本記事は、矢野 香氏の著書『偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。

偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方
(画像=mapo/stock.adobe.com)

「主観と立場を切り分ける」

最終的に取ってほしい行動から伝える

個人の気持ちと、立場上言わなければいけないことを、一度に混ぜて伝えしてしまうのは悪いフィードバックの例です。
例えば、ある会社で残業規制が厳しい中、メンバーが「まだ仕事が終わらない」と悩んでいるとします。そして、あなたの「主観」としては、「わかる。中途半端で帰りたくないよね」という共感の気持ちがあります。しかし、リーダーとしての「立場」から考えると、「ルールだから帰ってほしい」が最終的な結論です。
このとき、やってしまいがちなのが、次のような言い方です。

NG例
「まだやりたいのはわかるけど、ルールだから帰ってくれる?」

一見、相手に寄り添っているように見えます。しかし、この言い方では相手の心には、「わかると言いながら、結局帰れということか……」というモヤモヤが残ります。
伝え方の正解は、「主観」と「立場」を完全に別の文に分けること。そして、最終的に相手に取ってほしい行動を、必ず最後のセリフで持ってくることです。

OK例
「まだやりたいのはわかるよ。中途半端なところでやめたくないよね。努力する姿勢は、すごく立派だ。ただ、リーダーとしては、時間内に仕事を終えることも大切にしてほしいんだ。今日はここまでにして、明日また頑張ろう」

まず、「主観」で相手の気持ちを100%受け止めます。そして、一呼吸おいてから「ただ」「でも」「その上で」といった接続詞を挟み、「立場」として相手が本来、取るべき行動を伝えます。二段階で伝えることで、相手は「自分の気持ちを理解してもらえた」という安心感を持ちつつ、指示を素直に受け入れることができるはずです。

リーダーが発する「言葉の順番」は、とても重要です。逆のケース、つまり業務やルールなどの「立場」よりも、個人の事情や感情である「主観」を優先すると決めたときにも同様です。
例えば、締め切り当日に、メンバーから「子どもの熱で早退したいのですが……」と相談されたとします。リーダーとしての「立場」は、「締め切りなので残ってほしい」。しかし、あなたの「主観」と最終的な判断は、「事情はわかる。だから帰宅してOK」だとします。

このとき、もしあなたが「立場」を先に口にしてしまったらどうなるでしょうか。

NG例 立場→ 主観
「チームとしては今日が締め切りで大変だから、正直に言うと残ってほしい。でも、帰っていいよ。私も昔、子育てで同じ経験したから気持ちはわかる。子どものことだから仕方ないよ」

こう言われて、相手は心から安心して帰れるでしょうか。いいえ、強烈な罪悪感を植えつけられ、相談したこと自体を後悔するかもしれません。そして翌朝、感謝の言葉ではなく「昨日は申し訳ありませんでした」という謝罪の言葉から一日が始まることになるでしょう。
「ありがとう」ではなく「すみません」を多用するチームは、健全とは言えません。

「昨日は帰らせていただき、ありがとうございました! おかげさまで子どもの熱も下がりました。今日は頑張ります!」

そんな感謝の言葉が自然に交わされるチームこそ、私たちが目指すべき姿です。

「サンドイッチ話法」なら軌道修正もできる

では、とっさの場面でどうすれば言葉を正しく組み立てられるのか。その秘訣は、言葉を発する前にあります。「最終的に、自分はメンバーの背中をどちらの方向に押すのか」という結論を、まず自分の中で決めてしまうことです。
「帰す」のか、「残ってもらう」のか。結論を決めたら、その結論を促す言葉、背中を押すセリフを、会話の最後に持ってきましょう。途中で頭が混乱しても大丈夫。最後にもう一度、結論のセリフを繰り返す「サンドイッチ話法」で軌道修正すれば問題ありません。

OK例 サンドイッチ話法
結論(主観) 「もちろん帰って大丈夫だよ。子どもって急に熱が出るから大変だよね」
本音(立場) 「正直、締め切りが今日だからどうしようかとは思うけど、それは何とかするよ」
結論(主観) 「心配しないで、帰って大丈夫。お子さんのそばにいてあげて」

さらに、リーダーの真価が問われるのは、翌日です。鉄則は、「送り出したときと同じスタンスで迎え入れる」ことです。

「立場」で送り出した場合(残業のケース)
NG例
「昨日は残業したかったよね?」⇨ 主観から入る

OK例
「昨日は時間通りに帰ってくれてありがとう(立場)。それで、残っていた仕事はどうなった?(主観)」⇨ 立場から入る

「主観」で送り出した場合(早退のケース)
NG例
「締め切りは大丈夫だったから安心して」⇨ 立場から入る

OK例
「お子さん、熱は下がった?(主観)。……よかった。ちなみに昨日の仕事はみんなでカバーできたから心配しないで(立場)」⇨ まず相手への気づかいから入る

ここまで徹底することで、相手は「昨日の言葉は本心だったんだ」と確信し、信頼関係が揺るぎないものになります。
さらに、リーダーが「チームのみんなも心配していたよ」「○○さんが『お互いさまだから』ってすごく頑張ってくれたよ」「○○さん、すごく申し訳なさそうに早退していったよ。彼女の分まで、みんなで乗り切ろう」などとチームの代弁者となることができれば、文句なしのフィードバックです。個人間で不要な気をつかわせることなく、組織全体の心理的安全性を育んでいくことができるでしょう。

偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方
矢野 香(やの・かおり)
国立大学法人長崎大学准教授。スピーチコンサルタント。専門は、心理学・コミュニケーション論。NHKでのキャスター歴17年。おもにニュース報道番組を担当し、番組視聴率20%超えを記録。NHK在局中からスピーチ研究に取り組み、博士号取得。大学教員として研究をつづけながら「信頼を勝ち取る正統派スピーチ」を伝授。クライアントには、大手上場企業役員、経営者、政治家などエグゼクティブクラスのリーダーが名を連ねる。記者会見や株主総会、政治家の演説、有識者・著者の講演やメディア出演など、「ここぞ」という失敗できない場面を成功に導く実践的な指導に定評がある。著書に『その話し方では軽すぎます!──エグゼクティブが鍛えている「人前で話す技法」』(すばる舎)、『最強リーダーの「話す力」誰から見てもリーダーらしく見える「話し方」の秘密』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などベストセラー多数。

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偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方
  1. 偉ぶらない、舐められないリーダーはフィードバックで決まる
  2. 「わかるけど帰って」って逆効果? 主観と立場の切り分け術
  3. 目標未達で定時退社? リーダーがやるべき話し方
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