本記事は、戸田 久実氏の著書『すごいフィードバック~心が動き、行動が変わる!』(かんき出版)の中から一部を抜粋・編集しています。

すごいフィードバック~心が動き、行動が変わる!
(画像=Vitalii_Vodolazskyi/stock.adobe.com)

ポジティブフィードバックをしたら過度に謙遜された

ポジティブフィードバックをうまく受けとめられない人もいる

相手を勇気づけようと思い、ポジティブフィードバックをしたら、
「いえいえ、わたしなんてまだまだですから…」
「そんなことないです! たまたまできただけです…」
「Hさんがいたからです。わたしではないです…」
と過度に謙遜されて戸惑ったという人もいます。
なかには、
「わたしにそんなに気を遣わなくてもいいんですよ。かまわなくても大丈夫ですから」
と相手に言われてしまい、そこまで否定しなくても…と戸惑ってしまったという人もいます。
これまでにもお伝えしたように、ポジティブフィードバックをうまく受けとめられない人や、どう受けとめていいのかわからない人が一定数いるのも事実です。
ここで、研修先で聞いた事例を一部ご紹介しましょう。

  • 「謙遜は美徳」という言葉があるので、「ありがとうございます」と言って受けとめてしまうと、図々しいと思われるのではないかと不安になる
  • 言われ慣れていないので、恥ずかしさと照れくささで、どう受けとめていいかわからない
  • 自分としては、まだまだ認めてもらうには至らないという思いもあるので、「そのまま受けとめていいものか…」と戸惑いがあった

いかがでしょうか?
なかには、ポジティブフィードバックをこのように感じる人もいるのです。
「せっかくよいところを伝えたのに…」と感じている人は、相手に率直に、
「Kさんがしてくれたこと、できている事実を伝えているので、そのまま受けとめてほしいんだ。本当に助かったよ(チームのみんなが感謝しているよ)
というところまで伝えるのもいいかもしれませんね。

「インポスター症候群」という認知バイアス

「インポスター症候群」をご存じですか?
インポスター症候群とは、日々の仕事や業務面で成功して、周囲から良好な評価をされているにもかかわらず、自分自身を過小評価して否定的にとらえてしまう心理傾向のことです。
「これは自分の能力や実力ではなく、運がよかっただけ」「周囲のサポートがあったからにすぎない」と思い込んで、自分を卑下する言動が多くなると言われています。

インポスター症候群に該当する人は、意外と多く存在します。自己評価を歪める認知バイアスのひとつで、いいフィードバックをした際に、無意識に、
「いや、わたしなんてそんな…。たまたまなだけで、ほめられるに値しないので…」
といったトーンでとっさに言い返してしまうのです。
また、昇進オファーがあったときに、
「わたしなんて、まだ無理です」
「わたしなんかより、ほかの人がいいです」
といった発言をすることもあります。

インポスターは、本来「詐欺師」という意味の言葉です。
ほかの人から見ると十分に能力があり、成功を収めているにもかかわらず、
「成功したのは運がよかったからだ」
と自分のことを詐欺師のように感じて自信を持てないところから、インポスター症候群と名付けられたと言われています。

「インポスター症候群」は成功者にも見られる

インポスター症候群は多くの成功者にも見られる症状で、実際にその経験を開示している著名人もいます。
映画「ハリー・ポッター」シリーズの、ハーマイオニー役のエマ・ワトソンさんは、「いい仕事をすればするほど、わたしはそんなにほめられる資格はない、という気持ちが増幅していった」と語っています。
元アメリカ合衆国ファーストレディのミシェル・オバマさん、アカデミー賞を受賞した俳優トム・ハンクスさんなどもインポスター症候群について公にしています。

自分を過小評価する人たちには、無理にほめ言葉を受けとめさせようとするのではなく、その人が納得して受けとめられるように、
「こういうところで、あなたのことを評価しているよ」
「Oさん、こういう意味であなたのことを評価しているから、ただまっすぐ受けとめていいんだよ」
と、具体的な実績を伝えるというのもおすすめです。
また、伝えるときは、
「チームのみんなが、Oさんのプレゼンのおかげで、今後の方向性が明確になったと言っていたよ」
と、まわりにどのような影響を及ぼしたのか、あなたのしたことはまわりから認められる成果なのだと実感できるように明確に伝えるのもいいでしょう。
「Nさんがこうしてくれたことが嬉しくて、ひと言伝えたかった」
「感謝の思いも込めて、Rさんに伝えたかった」
と感謝を改めて伝えてみるといいかもしれません。

相手が過度な謙遜や否定的な反応を続けても、繰り返し根拠を示しながら日常的にポジティブフィードバックをし続けましょう。
それによって、まわりの雰囲気も明るくなり、チーム全体で自然と認め合う文化が育まれていきます。

すごいフィードバック~心が動き、行動が変わる!
戸田 久実(とだ・くみ)
◎-アドット・コミュニケーション株式会社代表取締役、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会代表理事。
◎-立教大学文学部卒業後、株式会社服部セイコー(現セイコーグループ株式会社)にて営業職に就く。その後、音楽業界の企業にて社長秘書を経験。2008年、アドット・コミュニケーション株式会社を設立。2015年、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会の理事に就任、2024年より代表理事を務め、協会運営とアンガーマネジメントの普及に尽力している。
◎-銀行、製薬会社、総合商社、通信会社などの大手民間企業や官公庁で講演、研修講師として活躍。受講者は新入社員から管理職までと幅広い。講師歴30年以上、登壇数は4,500回を超え、指導人数は25万人に及ぶ。
◎-おもな著書に、『アンガーマネジメント』『アサーティブ・コミュニケーション』『アクティブ・リスニング』(日経文庫)、『イラスト&図解コミュニケーション大百科』『アンガーマネジメント怒らない伝え方』『アドラー流たった1分で伝わる言い方』(かんき出版)、『働く女の品格』(毎日新聞出版)など多数。中国、韓国、タイ、台湾でも翻訳出版され、累計25万部を超える。

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