BPO事業という堅実な収益基盤を持ちながら、Web3という未知の領域へ大胆に舵を切るギグワークス株式会社。創業以来、個人事業主(ギグワーカー)を活用したビジネスを展開し、「働き方」の変革をリードしてきた同社は、なぜ今、Web3に未来を見出すのか。
コロナ禍以前から副業やシェアオフィスといった時代の変化を先取りしてきた同社が描くのは、「働く人」が真にエンパワーされる新しい経済圏の創出だ。そこでは、仕事はゲームのように楽しくなり、価値を生み出した個人が正当に報われるという。
日本直販の譲渡といったポートフォリオの組み替え、そしてWeb3プロダクト「SNPIT」への集中投資。そのスピード感あふれる意思決定の背景には、代表取締役社長・村田峰人氏の揺るぎない哲学があった。一見、バラバラに見える事業がつながったとき、何が起きるのか。ギグワークスが仕掛ける「次世代の社会インフラ」構想の全貌と、その挑戦を支える村田社長の原点に迫った。
企業サイト:https://www.gig.co.jp/
目次
「働き方の民主化」から「インターネットの民主化」へ
── BPO事業という堅実な収益基盤がありながら、Web3領域へ集中投資を行うという経営戦略の大きな転換がありましたね。
村田 弊社は創業以来、個人事業主、いわゆるギグワーカーの方々を活用したビジネスをずっと続けてきました。私が代表に就任した2014年ごろは、個人事業主の方が現地に赴いてパソコンやWi-Fiの設定などを行う「フィールドサービス」がメインでした。
その後、「ギグエコノミー」という言葉がアメリカから入ってきて一般にも認知されるようになりました。インターネットを介して単発・短期の仕事を、雇われるのではなく、自分で選んで請け負う。そうした働き方に可能性を感じ、個人事業主と依頼主をマッチングさせるプラットフォーム「ギグワークスベーシック」を立ち上げました。
── それが「働き方の民主化」でしょうか。
村田 はい。そしてその流れで次に来たのが、「インターネットの民主化」であるWeb3です。これまでのWeb2.0は、SNSに代表されるようにユーザーが書き込み、相互にやりとりができる世界でした。
しかし、そのプラットフォームの価値を高めているのは個人の投稿や活動であるにもかかわらず、利益はプラットフォーマーである巨大IT企業に独占されてしまった。
Web3は、Read(読む)、Write(書く)に加えてOwn(所有する)が加わった世界です。プラットフォームに価値を提供した個人が、その価値を所有できる。この「Own」の世界をいち早く私たちの仕事に取り入れようと始めたのが、Web3プロダクトの「SNPIT」なんです。
── SNPITはどんなサービスですか?
村田 SNPITは、写真を撮るゲームアプリですが、そのユーザーを個人事業主に見立てて、日本中、世界中で写真を撮ってきてもらう「スナップタスク」という依頼を始めています。例えば、名古屋では空き駐車場の様子を撮ってきてもらう案件がありましたし、不動産の営業担当者が行う物件周辺の公園やコンビニの撮影を代行するといった業務も増えています。
── これまでの事業とは、どのようにつながっているのですか?
村田 もともと弊社のフィールドサービスには、写真を撮ってくる業務がたくさんありました。例えば、自動販売機の様子や、農家に置かれている農機具、空き地など不動産の状況を撮影してきてほしい、といった依頼です。
SNPITでWeb3の仕組みを使って、もともとやっていた業務をそこに乗せていく。ですから、これまでの事業とはずっとつながりがあるんです。
「一生懸命、売らないでくれ」バイト時代、仲間の言葉に感じた疑問
── 事業の損切りやピボットにおいて、大事にしている哲学やポリシーはありますか?
村田 哲学と言えるほどのものではありませんが、弊社のパーパスである「働く人に真価を発揮してもらう」ということでしょうか。
昔、私が携帯電話の販売アルバイトをしていたときのことです。売り上げを伸ばそうと一生懸命頑張っていたら、派遣社員の仲間から「お前、そんなに一生懸命売るなよ。俺らが売ってないみたいになるし、時給は変わらないんだからやめてくれ」と言われたんです。
それを聞いて「なんで?」と思いました。同じ給料ならできる限り楽をしようという人と、いただいたお金で成果を出そうという人がいる。そして、頑張る人の足を引っ張るというのはどうなのかなと。
この経験から、やった分だけ正当に成果として報われる、公平な仕組みを作ることが大事だと考えるようになりました。その考えに基づいて事業を選択し、基づかないものはやめる、という判断をしています。
── その体験が現在の経営判断につながっているのですね。先行投資期間を経て、これからV字回復を目指すうえで、今いちばん期待の領域はどこですか?
村田 やはりWeb3事業です。以前傘下にあった日本直販には、高齢の方も含めたくさんの会員がいらっしゃいました。組み立て家具が組み立てられない、マッサージチェアを置くために部屋の整理ができない、といったお困りごとを、私たちのギグワーカーが現地に赴いてお手伝いするサービスは、日本直販を売却した今も続けています。
もともとの構想では、この会員コミュニティとWeb3を組み合わせようと考えていました。SNPITの暗号資産であるSNPTの価値を日本直販の会員の皆さんにも伝えて、事業をリモデリングしようと。しかし、計画が想定どおりに進みませんでした。
── 具体的には何があったのでしょうか?
村田 日本国内での暗号資産の上場が、当初予定していた2023年10月から12月にずれてしまったのです。弊社は10月決算なので、上場に合わせて準備していた多くの計画が崩れてしまいました。
Web3事業で稼いだ資金を日本直販に投資して立て直す計画でしたが、弊社はそこまで規模が大きい会社ではないので、赤字の会社を2社抱えるのはキャッシュフロー的に厳しかった。やむなく日本直販を切り離すしかなかった、というのが正直なところです。
ユーザーが勝手に広報活動 Web3が可能にする強固なコミュニティ経済圏
── もし計画どおりに進んでいれば、コンシューマービジネスとWeb3には大きなシナジーがあったと。
村田 はい。SNPITを遊んでくださっているユーザーは、このプロダクトをとても大事に思ってくれている方が多いんです。こちらから一切働きかけていないのに、SNPITの暗号資産「SNPT」で決済できる飲食店やウェブサイトが勝手に現れたりするんですよ。
2025年の2月にカメラの展示会に出展したときには、さらに驚くべきことが起きました。想定をはるかに超える来場者が殺到してしまい、社員だけでは対応しきれなくなったんです。すると、ユーザーさんがX(旧Twitter)で呼びかけてくれて、北は北海道から飛行機で駆けつけてくれた人までいました。
── ボランティアで、ですか?
村田 ええ、1円にもならないのに。私が見に行った土曜日には、ブースに社員が一人もいなくて、全員知らないユーザーさんたちが、うちのTシャツを着て来場者にSNPITの使い方を説明してくれていました。
なぜ彼らがそこまでしてくれるのか。それは、ユーザーが増えることで、自分たちが保有するNFTや暗号資産の価値が上がっていくからです。このコミュニティは強固だな、と確信しました。
── まさに「Own」(所有する)というWeb3の思想がコミュニティを動かしているのですね。
村田 そのとおりです。このコミュニティが育てば、たとえばアマゾンと日本直販でまったく同じ水が売られていたとしたら、彼らは必ず日本直販で買ってくれるようになる。なぜなら、そこで生まれた利益がSNPTの買い支えに使われ、結果的に自分たちの資産価値が上がることにつながるからです。
村の経済を村の中で最大限活用しようとする、そういうエコシステムが出来上がるんです。これは大きな発見でした。この村を街に、街を国にしていける。自分たちが持つ資産の価値を上げるための行動を、誰に言われるでもなくみんなが取る。それがとても新鮮でしたね。
労働のエンタメ化と、"搾取されない"働き方の実現
── 「働く」ことと、エンタメ性のある「遊び」の境界線がなくなっていくように感じます。写真を撮るという作業をゲーム化し、トークンで報酬を与えるという試みは、労働のエンタメ化への挑戦でもあるのでしょうか?
村田 そうですね。ゲームを遊んでいる感覚で仕事をしている、というふうになると思います。この仕組みの面白いところは、報酬の支払われ方です。
通常、クライアントから写真撮影を依頼された場合、私たちは人を雇って撮影してもらい、 1枚いくらという形で報酬を支払います。しかしSNPITの場合は、ユーザーにミッションを与えて撮ってきてもらうと、それがポイントに変わり、暗号資産に交換できる。その暗号資産を売買しているのは投資家の皆さんなので、ギグワークスグループは1円も払わなくても仕組みが成り立ってしまうんです。
── それは画期的ですね。
村田 クライアントからいただくフィーが、ほぼ100%粗利になると言っても過言ではありません。もちろん、システム開発に投資はしていますが。この仕組みを使えば、将来的にはギグワーカーの皆さんからいただいているマージン(現在は10%)もゼロにできるのではないかと考えています。
お客様からいただいたお金をすべてギグワーカーにお渡しし、私たちは広告やコミュニティ内での売買などで収益を得る。働く人が搾取されることなく、真価を発揮できる。本当の意味での「民主化」が起こりつつあると感じています。
── 一方で、Web3にはトークン価格の変動リスクや、まだ法整備が追いついていない部分など、マス層に広げるうえでの課題もあると思います。ユーザーに安心して使ってもらうために、ガバナンス面で意識していることはありますか?
村田 もちろん、コンプライアンスを重視し、さまざまなパートナーと戦略的に組んでいます。たとえば、暗号資産を発行しているのはシンガポールの会社、ゲームをパブリッシングしているのはドバイの会社、といったように、私たちは国内でできることに注力するという住み分けをしています。
おっしゃるとおり、現状のWeb3サービスはユーザー体験が非常に複雑です。SNPITで本格的に稼ぐには、NFTカメラを買う必要がありますが、そのためにはウォレットアプリを入れ、取引所で暗号資産を手に入れ…と、ものすごくステップが多い。これではマスアダプションには程遠いのが実情です。
ただ、世の中は変わりつつあります。国内でもステーブルコインなどが登場し、より安全性が高く、規制の中で運用されるようになれば、抵抗もなくなってくるのではないかと期待しています。
「命まで取られるわけじゃない」。変化の時代を乗り越える経営者の覚悟
── 2014年に社長に就任されてから、第二創業期ともいえる目まぐるしい変化を牽引されてきました。その中で、一番大きな壁や困難だと感じたことは何でしたか?
村田 社長に就任してまずやらないといけないと思ったのがM&Aでした。就任後2、3年の間に5社ほど買収し、それが今の収益基盤の一つになっています。もちろん、M&A後のインテグレーションがうまくいかないなど、困難は常にあります。
今回の新規事業のように大きな投資をする際は、社外取締役の皆さんを説得するのも簡単ではありません。元アサヒビールの社長や元富士ゼロックスの社長など、重鎮の方々がいらっしゃるので、ガバナンスは効きすぎているくらいです。
ただ、世の中が大きく変化する中で、私たちのビジネスが変わらないことはあり得ない。ChatGPTに初めて触れたときの衝撃は忘れられません。新しい世界に向かって挑戦し、ステークホルダーにご理解いただく。それが大変ではありますが、障害だとは思っていません。
── そうした壁にぶつかったとき、拠り所とされている考え方や原点はありますか?
村田 経済戦争ではあっても、物理的に命を取られるわけではない、ということはあるかもしれません。それならやりきろうと。
仕事はドラゴンクエストのようなゲームだと思えば、自分を客観的に見ることができます。ゲームの中で死んでも、現実の自分は死なない。大丈夫だ、と。
あとは、自分で体験してみることを非常に重要視しています。「賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ」と言いますが、私は完全に後者。自分でやってみないとわからない。そうすることで勘が鋭くなり、避けられるリスクも出てくると思っています。自分でやろうと思ったことをやらなかったときがいちばん後悔しますね。
今、日本が少し弱ってきているように感じますし、実態もそうだと思います。そこを新しいテクノロジーをきっかけに挽回し、みんなの生活をもっと良くしたい。
そのために、搾取されるのではなく、誰もが真価を発揮して正しく公平に評価され、自分の力でそれを成し遂げられる。そんな社会の実現に向けて頑張っていきます。
- 氏名
- 村田 峰人 (むらた みねと)
- 社名
- ギグワークス株式会社
- 役職
- 代表取締役社長

