株式会社MOLDINO

1928年の創立以来、金型加工の領域で独自の技術と提案力を武器に、モノづくりの現場を支え続けてきた株式会社MOLDINO。同社は「“世界の難削領域で選ばれるブランド”として常に新しい価値を創造する」というビジョンを掲げ、未来のモノづくりを切り拓いている。

2024年4月、代表取締役社長に就任した金子善昭氏は、三菱マテリアル株式会社で長年キャリアを積み、切削工具業界を深く理解する人物。業界が直面する構造変化のなか、MOLDINOの強みをどのように活かし、未来へと導くのか──。

これまでの成長の軌跡、独自の企業文化、そして今後のビジョンについて詳しく聞いた。

金子善昭(かねこ よしあき)──代表取締役社長
1963年、東京都出身。1986年、明治大学卒業後、三菱マテリアル株式会社に入社。三菱マテリアルツールズ営業企画部長、米国法人マーケティングディレクター、加工事業カンパニー戦略部長・営業本部長を歴任。2024年4月より現職。
株式会社MOLDINO
創立1928年。金型加工に必要な刃先交換式工具や超硬エンドミル、穴あけ・ねじ切り・面取り工具まで幅広く展開し、モノづくりの現場を支える。独自の開発技術と提案力を強みに“世界の難削領域で選ばれるブランド”として常に新しい価値を創造。顧客の課題に真摯に向き合い、未来のモノづくりを切り拓き続けている。
企業サイト:https://www.moldino.com/

目次

  1. 工具を売るのではない。「コト売り」で顧客の生産性を飛躍させる
  2. 成長の源泉は「技術領域の集中」と三位一体の現場力
  3. 転換点は「量から質へ」の経営シフト
  4. 「落ち穂拾い」の文化が育む、フラットで強い組織
  5. 自動車産業の変革の波を、技術と提案力で乗り切る
  6. 次の10年へ。「世界の難削領域で選ばれるブランド」を目指す

工具を売るのではない。「コト売り」で顧客の生産性を飛躍させる

── 切削工具、なかでも金型に特化されているそうですね。

金子 はい、そのとおりです。金属加工で使われる切削工具を扱っていますが、そのなかでも特に金型という領域に特化しています。

さらに、金型加工に加え「難削領域」といわれる、非常に難しい加工分野で、当社独自の技術と提案力を武器に成長を続ける企業です。

── 成長を語るうえで、「PRODUCTION50(プロダクションフィフティ)」というコンセプトがあるそうですが、詳しく教えてください。

金子 「PRODUCTION50(プロダクションフィフティ)」は、商品やサービス、パッケージとして販売しているわけではなく、一つのコンセプトです。

お客様が当社の工具を使って製品を製造する際に、最新かつ最適な工具と加工方法によって、切削にかかる時間を半減させるという取り組みのことです。

── 時間を半分にすると。

金子 はい。これは、工具そのものの値段を下げるということではありません。モノづくり全体に関わる工数や製造費全体に対してのコストカットを提案していくプロセスです。

単に「モノ」を売るのではなく、お客様の生産性を飛躍的に向上させる、いわゆる「コト売り」に徹する。これが当社のソリューション提案の根幹をなす考え方です。

── なるほど。工具の価格交渉ではなく、工程全体のコスト削減を目指すのですね。

金子 ええ。金型をお客様が製造するにあたり、工具にかかるコストは全体の10%から15%程度といわれています。

そこだけを削っても、お客様にとって大きなインパクトにはなりません。当社は残りの85%のコストをぐっと下げることで、トータルコストの削減を実現するお手伝いをしています。

成長の源泉は「技術領域の集中」と三位一体の現場力

── 工程全体への提案は専門性が高く、やすやすとできることではありません。なぜそれが御社にはできるのでしょうか。

金子 当社の成長を支えてきたともいえる、明確な「技術領域の集中」と、「現場起点の改善文化」のおかげだと考えています。

当社は2028年に創立100年を迎えますが、歴史のなかでいくつかの会社と一緒になり成長してきました。そのすべてが切削工具メーカーです。

つまり、多角的に事業を伸ばしてきたのではなく、一貫して切削工具という専門領域に軸足を置いてきた。加工現場の課題を常に徹底して理解し、お客様の生産性向上に寄り添う姿勢を貫いてきたのです。

── 会社の理念にも、その姿勢は表れているのでしょうか。

金子 はい。当社の経営理念には「開発技術のMOLDINO」というフレーズがあります。

現在の社名になる以前、三菱日立ツール時代は「開発技術の三菱日立ツール」、日立ツール時代は「開発技術の日立ツール」とうたっていました。一貫して「開発技術」が我々の原点なのです。

もちろん、素晴らしい開発技術があることは大前提ですが、それだけでは事業は成り立ちません。開発したものを高い品質で量産化させる「生産技術」、そしてお客様の課題を解決する「提案力」。これらすべてが高いレベルで維持されて、当社の価値につながっていると考えています。

高付加価値の工具開発、お客様視点の技術提案力、そして現場力。この三位一体が、これまでの成長の原点になっているのだと思います。

転換点は「量から質へ」の経営シフト

── 100年近い歴史のなかで、大きな転換点はありましたか。

金子 私自身は社長に就任してまだ日は浅いですが、35年以上この業界に身を置き、競合としてこの会社の成長を見てきた視点からいうと、大きな転換点は、「量から質への経営シフト」をしたことではないでしょうか。

日本の切削工具業界は、需要に対して供給側の競争が強い環境が続いています。ともすると、量の拡大や規模の拡大に走りがちです。

しかし当社は早い時期から、そうではなく「質」を求める経営にシフトしていました。

リーマンショック後や産業の空洞化など、日本のモノづくりが大きく変化するなかを乗り越えてこられたのは、量を求めるよりも中身、つまり質を重視してきたからだと思います。

結果として、ハイクオリティで価値の高いものをお客様に提案すると同時に、持続的な収益性を追求してきました。量を求める競合他社とは一線を画してきたことが、大きなポイントだったと考えています。

── 近年での変化はありましたか。

金子 もう一つは、2015年に三菱マテリアルグループに入ったことです。グループのシナジーを最大限に活かす体制へと再編してきました。

特に海外販売ネットワークの活用は大きいですね。海外での販売比率が高まるなか、三菱マテリアルが海外に張り巡らせている販売網を我々も利用できる。

これにより、コストや時間を抑えながら、当社のビジネスを海外で広げる土壌ができたのです。

「落ち穂拾い」の文化が育む、フラットで強い組織

── 社長に就任して、改めて感じた組織の強みはありますか。

金子 まず、この事業を担っている人たちは、役職にかかわらず非常に情熱を持っていると感じます。そして、現場力が非常に強い。

従業員約700名という規模感も、ちょうど良いのかもしれません。いわゆる「組織の壁」のようなものをあまり感じず、非常に風通しが良いですね。

── 意思決定はどのように行っているのですか。

金子 さまざまな課題が出てきたとき、関係部署だけで解決にあたるのではなく、まず役員全員で迅速に共有します。

そして、どうすれば解決できるか、いわゆる「ワイガヤ」のなかでディスカッションし、みんなで「この方向で行こう」と決めていくことがほとんどです。

トップダウンで「あれをやれ、これをやれ」というよりも、みんなで協議して腹落ちさせてから進む。だから決断も早いですし、決まったあとは全員が同じ方向を向くのでブレません。

── 非常にフラットな文化なのですね。

金子 かつて日立グループ時代に培われた「落ち穂拾い」の精神が根付いていることも大きいと思います。

── ミレーの絵画が有名ですが、どのような意味合いなのでしょうか。

金子 日立グループで言う「落ち穂」は些細なことも含め失敗を意味し「拾う」とはその失敗を隠さず向き合う事を意味します。失敗にしっかりと向き合い、そこから学ぼうという精神です。

失敗を責めるのではなく、「失敗こそ次の成功の種」と捉える。成功事例だけでなく、失敗事例を集めてそこから学び、次に活かす。これは一人でやるのではなく、みんなでやることに価値があります。

強力なリーダーがトップダウンで引っ張るのではなく、みんなで納得するまで議論し、同じ方向へ進んでいく。それを実現する現場力を高める。これが、100年近い歴史のなかで培われてきたことなのかなと感じています。

自動車産業の変革の波を、技術と提案力で乗り切る

── 業界が直面する課題についても教えてください。

金子 切削工具業界は、日本の産業構造と同じく、自動車産業を中心に発展してきました。したがって、自動車産業がどのように変わるかで、業界自体が大きく揺さぶられます。

その点で大きいのは、国内市場の成熟化です。自動車産業も国内では頭打ちで、海外に目を向けている。それにともない、我々の事業も国内の伸びは期待できず、海外での競争が激しくなっています。

── 近年ではEV化の流れも大きな変化ですね。

金子 そのとおりです。EV化が進むと、エンジンや関連する部品の加工需要は相対的に縮小する見通しです。

これは切削工具業界にとって、非常に大きな変革を求められているということです。

世界の流れとして、環境対策やCO2削減は間違いなく進みます。ガソリン車が中心だった時代は終わり、エンジンも単純なものではなくなる。切削工具メーカーとして、先行きは不透明で不安があるというのが正直なところです。

── そのような状況に、どう立ち向かいますか。

金子 やはり、価格や量の勝負ではなく、当社は「技術」にこだわります。

最初にお話しした「PRODUCTION50(プロダクションフィフティ)」のような提案型ビジネスをさらに進化させ、質の高い提案で収益を確保できるビジネスを展開し、伸ばしていく必要があると考えています。

次の10年へ。「世界の難削領域で選ばれるブランド」を目指す

── 最後に今後のビジョンを教えてください。

金子 これまでは金型という分野に特化し、トップブランドを目指してきました。しかし、これからは自ら間口を絞るのではなく、もう少しビジネスのスコープを広げた方が良いのではないかと考えています。

具体的には、「世界の難削領域で選ばれるブランド」になることを目指します。

風呂敷を広げすぎるのではなく、「難削領域」という、良い意味でのニッチな分野で、グローバルに選ばれるトップブランドとしてさらに進化していく。その方針に舵を切り、一歩を踏み出したところです。

── そのビジョンを実現するために、何が重要だと考えていますか。

金子 ポイントは3つあります。1つ目は「技術革新の加速」、2つ目は「グローバル市場の深化」、3つ目は「人と組織の変革」です。

まず「技術革新」ですが、当社は原料から製品までを一貫して社内で手がけている、ユニークなメーカーです。この強みを活かし、素材技術、コーティング技術、工具の設計技術、そのすべてでグローバルトップを目指します。これが厳しい市場で勝ち残るためのポイントになります。

次に「グローバル市場の深化」。特に欧米を中心に提案力を強化し、お客様の課題解決から得た知見を、ニーズを的確に捉えた製品開発へとつなげます。

そして最後は「人と組織」です。何よりも、社員一人ひとりが挑戦できる環境を会社として整備し、技術力と実行力を兼ね備えた、現場力の強い組織をいっそう強化します。

この3つに注力することが、これからのMOLDINOにとって重要だと考えています。

氏名
金子善昭(かねこ よしあき)
社名
株式会社MOLDINO
役職
代表取締役社長

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