食店が出しているだけ。これを町のメジャーな名物にしようと動いたのが京都市観光協会の古川昌彦さんだ。
「1人でも多くの方の目に留まることが大事だと思います。スーパーに行ってパッと見た印象が心に残るので、ヤマダイさんと一緒に手軽に食べられる酒粕ラーメンを開発しようと」(古川さん)
古川さんはヤマダイ大阪営業部の戸田直希とともに地元の酒造メーカーに協力を呼びかけた。話に乗ってくれたのが創業350年を数える老舗「玉乃光酒造」。昔ながらの手作りで酒を仕込み続ける銘酒の蔵だ。
その製造過程で生まれる酒粕は地元の料理店などでも使われている。この酒粕を提供してもらい、ヤマダイは2025年2月、商品化にこぎつけた。鶏と野菜のスープに酒粕をたっぷり加え、伏見の味を本格的に再現した。
▼酒粕を提供してもらい商品化にこぎつけた「凄麺」

「本当に酒粕の良さを引き出してくれている。カップラーメンという多くの人に親しみを持ってもらえる商品で酒粕を知ってもらえたら、すごくうれしいです」(「玉乃光酒蔵」・山川結さん)
観光協会は販売にも協力している。伏見の銘酒を扱う店には酒粕の「凄麺」を置いてもらった。「大人気で飛ぶように売れています」という店もある。
「酒粕ラーメン」を出してきた「らーめん門扇」の山口雄大さんも「『酒粕ラーメン』自体がもう少し広まれば、うちにもお客さんが来てくれる」と歓迎する。
狙い通り、ウィンウィンのビジネスになっている。凄麺が地方を熱くしている。
「凄麺」苦闘の開発秘話~苦境が生んだご当地戦略

ヤマダイは1948年、大久保の父・周三郎が起こしたうどんの製麺所から始まった。
1971年、日清食品が世界初のカップ麺「カップヌードル」を発売すると、その翌年、「ニュータッチヌードル」でカップ麺に参入した。覚えやすいCMソングで一気に知名度はアップした。
大久保は創業者の父に請われ1983年に入社、大手スーパーやコンビニなどを営業して回り、テレビCMの宣伝効果をアピールした。
そんなある日、小売りの担当者から「おたくの商品を扱うメリットがない。仕入れてほしいなら価格をもっと下げて」という辛辣(しんらつ)な言葉を浴びせられた。
「競争力のなさをつくづく痛感しました。商品の価値を認めてもらえないのは、やはり悔しい思いをしました」(大久保)
ヤマダイが「ニュータッチヌードル」を発売した後、大手が続々とカップ麺に参入。大久保は業界の中での「ポジションの低さ」を痛感させられた。
「他社と同じような商品をつくって、同じような営業活動をしても、競争に勝つことは絶対にできない」(大久保)
これを機に大久保は、広告費を減らし、そのお金を商品開発に回そうと父に進言。自ら開発の現場に立ち、他社とは違う「価値ある商品」を生み出すべく研究の日々を重ねる。
試行錯誤すること10年。やっと完成させたのが町のラーメン店のような味わいを持つノンフライ麺だった。
1999年には父の後を継ぎ社長に就任する。そして2年後、「凄麺」第一弾となる「これが煮玉子らーめん」を発売。
▼「凄麺」第一弾となる「これが煮玉子らーめん」

これまでのカップ麺とは全く違う味わいを世に送り出す。
「明らかにお客さんの評価が変わりました。『どうしてヤマダイがこんな商品をできるんだ』と、結構、衝撃的だったと思います」(大久保)
全国チェーンのコンビニが扱ってくれて売れ行きは絶好調だった。ところがわずか1カ月後、「煮玉子ラーメン」は棚から消え、他社の商品が代わりに並んだ。
即席麺は毎年1,000種類以上の商品が発売される。そのため、小売チェーンは絶えず商品を入れ替え、売り上げを維持する手法をとっているのだ。
考え抜いた大久保は「凄麺」の方向性をご当地ラーメンに変更。ターゲットも全国チェーンから地方スーパーに切り替えた。広島のスーパーなら広島のご当地ラーメン、京都のスーパーなら京都のご当地ラーメン、といった具合に、地元で親しまれている味を売り込むことにした。この作戦が当たる。
「『京都のカップ麺が出た』といううれしい思いで、一生懸命売り込みました。大々的に売れて、品ぞろえを増やしていった」(京都府のスーパー「マツモト」商品部・臼井透さん)
こんなやり方で各地のご当地ラーメンを開発しては販売エリアを拡大。「凄麺」を全国に広げていった。
カップ麺に安心をプラス~ヤマダイの新たな一手
茨城・水戸市に暮らす渡野邉さん一家。息子の敬太君は卵と乳成分にアレルギーを持っているため、食に細心の注意を払う生活を続けている。
母・あゆみさんが敬太くんのために買い置きしている食品の中に、凄麺が入っていた。
「パッケージにアレルゲンが書いてあって、卵と乳製品がアレルゲンとして入ってない。うちの子が食べられるカップ麺があるとびっくりして、うれしかったです」(あゆみさん)
一般的なカップ麺には一部の原料に卵や乳成分が含まれている。そこでヤマダイは2020年から商品づくりを見直し、卵と乳成分を使わないアレルギー対応の商品に順次、改良している。
▼「おいしいです。食べられるラーメンがあって安心しました」と語る敬太君

「おいしいです。食べられるラーメンがあって安心しました」(敬太君)
現在、アレルギーに対応した商品は45種類まで増えた。(2025年4月時点)
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~

停滞していた1983年に入社。小売店から「大手より安くないと売れない」と悔しい言葉を。CM投下量が販売に直結しなくなった。広告宣伝が客にとっていいことなのか。それよりその宣伝費を商品の価値に結びつけるべきでは。
約10年のときを経て、2001年に「凄麺」ができた。ベースには麺がある。生麺を茹でる工程がある。街の専門店と同じように、生麺を茹でて食べられる状態まで作り、それを乾燥するという技術はとてもむずかしく発売まで10年かかった。麺がおいしくて、かつ「強い」。それは食べた人しかわからない。