カンブリア宮殿,平成自動車交通
(画像=テレビ東京)

この記事は2025年4月24日に「テレ東BIZ」で公開された「新たな旅の楽しみ方 第1弾 幸せを徹底追求!異色バス会社」を一部編集し、転載したものです。

目次

  1. バス会社が仕掛ける人気ツアー~スリル体験&寿司職人出張サービス
  2. 客満足の仕掛け~独自開発バス&自前の施設でおもてなし
    1. 常識破りのバス会社1~豪華&快適!独自開発バス
    2. 常識破りのバス会社2~お客のためなら何でもつくります
  3. 奮起のきっかけとなった言葉~業界の常識を破って大逆転
  4. 「ずっと働いてほしい」~社員を幸せにする会社づくり
  5. ~村上龍の編集後記~

バス会社が仕掛ける人気ツアー~スリル体験&寿司職人出張サービス

午後8時の東京駅の駅前に、派手なペイントの入った車高3.8メートルの2階建てバスが停まっていた。屋根がないオープンカースタイルのバスでトンネルや高架下、高さギリギリの道を通る「激走!!首都高スリル体験ツアー」だ。料金は60分で1,800円。スリル満点で夜景も楽しめると口コミで人気が広がっている。

▼屋根がないオープンカースタイル「激走!!首都高スリル体験ツアー」

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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一方、午前7時半に新宿を出たバスは、約1時間半で栃木・足利市の「あしかがフラワーパーク」に到着した。今が盛りの花々を満喫すると、お昼に到着したのは埼玉・加須市の昼食会場だ。このツアーは寿司職人が現地に出張、朝、豊洲で仕入れた新鮮なネタを目の前でさばき握ってくれる。しかもおかわり自由の食べ放題だ。

▼「埼玉・加須市の昼食会場」寿司職人が現地に出張、おかわり自由の食べ放題だ

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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さらに会場の隣のビニールハウスではいちご狩りができ、こちらも食べ放題。この後には川越の散策がついた「出張寿司職人&いちご狩り食べ放題ツアー」は1万7,800円だ。

こうしたユニークなツアーを実施しているのが、バス会社の平成エンタープライズ。イチゴ農園は自社で運営している。

▼「出張寿司職人&いちご狩り食べ放題ツアー」イチゴ農園は自社で運営している

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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社長・田倉貴弥(59)は、競争の激しいバス業界にあって斬新なアイデアで注目を集める業界の革命児だ。

「バス会社の領域を超えた広いサービスをお客様に楽しんでいただきたい」(田倉)

埼玉・志木市に本社を構え、従業員1,350人、売り上げは約96億円(※グループ全体)。貸し切りバス事業の売上高では2023年、全国1位に輝いた。(帝国バンク調べ)そんな会社を一代で築いたのが田倉だ。

「バス会社ですけど、バス会社だけではいたくない。新しい楽しい会社にしたいと思っているんです」(田倉)

客満足の仕掛け~独自開発バス&自前の施設でおもてなし

常識破りのバス会社1~豪華&快適!独自開発バス

平成エンタープライズは約600台のバスを所有している。ツアー用の大型バスから送迎用のマイクロバス、さらにはワゴンタイプまで全部で27種類ある。バスを愛する田倉のアイデアが生きるオリジナルのバスだ。

▼平成エンタープライズは約600台のバスを所有している

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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特に田倉が自信を持って勧めるのが「VIPライナー」と名付けた夜行バス。3列シートが特徴だ。通常の4列シートに比べ座席が大きく、隣の人ともしっかりと距離が取れる。さらに「夜行バスは眠れない」というお客さんの声に応え「眠れるシート」になっている。140度までリクライニングできるようにした。

「動くビジネスホテルとして、皆さまに快適に移動してほしいんです」(田倉)

夜行バスの「VIPライナー」では、業界でも珍しい女性専用車もつくった。

佐々木玲奈さんは東京のイベントに参加するため、大阪の難波から乗車した。車内はピンクを基調にしたかわいい雰囲気だ。座席は疲れにくい低反発素材でブランケットなども完備している。佐々木さんは今回初めて利用し、隣の席との間のカーテンや腰用のクッションに感心していた。料金は大阪~東京間で時期にもよるが4,300円からとなっている。新幹線に比べてかなりお得だ。

午後11時、佐々木さんが下ろしたのは座席についているフードだ。これで他人に寝顔を見られないし、スマホを使っても、周りに明かりが漏れない。

▼座席についているフード、周りに明かりが漏れない

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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客に快適に過ごしてもらうため、田倉はアイデアを練り上げさまざまな形のバスに進化させた。

「それぞれのバス自体のリピータ―になってもらう。ステーキ屋さん、寿司屋さんのように、違う店みたいな感じです」(田倉)

常識破りのバス会社2~お客のためなら何でもつくります

京都観光に訪れた外国人客の一行。田倉も添乗した。

昼に立ち寄ったのは風情ある和風の「京都食事処わさび」。振る舞われるのは神戸牛のしゃぶしゃぶだ。ここは平成エンタープライズがツアー客のためだけに運営している店舗だ。

「普通、団体用の施設は、たくさんテーブルが並んでいて、バスがどんどん来る。それだとベルトコンベアーのような旅行を味わっているようで感動が少ないなと」(田倉)

この他にも観光施設やホテルなど自社の施設を全国9カ所で運営。「バス会社らしからぬバス会社」と言われる所以(ゆえん)だ。

富士山の絶景が一望できる山梨・富士河口湖町に新たに始めようとしている物件がある。55年続いたが2023年に閉業した昔ながらの民宿だ。後継者がなく、田倉が引き継ぐことになった。立ち行かなくなった物件を再生させ、観光地との共存共栄を目指す。

元オーナーの梶原篤さん(78)も「現状で残してくれて前の形があることが一番ほっとした」と喜ぶ。

常識破りの戦略を次々に仕掛ける田倉だが、根底にあるものは変わらない。

「そのバスにお客さんが乗ったら、値段よりも評価が上位にならないとダメ。常に走って、気になることは改善して、皆さんに喜ばれるようにしていきたいと思います」(田倉)

奮起のきっかけとなった言葉~業界の常識を破って大逆転

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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平成エンタープライズの歴史は埼玉・三芳町のプレハブ小屋から始まった。田倉がバス事業に打ち込んだのは、子どもの頃のある思いからだった。

「バスって、子どもの時の遠足もそうですが、どこに行くか分からない。『日光』と言っても分からないけど、楽しいところに連れて行ってくれる。バスは夢の世界に連れて行ってくれる乗り物なんです」(田倉)

1965年、東京・東大和市で5人兄弟の次男として生まれた田倉。父は三つの会社を経営し、裕福な家庭だったという。

ところが田倉が16歳の時、父が保証人になっていた会社の社長が亡くなり、借金を肩代わりすることに。これでほとんどの会社を失ってしまう。

「母親に『お父さんの会社が倒産したけどどうする?』と言われました。『学費が高いのよ、あなたの学校』と。それで『学校やめていい?』と聞いたら『やめてくれるの?』と言われ、学校をやめて終わり、みたいな」(田倉)

高等専門学校を2年で中退した田倉は宅配や外車販売などで稼ぐ。自らも高級外車を買って乗り回していた。22歳の時に愛車のジャガーを売り、中古の大型バスを購入。1人で観光ツアーのバス運転手を始める。

「すごく楽しかったですね。お客さんの思い出の旅行に付き添わせていただき、いろいろな場面が見られて本当に面白かったです」(田倉)

天職を見つけた田倉は1992年、前身となる「平成自動車交通」を設立。旅行会社から仕事をもらう形でバスの事業を拡大していく。

そんなある日、大きな転機が訪れる。旅行会社に営業に出向くと、「バス会社はどこでもいい」と言われたのだ。

「僕らも(旅行会社と)同じことはできますよと。バス会社をなめちゃいけない。何かを変えて、必ず『お願いします』と言わせたかったですね」(田倉)

▼「バス会社をなめちゃいけない。」と語る田倉さん

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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これをきっかけに田倉は旅行業務の免許を取得。自社でツアーを企画し、実施できるよう態勢を整え、売り出した。さらに、旅行業界の常識にもメスをいれていく。

「旅行会社はだいたい3~4カ月に1回、パンフレットを出すんです。その当時、社員に『ハワイに行った人はいつ予約するか知ってる?』と言ったんです。ハワイから帰ってきたらすぐ予約する。いい旅行だったら来年も予約する。旅行業の常識は非常識。お客さんを見てない」(田倉)

サービスの全てに客目線を徹底した。その象徴とも言える場所が東京駅の近くにある。

ビルの3階には休憩できるスペースや多くの化粧台が並ぶパウダールーム、さらには着替えのできるコーナーもある。

▼多くの化粧台が並ぶパウダールーム、着替えのできるコーナーもある

カンブリア宮殿,平成自動車交通
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ここは夜行バスの発着場所の近くに作ったラウンジ。バスに乗る前や到着した後、客が一息ついて身支度を整えるための場所として作った。

「夜行バスに乗るお客さんが降りた後に何をするのか、いろいろと聞き込みをしたんです。それで『どこで着替える?』と聞いたら『駅のトイレ』と言う。自分でやってみたら大変です。そんなところで着替えさせてはダメだと思って」(田倉)

ラウンジは全国に5カ所。時には長蛇の列ができることもある。ヘアアイロンなどの美容家電も各種そろえ、無料で貸し出している。海外の高級ブランドのコスメも無料で使える。

その便利さが、女性客から圧倒的に支持されている。

「ずっと働いてほしい」~社員を幸せにする会社づくり

田倉は、いろいろな営業所の従業員との懇親会を定期的に開催している。社員からは「元気なうちはずっと働きたい」「社長から『ずっといていい』と言われた」という声が上がる。

また、別の日には自社農園で作ったイチゴを従業員にプレゼントした。こうしたプレゼント会のようなイベントが頻繁に行われている。「社長がプライべートや仕事で行った時のお土産をいただくこともあって、それも含めると月に1回ぐらいある」と言う。

従業員のことを大事に考える田倉。そこで働く人たちの平均年齢はかなり高めで、半数は60歳を超えている。

小平営業所に勤務する江森清は80歳だ。以前はドライバーとして働いていたが、今は車椅子の子どもを学校に送迎するバスの補助員を務めている。

さまざまなバスとそれに付随する幅広い仕事があるので、高齢者も働きやすい。ドライバーはリタイアした江森だが、この仕事にやりがいを感じていると言う。

「子どもが好きで子どもと接していられる。『お願いします』と言われると、頑張ってやらないと、という気も起きます。元気なら年寄りだろうと若い人だろうと関係ないと会社は見ていると思う。もう少し働きたいです」(江森)

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

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新車のジャガーを売って、中古のバスを買った。大きな車が好き。車の運転が好き。人が好き、いろいろな場所に行くのが好き。楽しい観光地を客といっしょに巡りたい。関係するたくさんの人を幸せにしたいという思いが力となり、21歳で大型2種を取得。22歳でバス1台を買い、起業。

「高速バスで移動するって、新幹線には乗れない可哀想な人たちに見える」。ラウンジを作る。バス発車時刻まで待つ場所がなかった客に、パウダールーム完備の待合室ができた。今ではバス600台を誇る。無敵のバス会社に成長した。

<出演者略歴>
田倉貴弥(たくら・きみ
1965年、東京生まれ。1987年、中古バスを購入、インバウンド送迎を始める。1992年、平成自動車交通設立。