今回登場するのは、プラント解体工事の専門企業、ベステラ株式会社の代表取締役社長、本田 豊氏だ。1974年、金属スクラップの売買を前身とする同社は、1974年に設立し、今やプラント解体業界で独自の地位を築き、業界全体のイメージ向上をも牽引する存在となった。その成長の裏には、他社の追随を許さない「技術力」と、業界の常識を覆す「持たざる経営」があった。
創業から現在に至るまでの軌跡、そして1兆円市場を見据えた今後の挑戦について、本田社長に深くうかがった。
目次
スクラップ拾いから始まったプラント解体事業
── 創業から50年以上の歴史がおありなんですね。
本田 もともとは、現会長の吉野が金属のスクラップ集めから始めた会社です。1974年のことですね。当時はより良いスクラップを手に入れるにはどうすればよいかと考え、その答えがプラントにあると。そこで、プラント解体工事の現場に作業員として入り、銅の含有率が高い変圧器など、価値のあるスクラップを見極めて入手するという目的で事業がスタートしました。
しかし、工事に携わるうちに、解体工事そのものの面白さに魅了され、創業から早い段階でプラント解体工事の専業へと舵を切りました。解体工事会社は数多くありますが、ビルや橋梁などとあわせて手がける会社がほとんどで、当時からプラント解体を専門とする会社はきわめて珍しい存在でした。
独自工法の開発がもたらした飛躍
── プラント解体専業として、どのように成長のきっかけを掴んだのでしょうか。
本田 創業からしばらくは、数名の社員で下請けの下請けのような仕事もこなす、いわゆる「何でも屋」でした。大きな転機が訪れたのは、バブル期を少し過ぎたころです。会長が球体タンクの画期的な解体方法である「リンゴ皮むき工法」を考案したのです。
この独自工法が生まれたことで、状況は一変しました。当時、大阪ガスさんから「ぜひその工法でお願いしたい」と直接お声がけをいただき、契約に至ったのです。この経験を通じて、「工法が優れていれば、選ばれる存在になれる」ということを痛感しました。そこから特許取得にも力を入れ始め、技術力を武器に戦うという現在の当社の礎が築かれました。
業界の地位向上のために。上場という挑戦
── 2015年にマザーズ上場、2017年には東証一部(当時)への市場変更を果たされています。上場を目指された背景にはどのような思いがあったのでしょうか。
本田 会長が60歳を過ぎた2000年代初頭に「上場したい」と思い立ったのがきっかけです。当初は、ゴルフでシングルになる、マラソンを完走するといった個人的な目標の一つだったようですが(笑)。私が2009年に入社したころには、その目的はより明確な経営戦略へと変わっていました。
大きな目的は二つあります。
一つは「業界の地位向上と優秀な人材の獲得」です。残念ながら、解体工事業界は社会的な地位が高いとは言えません。大学に専門の学部はなく、映画などでは半社会的な勢力の就職先として描かれるようなネガティブなイメージもつきまといます。しかし、資源を効率的に循環利用するサーキュラーエコノミーや脱炭素社会の実現に不可欠な「静脈産業」の担い手であるというプライドを持っています。この重要な業界に優秀な人材を惹きつけるためには、まず業界のイメージを向上させる必要がありました。そのための手段として、上場は不可欠だと考えたのです。
もう一つの目的は「元請けとしての地位を確立すること」です。プラント解体工事は、建設やメンテナンスを手がけてきた企業を介して発注されることが多く、いわば中間マージンが発生する構造が一般的でした。これでは利益率が圧迫されるだけでなく、解体工事の専門家としての意見も通りにくい。私たちは、解体側の論理で安全かつ効率的に仕事を進めるためにも、発注者と直接契約する「元請け」のポジションを確立する必要がありました。
しかし、当社の顧客である製鉄、ガス、電力といった企業は歴史ある大企業ばかりです。そうした企業から信頼を得て直接取引をしていただくためには、上場企業という社会的な信用力がどうしても必要だったのです。
技術力と“持たざる経営”。ベステラならではの強み
── 競合ひしめく中で、他社にはないベステラの強みはどこにあるとお考えですか。
本田 最大の強みは、やはり「技術力」に尽きます。解体工事業界で特許をいくつも取得している会社は、まずありません。この特許は、単にライセンス収入を得るためではなく、私たちの技術力を客観的に証明する何よりの証しとなっています。
また、お客様からは「ベステラに頼めば何でもやってくれる」という「ワンストップサービス」の点も評価いただいています。解体工事では、予期せぬ有害物質が出てきたり、複雑な法規制への対応が求められたりすることがあります。私たちはそうした課題すべてに対応しますし、発生するスクラップも、金属分析器を用いてニッケルなどの含有量を正確に分析し、正当な価値で売却することで工事費用に還元します。これは、お客様の利益にもつながる重要な強みです。
そして、ビジネスモデルとして特徴的なのが「持たざる経営」です。多くの解体工事会社が自社で重機や職人を抱えているのに対し、私たちは計画・管理に特化し、実行部隊は外部の協力会社にお願いしています。これにより、固定費や資産保有のリスクを回避し、プラントという特殊で複雑な現場の施工管理に経営資源を集中させることができます。これも他社には真似のできない、高い参入障壁になっていると考えています。
── その強みを支える「人」の面では、どのような工夫をされていますか?
本田 建設業界全体が深刻な人手不足と高齢化に悩むなかで、当社は採用に成功していることが大きな強みです。社員の平均年齢は30代と非常に若く、これは同業他社が60代中心であることと比べると際立っています。
特別なことをしているわけではなく、当たり前のことを当たり前にやっているだけなのですが、大きな転機は、採用と教育を専門としてきた人事部長をヘッドハンティングしたことです。彼の主導のもと、業界の常識にとらわれない採用活動や教育制度を整えた結果、定着率も向上し、離職率は業界平均を大きく下回る6%台を維持できています。
成長の壁を乗り越える組織改革とDX
── 社長に就任されてから、特に困難だったことは何でしょうか。また、それをどう乗り越えられましたか。
本田 社長に就任し、事業規模を拡大していくなかで直面したのが「見積もりミスによる赤字工事の発生」という壁でした。人が増え、案件が複雑化するにつれて、どうしてもヒューマンエラーが起きてしまう。
この課題を解決するために、昨年、見積もり精度を専門に管理する「工務部」を新設しました。これまでのように営業や現場担当者の経験則に頼るだけでなく、建築・土木の積算手法を取り入れ、専門部隊がダブルチェックする体制を構築したのです。「解体特有の工法」を知る現場の視点と、「積算」という客観的な数値を扱う専門家の視点、この二つをかけあわせることで、見積もりの精度は格段に向上しました。この体制が本格的に稼働し始めたのは、つい最近の2025年6月からですが、すでに大きな手応えを感じています。
同時に、これは長期的な取り組みになりますが、AIによる技術継承にも挑戦しています。一度、図面から物量を読み取らせるAI開発に挑戦して失敗した経験もあるのですが、現在はアプローチを変え、熟練技術者の頭の中にある「解体工法のノウハウ」そのものをAIに学習させるという、壮大なプロジェクトを進めています。これを2030年までに実現させ、将来的な見積もり業務の効率化と、属人化しがちな技術の標準化を目指しています。
国内深耕、そして海外へ。1兆円市場を見据えた未来
── 今後の事業展望についてお聞かせください。M&Aなども含め、どのような成長戦略を描いていらっしゃいますか。
本田 以前はM&Aによる規模拡大も検討しましたが、当社のようにプラント専業で「持たざる経営」を実践している会社はほかになく、社風も大きく異なるため、現時点では積極的には考えていません。ただし、業界内で事業承継の問題が深刻化しているのも事実です。もしシナジーが見込める良いご縁があれば、その可能性はゼロではありません。
今後の成長の柱は大きく三つです。
一つ目は、国内事業所の拡大。まだ十分に開拓できていない地域が国内にまだまだあるため、拠点展開を進め、全国を網羅する体制を強化します。
二つ目は、海外展開です。プラント解体の需要は、今まさに東南アジアなどで本格化し始めています。また、鉄スクラップをめぐる環境も、国内だけで完結する時代は終わり、グローバルな視点が不可欠になっています。海外の先進的な事例を日本に持ち込む、あるいは日本の高い技術力を海外で展開するなど、積極的に挑戦していきたいと考えています。
そして三つ目が、先ほどお話ししたAIへの投資です。これは未来への種まきですね。
幸い、資金面では政策保有株式の売却なども控えており、これらの成長投資に充てる資金は十分に確保できる見込みです。
── プラント解体の市場には成長の可能性があるわけですね。
本田 プラント解体市場は、現在、年間7,000億円ほどと言われていますが、高度経済成長期に建設されたプラントの更新期を迎え、今後は1兆円規模にまで拡大すると予測されています。にもかかわらず、圧倒的なシェアを持つプレイヤーが存在しない、きわめて成長余地の大きい市場です。
私たちは、この巨大な市場において、他社にはない「技術力」を武器にこれからも成長を続けていきます。プラント解体のリーディングカンパニーとして、業界の地位向上と、サーキュラーエコノミーや脱炭素社会の実現を支えていくつもりです。
- 氏名
- 本田 豊(ほんだ ゆたか)
- 社名
- ベステラ株式会社
- 役職
- 代表取締役社長

