「エースホテル」が約132億円で西武グループ傘下に グローバルでの250ホテル体制へ布石となるか
(画像=「セブツー」より引用)

西武ホールディングスは9月16日、グループ傘下のホテル事業会社である西武・プリンスホテルズワールドワイド(SPW)が、米国のライフスタイルホテルブランド「エースホテル(Ace Hotel)」を展開するエースグループ・インターナショナル(Ace Group International)の全株式を取得し、完全子会社化すると発表した。取得はSPWが米国に設立した新会社、エースホテルズ・ワールドワイド(Ace Hotels Worldwide Inc.)を通じて実施し、9月中に手続きを完了させる予定。取得総額は最大で9000万ドル(約132億円*)にのぼる見込みだ。

「エースホテル」は1999年、米国シアトルで誕生した新世代型ホテルブランドだ。北米や欧州を中心に8つのホテルを展開しており、宿泊機能にとどまらず、音楽やアート、デザインなどカルチャーを融合させた空間づくりで知られる。客室デザインやロビーの使い方などに独自の工夫が凝らされ、地域コミュニティやクリエイターからの支持も厚い。日本には2020年に「エースホテル京都」が進出。京都・烏丸御池の新風館を拠点に、国内外の旅行者や地元の若い世代から人気を集めている。

今回の買収により、西武ホールディングスは「エースホテル」の運営ノウハウやブランド力を取り込み、グローバル市場での競争力をさらに高める方針だ。背景には、コロナ禍を経て観光需要が急回復し、ホテル事業が再び成長局面に入ったという業界環境の変化がある。国内観光需要の回復に加え、訪日外国人旅行者(インバウンド)が過去最高水準に近づきつつあるなか、海外ブランドを自社の傘下に取り込む動きはグローバル展開を加速させるうえで大きな意味を持つ。

西武ホールディングスは「グローバルホテルチェーン化」を経営戦略の柱に掲げている。現在は国内外で86のホテルを運営しているが、長期的には250ホテル体制の構築を目指す。国内では「プリンスホテル」を中心に展開する一方、海外進出にも力を入れており、2025年以降にはベトナムやジャカルタ、タイ、エジプトへも展開する。観光需要が拡大するアジアや中東地域を重点エリアと位置づけ、事業規模の拡大を図っている。

一方で、ライフスタイル型ホテルの需要は世界的に拡大しており、ミレニアル世代やZ世代を中心に、単なる宿泊施設ではなく「体験やコミュニティ」を提供するホテルが選ばれる傾向が強まっている。「エースホテル」はその代表格ともいえる存在であり、西武グループが得意とするリゾート型ホテルや大型シティホテルと組み合わせることで、新たな顧客層の取り込みが期待される。特にデザインやカルチャーに敏感な層を呼び込むことができれば、グループ全体のブランド価値向上につながる可能性が高い。

今回の買収は、単なるホテルチェーン拡大にとどまらず、西武ホールディングスが目指す「多様な顧客ニーズに対応したグローバル展開」の象徴的な一手といえる。国内外の競合も同様に海外市場でのポジション強化を急ぐなか、カルチャー発信力のあるブランドを自社に取り込むことで、差別化戦略を打ち出そうとしている。観光業界の回復を追い風に、「エースホテル」のユニークな魅力と西武グループの運営力がどのように融合するのか、今後の展開に注目が集まりそうだ。