本記事は、内藤 誼人氏の著書『戦略的に24時間を自分のために使う 大人の時間術』(総合法令出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

仕事をさっさと片づける人の共通点
仕事のやり方として、約束の期日よりもずっと早く、さっさと片づけてしまうタイプの人もいれば、逆に、いつまでもダラダラして取りかからず、締切間際にならないとやる気が出ないタイプの人もいます。
物理学者でもあり、随筆家や俳人でもあった寺田寅彦さんは、執筆の依頼があると、すぐに作業に取りかかり、締切よりもずっと前に原稿を仕上げていたそうです。
そして、約束の日に編集者が原稿を受け取りに来ると、とっくに完成していた原稿を渡していたといいます(外山滋比古『文章を書くこころ』PHP文庫)。
仕事をさっさと片づける人と、それができない人には、どのような違いがあるのでしょうか。
心理学的にいうと、その違いは、時間に対する意識です。
米国ラトガース大学のケント・ハーバーは、167人の心理学部の学生を対象に、時間に対する意識と作業を終えるスピードについて検証しています。
アメリカの心理学部では、コースの一環として心理学の実験に参加することが求められます。
自分でも実験をしますが、まずは他の人の実験の被験者になることを要求されるのです。実験に参加しないと、単位はもらえません。
ハーバーは学生たちに実験のリストを見せ、「好きなものを5つ選んで、実験に参加するように」とお願いしました。また、時間に対する意識も調べ、未来志向タイプと、現在志向タイプに分類しました。
その結果、未来志向タイプの人は、学期の最初のほうに予定されている実験を選び、さっさとこなしてしまう傾向があることがわかりました。
現在志向の人は、その反対に、学期の後半に予定されている実験を選ぶ傾向がありました。
未来志向の人は、仕事をさっさと片づけます。
「どうせやらなきゃいけないことなら、早いうちに終えてしまったほうがスッキリする」と感じるのでしょう。実験参加がコースの義務なのであれば、そういうものはなるべく早く片づけたほうがいいに決まっているではないか、と未来志向の人は考えます。
ところが、現在志向のタイプは、腰が重くて、なかなか動き出しません。
「実験の参加なんて面倒くさいなあ、イヤだなあ、やりたくないなあ、どうにかならないものかなあ……」といった考え方をして、何でも後回しにしてしまうのです。
仕事ができる人は、未来志向だといってよいでしょう。
何でもホイホイとすぐに片づけようとするのは、だいたい未来志向タイプです。
将来のことを考えた行動を取るので、面倒なことでもさっさと取り組み、さっさと片づけてしまうのです。
将来を考えるからこそ、今動ける
私たちが一生懸命に働くことができるのは、将来のことを考えるからです。
定年退職を迎えても生活できるように、安心できる老後を過ごせるよう、今から貯金しておきたいと思うからです。
将来のことなどまったく何も考えない人は、仕事への意欲も出てこないでしょう。
明日のことなんてどうでもいい、とにかく今日生きていけるだけのお金さえあればよい、と考えている人は、今日の暮らしができるだけのお金があれば十分ですし、「さらに働こう」という気持ちにはならないでしょう。
イソップ寓話のひとつに『アリとキリギリス』というお話があります。
現在志向のキリギリスは、今日が楽しければよいので、歌って踊って暮らしています。アリのほうは未来志向です。冬になっても困らないように、せっせと食料を蓄えようとします。未来志向だからこそ、将来のために行動できるのです。
メキシコにあるソノラ大学のビクター・コラル=ヴェルデュゴは、男性140人、女性160人に、ジンバルドー時間的展望尺度(ZTPI)を受けてもらいました。
また、どれだけ水資源を大切にして生活しているかも聞きました。
その結果、未来志向と分類された人ほど、節水に気をつけていることがわかりました。皿洗いをするときや、歯みがきをするとき、あるいはシャワーを浴びるときに、できるだけ水を大切にしよう、という行動を取っていたのです。
限りある資源を大切に使おう、という気持ちを持つためには、未来志向でなければなりません。未来志向だからこそ、子どもたちのために、あるいは孫、あるいはもっと未来の世代のために、今のうちから地球を守る行動を取ろうという気持ちを持てるのです。
私たちは、ともすると「自分だけがよければそれでよい」というワガママな発想で行動してしまいます。そういう自己中心的な人は、世界中でますます増えています。
これでは大切な地球を守ることはできません。
アメリカのトランプ大統領は、「アメリカさえよければそれでよい」というアメリカ・ファーストの考えの持ち主ですが、そういう考えを持つ人は、トランプ大統領だけでありません。どこの国でも、そういう考えの人が増えているような印象を受けます。
将来に目を向け、将来の世代のために行動ができる未来志向の人が増えてくれればいいな、と私は願っています。

慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。
趣味は釣りとガーデニング。
著書に『世界最先端の研究が教える新事実心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる! 暗示大全』『「人たらし」のブラック心理術』(すばる舎)、『人と社会の本質をつかむ心理学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
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