株式会社サカワ

1919年創業の老舗黒板メーカーである株式会社サカワ。黒板の需要減少に伴う多角化の時代を経て、2018年に四代目の代表取締役社長に就任した坂和寿忠氏は、「黒板屋」としての原点回帰を決意した。

教育現場のICT化が進む中、アナログの黒板とデジタル技術を融合させたプロジェクター搭載黒板「ワイード」などを開発し、売り上げを好転させている。

今後はAIを活用した教育ビジネスを見据える坂和氏に、老舗企業の変革と未来の教育にかける思いを聞いた。

坂和寿忠(さかわ としただ)──代表取締役社長
1986年、愛媛県生まれ。2009年、大学卒業後、株式会社サカワ入社。東京支店勤務などを経て、2018年、四代目の代表取締役社長に就任。
株式会社サカワ
1919年、創業。愛媛県に本社を置く黒板メーカー。従来型の黒板だけでなく、教育ICT機器を製造・販売。先生限定の音楽イベント「先生ソニック」を開催するなど社会貢献にも取り組む。
企業サイト:https://www.sakawa.net/

目次

  1. 多角化の後、坂和社長就任で「黒板屋」に原点回帰
  2. 黒板とデジタルを融合させた具体例
  3. 四代目社長は社内の反発をどう理解へ変えていったのか
  4. 「月1回の週休3日制」でモチベーション向上

多角化の後、坂和社長就任で「黒板屋」に原点回帰

── 創業が1919年、大正八年ですね。

坂和氏(以下、敬称略) はい、そうです。私自身、最近、会社の百年史を振り返る合宿のようなものを実施しまして、ちょうど百年の歴史を勉強していたところです。第一次世界大戦が終わった直後、明治から大正へと移り変わったときに、創業しました。

その少し前に、日本で義務教育の尋常小学校が4年制から6年制となり、学校建築が盛んになり始めた時代背景がありました。当時の日本人の平均年齢は20代であり、若い世代への投資が国の方針としても重要視されていました。

── 教育への強い思いが創業のきっかけということでしょうか?

坂和 はい。私の曽祖父にあたる坂和富忠が創業しました。幕末より、茶碗などをつくるための漆塗り業を家業としていた過去があります。漆の手法を生かして黒板をつくる技術が福岡で開発されたという情報を、創業者が入手しました。そして、技術を学び、創業したのが始まりです。

創業者は子育てにも熱心で、八人の子どもを育てたことからも、教育への強い思いがあったと分かります。

── 学校の増加とともに黒板の需要も伸びたのですね。

坂和 ええ、学校建築の増加とともに黒板の需要も順調に伸びていきました。ベビーブームが二度あった時期までは非常に順調でしたが、1970〜1980年代になると少子化が進み、学校建築が減少しました。

それに伴い、全国に120社ほどあった黒板メーカーも徐々に減少し、この30〜40年は業界全体が厳しい状況にあります。現在、業界団体に属する会社は30社ほどです。

── 黒板自体は、100年前と比べて大きく変わっていないのでしょうか?

坂和 姿、形はあまり大きく変わっていません。木製から鉄板になり長持ちを実現し、そしてマグネットが付くようになった程度の進化です。技術的に大きく進歩しているわけではないため、価格競争が激しくなり、現在では設置工事込みで1箇所10~20万円程度が相場となっています。

一度設置すると10年、15年、場合によっては20年近く使用できるため、買い替えのサイクルも長く、メーカーにとっては厳しい状況が続いていました。

── 黒板事業以外にも、さまざまな事業を展開した時期があったとうかがいました。

坂和 私が引き継ぐ前は、黒板事業だけでは厳しかったため、木造建物の建築、ガラス販売、飲食事業など、多角化を進めていました。しかし、私が引き継ぐにあたり、もう一度黒板事業に立ち返る必要があると考えました。

2018年に私が社長に就任してからは、あらためて「黒板屋」として世の中に対して何ができるかを考え、事業を展開しています。

── 社長に就任するまでのキャリアについて教えてください。

坂和 私の名前は寿忠(としただ)です。創業者の名前にある「忠」と、会社を大きくした三代目の名前(坂和壽々子氏。「壽」は寿の旧字体)にある「寿」を合わせて、「寿忠」となりました。生まれた時から、会社を継ぐ者として育てられたと感じています。

小学校低学年のころには、すでに将来は「黒板屋」になると書いていました。自分が通う小学校の黒板も自社でつくっていた誇りもありました。

私は創業家の中でも必ずしも直系というわけではなかったのですが、経営をしていた祖母や父とともに30年以上会社にかかわっています。大学卒業後、すぐにサカワへ入社し、そして2018年に社長を引き継ぐことになったという流れです。

黒板とデジタルを融合させた具体例

── 現在、教育現場ではタブレット端末が一人一台配備されるなど、ICT化が進んでいます。

坂和 おっしゃる通りです。小学校、中学校ともにタブレットが配備され、先生方もタブレットを使った授業を行っています。そのため、アナログな黒板だけでは対応しきれず、教室には映像機器やプロジェクター、大型モニターなどが必須となっています。

── 黒板業界が縮小する中で、社長として不安はありませんでしたか?

坂和 入社時には、すでに黒板業界は縮小傾向にありました。社長として黒板業界を率いていけるのか、この業界は続くのかという不安はありました。

── 社長就任後、売り上げが大きく伸びていますが、どのように成長を遂げたのでしょうか?

坂和 黒板を進化させなければ、この事業は続かないと考えました。持てる技術で黒板に付加価値をつけ、価値を上げることが私の使命だと感じていました。1ヵ所10万円という価格では、売り上げも社員の給料も上げられません。

そのため、社長に就任する前から、黒板から大きく離れない範囲で着手できるプロダクトとして、アプリやプロジェクターなどの開発を毎年続け、事業としてどう伸ばすかを自分の頭の中でシミュレーションするといったこともしていました。

そして、百周年を迎える直前の創業99年目に社長に就任。新しい体制で百周年を迎えました。

── 現在、最も反響のある商品はどのようなものでしょうか?

坂和 黒板の上にプロジェクターを搭載した「ワイード」という製品です。プロジェクターを起動すると、黒板全体に映像が映し出され、映像上にチョークで書き込みができる形になっています。

地図や教科書の内容、問題などを映し出し、生徒の意見をタブレットから飛ばして共有することも可能です。従来の板書と、映像を映し出して説明するという両方の要素を組み合わせられます。

板書に時間を取られるのは現代では非効率なので、デジタルで保管できることと、板書でしかできない部分を切り分け、時代に合ったプロダクトとして提供しています。

四代目社長は社内の反発をどう理解へ変えていったのか

── 新しい技術を取り入れるにあたり、社内からの反発はありましたか?

坂和 多方面からの反発がありました。そもそも、私が新卒で入社した当初から、普通の社員として見てもらえないと感じていたのが正直なところです。同族経営者の親族である以上、何か一つ秀でたものをつくらなければ認められないと感じ、誰よりも成果を出す努力を心がけました。

また、創業以来、在籍している社員の方々も多く、アナログな企業である当社がデジタルを扱うことへの抵抗や、黒板が使われなくなるのではないかという懸念の声が、社内外から多く寄せられました。

── 社員の方々をどのように説得し、味方につけていったのでしょうか?

坂和 毎年少しずつ、です。すぐに全員を仲間にすることは難しいですが、若手で共感してくれそうなメンバーに黒板の新しい進化を一緒に考えようと呼びかけました。最初は私が勝手に進めているような状態でしたが、本業もやりつつ成長させるための道を探りました。

── 社長に就任したころには、社員からの信頼も得られていたのですね。

坂和 事業や売り上げだけで社員を引っ張るのではなく、もっと会社のことを知ってもらい、ともに会社をつくり上げるスタイルへ、大きく切り替えました。

それまではトップダウン経営でしたが、社員とともにより良い会社をつくっていかなければならないと考え、会社の状況や目指す方向性を伝える経営発表会などを開催するようになりました。

── 長い歴史から受け継がれている、社内の文化や考え方はありますか?

坂和 「ものづくりを通して社会に貢献したい」という創業以来の思いです。サカワの歴史をひもとくと、誰かのため、社会のためにやってきたという文脈が非常に多く見られる会社だと自己評価しています。

お金を稼ぐことや自分たちの利益を増やすことよりも、誰かの役に立ちたいという思いがあったから、教育事業を百年続けてきたのです。子どもたちや先生のために、どのようなプロダクトを生み出せば評価してもらえるか、役立てるかを軸に製品開発をしています。

── 教育の目的は、学校で学ぶことだけではないという考え方もあるかと思います。

坂和 はい。学習している子どもたちが10年後、20年後に社会へ出て活躍できるよう、生き生きと働ける人材を育てるための投資として、教育は重要です。社会が良くなるためには今、何が課題で、どのようなプロダクトをつくれば解決できるのかという軸で、事業を理解しています。

── AIやDXといった技術革新は、どのような影響を与えていますか?

坂和 便利な技術は人が手放せなくなるものなので、拒否するのではなく、教育にどう生かせるかを考えて、積極的に取り入れています。AIを活用して子どもたちのために何ができるかを日々考え、製品開発を進めています。

板書がなくなる時代が来るかもしれませんが、製品開発を止めずに、世の中が良くなるために何をどう活用できるかを考えることが大切です。

「月1回の週休3日制」でモチベーション向上

── 月1回の週休3日制度を導入していますが、その狙いと効果について教えてください。

坂和 まず、素晴らしい社員に長く働いてもらいたいという思いがあります。中小企業は給料面で大手企業に勝つのは難しいですが、特別な働き方を提供できることが強みだと考えました。

また、コロナ禍を経験して、働く時間よりも成果の方が重要だと感じ、労働生産性を上げるために、あえて働く時間を制限するという逆説的な考え方から始めました。月に一度、強制的に休みを取ることで、社員は限られた時間で成果を出すために工夫するようになります。

── 週休3日制度の導入による具体的な効果はありますか?

坂和 社員のモチベーションが向上し、会社への貢献意識が高まりました。属人化していた業務もシステム化が進み、誰かが休んでも問題なく仕事を進行できる体制が整いました。採用への応募者も明らかに増え、年休135日という休日数は大きなアピールポイントになっています。

デメリットとしては、売上が下がった場合に制度を維持できるかという懸念はありますが、覚悟を決めて取り組むことが重要だと考えています。

── 現在、教育現場で感じている課題は何でしょうか?

坂和 先生の長時間労働による人材不足と、不登校者の増加です。場所にとらわれずに授業を受けられる環境や、学校システム自体の変革が必要だと感じています。

先生方が持つ授業データなどをAIでまとめ、どこにいても質の高い授業を受けられるような、自由な教育を目指せればと考えています。

── 今後の事業展開について教えてください。

坂和 AIや先生方のビッグデータを活用し、誰もがどこでも面白い授業を受けられるような教育ビジネスに取り組みます。大学に進学して就職、という流れだけでなく、早い段階で自分のやりたいことを見つけ、そこへ向けた選択肢を広げられる社会をつくりたいです。

氏名
坂和寿忠(さかわ としただ)
社名
株式会社サカワ
役職
代表取締役社長

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