
この記事は2025年5月1日に「テレ東BIZ」で公開された「新たな旅の楽しみ方 第2弾 GWにおススメ! 「おてつたび」が仕掛ける旅」を一部編集し、転載したものです。
目次
GW&夏休みにおすすめ~バイトをしながら全国を巡る
雄大な自然に囲まれた和歌山・那智勝浦町。鳥取からやってきた坂口桃佳さんは船に乗り込み「ホエールウォッチング・クルーズ」(6,500円/約4時間)へ。運が良ければ優雅に泳ぐイルカやマッコウクジラの群れに出会うことができる。
宿泊する田辺市の「わたらせ温泉ホテルささゆり」には源泉かけ流しの露天風呂が9カ所あり、大露天風呂は最大500人収容可能。地元の食材を使った夕食のメインは和牛ブランド「熊野牛」のステーキ。1泊2食付きで3万円以上するワンランク上の温泉宿だ。
坂口さんが泊まっていたのは本館から少し離れた場所。約1カ月間の滞在で、宿泊料は「0円です。こちらで働かせていただいているからです」と言う。
▼宿泊料は「0円です。こちらで働かせていただいているからです」と語る坂口さん

坂口さんは朝と夜の4時間ずつレストランで配膳などの業務を担当。それ以外の空き時間は自由に温泉に入れる。休みの日は観光もでき、地元の名所を巡ることもできる。部屋は従業員の寮で食事付き。「20日間働いて約17万円ぐらいです」と、しっかりアルバイト代までもらえる。
この驚きの仕組みを提供しているのが「おてつたび」。「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた造語で、お得に旅がしたい利用者と人手が欲しい事業者をマッチングするサービスだ。
シニア層からも人気があり、子育てが一息ついた人や定年退職した人など、実にユーザーの4人に1人が50代以上だ。
2018年のサービス開始以来、会員数は右肩上がり。現在は7万5,000人にのぼる。
「おてつたび」はサービスの名称だけでなく社名にもなっている。東京・渋谷区のマンションの1室がオフィスになっており、30人のスタッフがいる。
▼東京・渋谷区のマンションがオフィスになっており30人のスタッフがいる

社長・永岡里菜(34)は「登録料や掲載料等は一切いただいていないです。マッチングした時のみ、成果報酬という形です」と、ビジネスの仕組みを説明する。
受け入れる側の事業者はその地域の最低賃金以上で時給を設定。利用者が働いて稼いだアルバイト代に応じた手数料を、事業者が「おてつたび」に支払うという仕組みだ。
「利用者はアルバイト代をもらいながら、旅費を気にせず、いろんな地域に行くことができる。受け入れ先の方からすると人手不足も解消できて、地域にとっても人が訪れるきっかけをつくれます。『ウィン・ウィン・ウィン』を目指すことを大事にしています」(永岡)
利用者よし・事業者よし・地域よし~「三方よし」のビジネスモデル
(1)利用者よし~非日常体験&スキルが生かせる
「おてつたび」の仕事はバラエティ豊か。和歌山で行うミカンの収穫から宮古島のマグロの一本釣り漁まで、ふだんはめったに経験できない貴重な仕事にあふれている。
▼「おてつたび」の仕事はバラエティ豊か貴重な仕事にあふれている

「『経験は誰にも盗まれない』という言葉がすごく好きなんです。経験から何が自分の気づきにつながったかが、より大事になってくる時代なのかなと」(永岡)
インバウンド客で活気づく岐阜・高山市。「ホテルアラウンド高山」では宿泊客の8割以上が外国人だという。
そんなホテルのダイニングバーで働いているのが富山から「おてつたび」を通じてやってきた立塚有里子さん。ふだんは子育ての合間に美容サロンを運営しているという。
「大学で英米文学科を専攻し、それから2年間カナダに留学をしています」(立塚さん)
立塚さんは15年前までは仕事で英語を使っていたが、結婚してからスキルを活かす機会を失ってしまったという。今回、このホテルを選んだのは、募集要綱に書かれていた「国際交流好き」という文言に惹かれたからだという。
▼富山から「おてつたび」を通じてやってきた立塚有里子さん

「英語は15年以上を使っていないので、引き出しの奥でホコリをかぶっていたみたいになっていました。それが価値のあるものに変わるのが『おてつたび』のいいところ」(立塚さん)
(2)事業者よし~人手不足、後継者不足も解消!?
奈良県の吉野川沿いにある川上村。これといった観光資源はなく、過疎化が進む一方だ。
140年以上続く老舗旅館「朝日館」を切り盛りしているのは辻󠄀芙美子さんと晋司さん親子。女将の芙美子さんは「息子は大阪でずっと一人暮らしをしていて、地元に帰っても彼女なんかできないよと言っていたんです」と言う。
▼老舗旅館「朝日館」今では夫婦二人三脚で旅館を支えている

そこで2023年から働く艶弥さんは「おてつたび」を利用してまず2週間、働いた。
「出身は沖縄で『朝日館』で募集があったので応募をして、沖縄に帰るまで日数があったので、もう1回晋司さんに会えないかなと思って連絡して……」(艶弥さん)
その後、晋司さんと親しくなり交際に発展。2023年に結婚し、艶弥さんは若女将となり、今では夫婦二人三脚で旅館を支えている。
▼「こんな出会いをさせていただいて、本当にありがたいです」と語る芙美子さん

「おてつたび」を利用したことで繁忙期の人材を確保することができ、女将の後継者まで見つかったというわけだ。
「こんな出会いをさせていただいて、本当にありがたいです」(芙美子さん)
(3)地域よし~移住で街が元気に
徳島・鳴門市にあるいちご農園「フルーツガーデンやまがた」は「おてつたび」の利用者を受け入れている事業者の1つ。作業をする60代の川端学さんは京都で教師を務めていたが、2023年に定年退職。「おてつたび」を利用してここにやってきた。
「どこかいいところに第二の人生の家を構えたいと思って探しています」(川端さん)
移住先を探しているという川端さんの元へ来たのは鳴門市商工政策課の藤瀬藏さん。移住の促進を担当しており、鳴門市の魅力をアピールした。
鳴門市は「おてつたび」と連携し、利用者や事業者をさまざまな面でサポートしている。例えば、宿泊施設を持っていない事業者には市の施設を無償で提供している。
「鳴門教育大学の職員宿舎で、移住関係の事業に活用させていただいています」(藤瀬さん)
室内には電子レンジや冷蔵庫なども完備されているから手ぶらでやってきてもOK。ちょっとした移動に便利な自転車も無料で貸し出している。
「30代、40代、50代になって、次の生き方を探している方は多いと思うんです。交流をもっとしていけたらいいと思います」(鳴門市商工政策課・藤瀬さん)
そんな鳴門市のサポートを受け実際に移住したのが藤井隆行さん。以前は都内の大手製紙会社に勤務していたが、2023年に「おてつたび」を利用して鳴門市の名産、らっきょうの農家で2週間ほど働いた。
「どういうキャリアができるのか考えて、引っ越すことに決めました」(藤井さん)
▼「どういうキャリアができるのか考えて、引っ越すことに決めました」と語る藤井さん

早期退職した藤井さんは、鳴門市に移住し、らっきょうを販売する会社を起業した。ハーブを使ったピクルスやらっきょうの食感をいかした餃子など、さまざまなオリジナル商品を開発。市内の店舗で売り出している。
「おてつたび」をきっかけにして、地域に新たな可能性が芽生えているのだ。
「どこそこ?」が起業の転機~無名の地域にスポットを!

名古屋市で育った永岡。幼い頃、長期の休みの楽しみは祖父母の家がある三重・尾鷲市へ行くことだった。
「すごく覚えているのが、いつも(尾鷲から)帰る時に『帰りたくない』と思うぐらい、特別な場所でした」(永岡)
ところが、進学した千葉大学で同級生に大好きな尾鷲について話した時、「どこそこ? 何か有名なものってあるの?」と言われた。
「第三者から見られた時にその魅力が伝わっていなかったり、自分もうまく伝えられないもどかしさがあった」(永岡)
大好きな尾鷲の魅力をうまく伝えられない自分が歯がゆかったという。
転機は25歳の時。官民連携の事業に携わり、全国を飛び回ることになった。その中で、尾鷲のように、知られていないだけで魅力的な地域がたくさんあると知った。
そうした場所に興味を惹かれた永岡は思いきって会社を辞め、住んでいたマンションも解約。1人で夜行バスを乗り継ぎ、有名ではない地方の町や村ばかりを巡った。
すると、そのような地域に人が集まらない原因が見えてきた。
「観光名所がない地域の魅力というのがまだネット上に落ちていないことも多いので、そこの地域でどう楽しんでいいかがイメージが湧かないんです」(永岡)
知られていない地域はインターネットにすらほとんど情報がないため、そもそも観光先として選択肢に上がりにくい。人が来ないと地域は元気を失い、より一層、情報が少なくなるという負のスパイラルに陥ってしまう。
「知ってもらうことも大事ですけれども、一方で地域の人も助かる形で知ってもらうこと、お互いがウインウインになるかたちをつくる必要があるのかなと」(永岡)
永岡が思いついたのは、知られていない地域へ「働きに行く」という動機付けをすること。アルバイトと旅を掛け合わせることで、地域に人が集まり、人手不足も解消できると考えたのだ。そして2018年、「おてつたび」を創業する。
まず取り組んだのが、受け入れ先となる事業者を探すこと。地方の旅館や農家など、片っ端から連絡を取ってみたが、門前払いが続き、100軒以上の事業者に断られた。
くじけそうになった永岡に救いの手が。長野・山ノ内町、志賀高原にある温泉旅館「癒しの宿幸の湯」が受け入れてくれた。
この旅館で1回目の「おてつたび」が行われた際には、永岡も利用者にまじって参加。自ら率先して、誰よりも宿の仕事に励んだという。
「必死でしたよ。『私がやる』と、参加者より頑張る。永岡さんは必死でした」(「癒しの宿幸の湯」・井戸聞多さん)
▼「言葉だけだと伝わりきらないことはあると思います」と語る永岡さん

自ら熱意を見せることで関係性を築いた。
「言葉だけだと伝わりきらないことはあると思いますし、やはり実際に見てもらったり、試してもらったりするほうが伝わるのかなと思います」(永岡)
こうして地道に協力してくれる事業者を増やしていった永岡。今ではその規模を全国1,900軒以上にまで拡大している。
人口減少が著しい日本の離島~三宅島を盛り立てよう!
「おてつたび」の新規の受け入れ先を開拓している少数精鋭の営業部隊。現在、特に力を入れて事業者を探している地域があるという。
伊豆諸島の東京・三宅島は力を入れている新たな開拓先だ。足を運んだ営業部隊の尾花理絵は「突破口というか、皆さんにちょっとお話を伺いながら何か見つけられたらなと思います」と言う。
実は三宅島は「未来の日本の地方を映し出す場所」と言われている。島の人口はピーク時から半数以下まで減少し、高齢者の割合は全国平均よりも1割多い約40%(※2020年、総務省「人口推計」及び住民基本台帳より)。この数字は今から45年後の2070年に予測されている全国平均とほぼ同じ。そんな離島を活性化させることが、未来の日本の地方を救うヒントになると考えられているのだ。
尾花が向かった民宿「姉妹」の主人、佐々木勝さんは人手不足に頭を悩ませていた。
「(島内で募集して人が来ることを)僕は聞いたことがない。どこに募集すればいいのかもはっきりは分からないところがあります」(佐々木さん)
そんな状況でも、夏の観光シーズンに向けて人手は必要と、「おてつたび」に興味を持ったという。
▼夏の観光シーズンに向けて人手は必要と「おてつたび」に興味を持ったという

労働力が確保できなければ、やりたくても事業を続けることはできない。別の民宿「つくば」も、すでに営業するのが厳しい状況になっていた。
「稼働をさせたいけれども、人手が不足していて……」(「つくば」・筑波恵美子さん)
慢性的な人手不足は、島の地場産業である、あしたば農家でも起きていた。40年近く農家を続ける「西野農園」の西野直樹さんの作業を尾花も体験。出荷前に加工しやすいよう収穫したあしたばを乾燥させる。数時間おきにかき混ぜる必要があるという。一度に300キロのあしたばを乾燥させるのはかなりの重労働だ。
▼「やってみることで募集ページに反映させられることはあるなと思いました」と語る尾花さん

「やってみることで募集ページに反映させられることはあるなと思いました」(尾花)
こうして、地道に1軒ずつ回り、島の課題を肌で感じることを大切にしているのだ。
農家には宿泊施設がないところが多いという問題もある。そこで尾花が向かったのは「ホテル海楽」。支配人の関健太郎さんに、空いている客室や従業員の寮を格安で事業者に貸し出せないかと提案した。問題が見つかればすぐに解決策を探るのが「おてつたび」の営業の鉄則だ。
「協力させてもらいます」(関さん)
三宅島の課題に取り組むことが日本の何より地方の明るい未来へとつながる。
「実際に目で見て、実際に会うからこそ話せるお話とかもあると思っているので、とてもよかったです」(尾花)
今後も離島での取り組みを広げていくつもりだ。
※価格は放送時の金額です。
~村上龍の編集後記~

27歳のとき、2社目を退職したが、自分だけ道から外れてしまうような恐怖があったらしい。定期的な収入もなくなる。自宅も引き払った。夜行バスを乗り継いで、全国を回った。1人だった。だが、環境が変わった。起業している人が身近に思えた。
最初に出会ったのが長野県上田市のトマト農家、夏の農繁期には朝5時から夕方6時までぶっ通しで働く。人手不足を肌で感じた。人手不足というのは、人と人が出会えるチャンスになる。2018年、起業。「夏休みは旅行?それとも『おてつたび』?」そう聞かれる日が必ず来る。