この記事は2025年8月22日に「きんざいOnline:週刊金融財政事情」で公開された「関税ショック一服の銅価格、今秋に1トン=9,000ドル割れも」を一部編集し、転載したものです。

この半年間の銅価格は、近年まれに見る不安定な状況が続いた。まず、米ニューヨーク商品取引所(COMEX)では、関税措置を巡って価格が乱高下した。発端は、2月にトランプ米大統領が、米通商拡大法232条に基づき、銅輸入を巡って安全保障上の影響を判断するための調査を米商務省に命じたことだ。米国では精製銅が金属製品の原材料として生産されているが、国内生産だけでは圧倒的に供給が不足している。
米地質調査所のデータによれば、2024年における米国の精製銅消費量は157万トンで、そのうち約91万トンが輸入に依存している。それ故、供給不足の財に対して関税が課されることに懐疑的な見方もあった。
だが、鉄鋼やアルミニウムに対して関税が導入され、6月にはその税率が25%から50%に引き上げられたことで、市場の緊張感が高まった。特に、精製銅と同様に輸入依存度の高いアルミニウムにも関税が課されたことが、銅への波及をより意識させた。
米商務省の調査結果の公表時期は不透明だが、遅くとも11月までには結論が出るとの見解も多く、アルミニウムと同様に銅にも50%の関税が課されるとの観測が広がった。7月にトランプ大統領が翌月から銅に関税を課す方針を表明すると、COMEXの銅価格は急騰。国際指標であるロンドン金属取引所(LME)の12月の引き渡し価格が、1トン当たり約1万ドルだったのに対し、COMEXの同価格は1トン当たり1万3,000ドルにまで達した(図表)。この時点で、市場は関税50%のうち、6割程度を織り込んだとみられる。
しかし、最終的に精製銅は関税賦課の対象から外れ、価格は急速に調整された。関税発動前に米国内に精製銅を持ち込んだトレーダーも少なくなかったようで、今年4月に10万トン程度だったCOMEXの銅在庫は、足元では26万トン超にまで膨らんでいる。トレーダーはヘッジを行った上で在庫を積み増すことで、大きな損失は回避されたとみられるが、期待していた収益機会は失われた。
COMEXで積み上がった銅在庫は、前倒しで輸入されたに過ぎないと考えれば、今後の米国の輸入は減速する可能性が高く、需給緩和が進むことも考えられる。しかも中国では、多くの銅を必要とする太陽光発電の新規設備導入が大幅に鈍化するとの見通しがある。関税による混乱で高止まりしていた銅価格に下押し圧力がかかり、今秋には9,000ドル台を割り込む可能性もくすぶる。
一方で、供給リスクによる価格の上振れがあるとすれば、それは鉱石不足によるものだろう。銅原料である鉱石が供給不足で精製銅を上回る価格で取引されているほど、足元で鉱石の供給はタイトな状況にある。

住友商事グローバルリサーチ チーフエコノミスト/本間 隆行
週刊金融財政事情 2025年8月26日号