本記事は、矢野 香氏の著書『偉ぶらないけど舐められないリーダーの話し方』(日本実業出版社)の中から一部を抜粋・編集しています。
チームの目標は未達なのに定時で帰る相手と、どう話す?
Q チームの目標が未達にもかかわらず、「お先に失礼します」と帰っていくメンバー。強く引き留めることもできず、どうすればいいのでしょうか。
A 「評価」が先、「希望」はあとで伝えます。そして、本来言うべき結論を相手の口から言わせましょう。
会社として定時退社を推奨しているのだから、「残業してくれ」とは強く言えない……。このジレンマに、多くのリーダーが頭を悩ませているかもしれません。
鍵となるのは、「話す順番」です。そして、現在の状況について相手に考えさせ、相手の口から本来言うべき結論を言わせるための質問の技術です。
そもそも、相手が定時に帰るかどうかにかかわらず、結果を出していないメンバーとの対話でやってはいけないことがあります。それは、「あの件、どうなった? 締め切りが近いんだけど、間に合う?」などと、いきなりこちらの「希望」や「要求」から切り出すことです。
まず、相手に現状をどう捉えているのか考えさせ、主体的に行動してもらいましょう。そのためには評価、希望の順番で伝えます。評価が先で、希望はあと。これが鉄則です。
1.評価(事実の共有)
「〇〇の件、進めてくれてありがとう。データ分析のここまでは、すごく順調に進んでいると認識しているよ。ただ、最後の集計部分で少し苦戦しているように見えるんだけど、どうかな?」
⇨ まず、リーダーであるあなたが、相手の仕事ぶりをきちんと見ていることを言葉にして伝えましょう。「ここまではできているよね」という、相手が進めてきたプロセスの承認から入ることで、相手は安心して現状を話すことができます。
2.希望(依頼)
「最終的には、〇月〇日までに仕上げてほしいと考えている。何かサポートできることはあるかな?」
⇨ 現状の評価を踏まえた上で、こちらの希望を伝える。そうすれば、一方的な「指示」ではなく、未来に向けた「協力依頼」として相手に届きます。
以上のような望ましい対話の順番を踏まえた上で、「チームの目標は未達なのに定時で帰るメンバー」との対話について考えてみましょう。
相手の口から本来言うべき結論を言わせるためのステップ
ステップ❶ いきなり要求せず、まず「質問」で考えさせる
今回は、より相手の主体性を引き出すために、あくまで「状況を心配している」というスタンスで次のように問いかけます。
「お疲れさま。少しだけいいかな。今の進捗ペースだと、月末の目標達成はかなり厳しいんじゃないかと、実は少しヒヤヒヤしているんだ。あなた自身は、今後の見通しや計画をどう考えているか、聞かせてもらえる?」
ステップ❷ 想定外の反論には「説得カード」で切り返す
こちらからの問いに対して、もし相手から「え、あの目標って達成必須なんですか? 努力目標だと思っていました」といった反応が返ってきたら、そこからが対話の本番です。ここで「当たり前でしょ!」と感情的に返しては、パワハラと受け取られかねません。相手に「この目標は達成すべき」と自ら気づかせるために、いくつかの「説得カード」を使い分けていきます。
〈説得カード1〉メリットを伝える
「目標を達成すれば、あなたにとってこんな良いことがあるよ」と、相手の利益に訴えかける方法です。
「確かに厳しい目標だけど、これを達成できたら、クライアントは次の大きな案件もあなたに任せたいと言っている。あなた自身のキャリアにとって、大きなチャンスになるよ」
「この目標をクリアした人は少ない。だからこそ、もし達成できたら、あなたの評価は間違いなく上がるだろうね」
〈説得カード2〉規範に訴える
「社会人として」「チームの一員として」といった、より大きな規範に照らして考えさせる方法です。
「なるほど、そう考えるんだね。ただ、チームのほとんどのメンバーは、この目標を達成するのが必須だと考えて取り組んでいるけど、どうだろう?」
「給与をもらっているプロとして、設定された目標に対して最善を尽くす責任が、私たちにはあるんじゃないかな」
〈説得カード3〉I(アイ)メッセージで「私(リーダー)」を主語にする
「それは達成しないとダメでしょ」と相手に対して断定したい場面で、コンプライアンスのリスクを回避しつつ、こちらの意図を的確に伝える技術です。
主語を入れずに「ダメでしょ」と言うと、それは相手を主語にした「You(ユー)メッセージ」となります。「あなたはダメだ」という強い非難になってしまいます。あくまで「私個人の意見(Iメッセージ)」として伝えましょう。
「そうか、あなたはそう思うんだね。ただ、私なら、この目標を達成できなかったら自分の評価に関わると思って、正直かなり焦るかな……」
「私としては、この目標は達成すべきだと思うよ」
こうして説得を重ねることで、相手は徐々に目標達成の重要性を認識していきます。
最終的には、相手自身の口から「わかりました。目標は達成したほうがいいですね」という言葉を引き出すことが、この対話でのゴールになります。
今の時代は、「ダメでしょ」「残業して」といった一言だけを、録音や文字として切り取られてしまいがちです。切り取られた言葉だけが一人歩きしてしまえば、リーダーとしてのあなたの立場が危うくなります。たとえ、相手と普段どんなに良好な関係を築けていても、「信頼関係があるからこその厳しい言葉だった」という言い分は残念ながら通用しません。だからこそ、あなた自身の身を守るための重要な処世術として、「相手の口から、本来言うべき結論を言わせる」ことが肝心なのです。
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