アート・クラフト・サイエンス株式会社

2024年9月期に売上高100億円を突破し、中古マンション再生事業で着実な成長を遂げるアート・クラフト・サイエンス株式会社(ACS)。2004年の創業以来、リーマンショックによる危機や創業社長の体調不良による退任など、幾多の困難を乗り越えてきた。

それを突破してきたのが、金融業界、人材業界を経て2009年に入社した、代表取締役の鈴木美紀子氏だ。

戦略の要となる「エリア循環モデル」や「ファクト主義」はいかにして生まれたのか、未経験者を戦力化し定着させる組織づくりはどう行っているのか。鈴木氏に聞いた。

鈴木美紀子(すずき みきこ)──代表取締役
1975年、千葉県生まれ。1998年、慶應義塾大学経済学部卒業後、日本興業銀行(現・みずほ銀行)にてエコノミスト業務に従事。その後、インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)にて主力紹介事業の事業企画、新規事業立ち上げを経て、2009年5月にアート・クラフト・サイエンス入社。リノベーション事業の創出からスタートし、投資担当、財務担当として事業組成に従事。2021年8月、代表取締役就任。
アート・クラフト・サイエンス株式会社
2004年7月、ディベロッパー出身の創業社長により設立。リーマンショック後、社名を現在のアート・クラフト・サイエンスにあらため、リノベーション事業を開始。中古マンションの1住戸ずつを購入し、リノベーションして再販するビジネスモデルを展開。マンション用地の再生事業も継続展開中。
企業サイト:https://www.acskk.com/

目次

  1. リーマンショックなどを乗り越え売上高100億円突破
  2. ACSのメソッド「エリア循環モデル」と「ファクト主義」
  3. 「社会環境との同期」でACSへのニーズが高まった
  4. 不動産への関心が低い人にも定着してもらうための取り組み
  5. 不動産業界でのプレゼンス確保を目指す

リーマンショックなどを乗り越え売上高100億円突破

── 鈴木社長の入社前後の時期に、リーマンショックという不動産会社として非常に厳しい事業環境を乗り越えたと聞いています。

鈴木氏(以下、敬称略) はい。弊社の創業にさかのぼると、株式会社シーモンとして始まりました。それが、2004年のことです。当初は指紋認証の事業と不動産事業でスタートしており、デベロッパー出身の創業社長が立ち上げました。

しかし2008年、リーマンショックが起こります。それまでは順調でしたが、不動産市場が厳しくなった時期でした。

そこで2009年、今は株式会社オープンハウスグループの副社長をしている鎌田和彦さんが経営に参画し、リノベーション事業をスタートさせました。私もこのタイミングで中途入社しています。

この時期、人員も総入れ替えとなりましたし、社名も「アート・クラフト・サイエンス」に変更しました。社名は、経営学者のヘンリー・ミンツバーグが提唱した「人・組織・事業」という経営の三要素に由来しており、単なる不動産会社にとどまらない存在でありたいという思いが込められています。

── 鎌田氏はいつまで参画されたのでしょうか?

鈴木 2015年で、それ以降、シニアアドバイザーという立場で弊社とかかわっています。その時から体制整備に入りました。例えば、2020年の新卒採用再開です。

以前にも新卒採用を行っていましたが、長続きはしませんでした。再開したのは戸数と人を同時に増やすのが目的で、育成体制を整備し、導入研修や戦力化のフォロー体制、ロールプレイングなども充実させ、「一人にしない」ことを大切にしています。

取り組みは奏功し、2024年9月期には売上高100億円を突破しました。今期も前期比約20%増の成長を見込んでおり、着実に成長できていると受け止めています。

一方でこの間、創業社長が体調を崩すという事態も起こりました。2021年には病状が進み、代表を交代しています。

── 鈴木社長への交代ですね。

鈴木 はい、交代へ至った理由は創業社長の体調不良がきっかけでした。しかし、実は2015年から創業社長と私の二人三脚で事業に取り組んできました。営業の最前線を創業社長が、ミドルバック全般を私が担って来たのです。そのため、社長就任にあたって引き継ぎはほとんどしていません。

その後も創業社長とは、何かあれば相談してきましたし、助言ももらう関係でした。

ACSのメソッド「エリア循環モデル」と「ファクト主義」

── 鈴木社長が社長にまでなるまでの経緯は非常に珍しいように思いますが、どのようなめぐり合わせだったのでしょうか?

鈴木 自分だけの力ではないと思っています。目の前のことを一生懸命やってきたことで、人と機会に恵まれたのかなというのが実感です。

投資担当で入社しましたが、約2年で財務部に異動しました。他にも、弊社では営業、建築管理、管理部門と、ほぼすべての領域を経験しました。

途中、人が辞めてしまったために3ヵ月間、建築部門を一人で守ったこともあります。建築担当の採用も、自身で行いました。

私にとって常に挑戦の毎日でしたが、難しい課題に挑むことは楽しさもあります。期待値以上に仕上げたい、ベストを尽くしたいという思いで取り組んできた結果、芳しくないことですが社長が体調を崩されてしまい、代表交代となったのです。

その前に取締役となったのは、2015年に鎌田さんがオープンハウスに移られるタイミングです。取引銀行へ説明に行ったのですが、担当の方が同い年だったこともあり、「鈴木さん、おめでとう」といってくれました。

前しか見ていなかった自分にとって、皆で一丸となって進んでいることを実感できる機会でした。

それとは別に社長就任時、「覚悟を持って」という言葉を人からかけてもらっています。その後、1年くらいはまさに、経営には覚悟が必要だと実感させられた期間でしたね。

── 会社の立て直しから今に至るまで、事業で重視していることを教えてください。

鈴木 営業戦略では一貫して「エリアを定める」という考え方を重視してきました。同業他社ではどのエリアで物件を仕入れても良いというケースが多いのですが、弊社では大きな駅3つ程度を担当エリアと定め、そのエリアを深く理解することを重要視しています。社内で「エリア循環モデル」と呼ぶものです。

エリアを理解し、在庫が増え、仲介業者との関係も深まり、そのエリアでナンバーワンを目指すという好循環の創出を目指しています。

これは、マンションは立地で買うといわれること、そして立地は駅からの徒歩分数で判断されやすいものの駅周辺の状況を理解すればより良い物件を見極められる、という考えに基づいたものです。

たとえば、同じ駅徒歩分数でも、北口には商店街や学校がある一方、南口には何もないという状況であれば、北口の物件の方が魅力的であるという判断ができます。

もう一つ、「ファクト主義」も重視しています。文字通り、データなどのファクト(事実)を重視し営業やマーケティングに生かすものです。具体的には、駅周辺の事例を収集、他社がいくらでいつ販売したかといった情報をストックし、適正価格を定めることを営業戦略として行ってきました。

「社会環境との同期」でACSへのニーズが高まった

── 今後さらに成長するためのビジョンについて、教えてください。

鈴木 日本では新築志向が強いといわれますが、2016年以降、首都圏のマンション供給戸数は中古が新築を上回っています。今年も新築が伸び悩む可能性はあり、中古中心の市場へ進むと考えられます。

ここに、弊社にとってのチャンスがあります。古いマンションが市場に出てくる中で、新築マンションの供給が盛んだった1990年代の物件は、見た目は綺麗でも設備面では古くなっているからです。たとえば、お風呂が汚いといったケースがあります。

それを自分でリフォームをしようとすると、専門知識がないため壁の色選びで失敗したり、別の場所ではキッチンの照明の色など直さなければならない必要性に気づかなかったりなどします。

弊社では、100項目以上の独自の基準があり、気の利いたリノベーションで住み心地を追求。それだけでなく経済的な観点から、「食洗機は必要だが床暖房は不要」などと判断を行います。エリアごとの特性も踏まえ、営業担当者がプランニング段階からかかわり、お客様一人ひとりに合わせ提案します。

市場に物件が出回る「量」のチャンスと、弊社が提供する「商品力」により、選ばれる機会が増えるでしょう。社会が弊社の事業と同期しているととらえ、良い中古マンションを供給し続けることで、成長できると考えています。

── 「買いたい」と思われるブランディングについて教えてください。

鈴木 弊社は売却時も仲介業者を経由するため、仲介業者に「売りやすい」と思ってもらえることが、お客様からの選ばれやすさにつながります。

また、使えるから物件を残すという考え方ではなく、しっかりリノベーションを行うことが大切です。同業他社では、築年数に応じてリノベーションの範囲を決めることもありますが、弊社では一定の年数であれば「ここまで必ずやる」という基準を設けています。

気の利いた適正なリノベーションと、保証、アフター対応を行うことで選ばれると考えています。今後は、弊社の「商品力」をさらに言葉で表現する必要性を感じており、ウェブサイトのリニューアルやマネジメント研修での浸透などを通じて、会社としての「我々らしさ」の言語化を進めたいです。

不動産への関心が低い人にも定着してもらうための取り組み

── これまでの成長における最大の困難は何だったのでしょう?

鈴木 「人員の定着」です。弊社は未経験の女性を中心に採用しており、裁量のある仕事やビジネス経験を重視する人々が入社します。

一方で、不動産をやりたいという強い動機がない人もいるため、いかに自発的な心構えを持ってもらい、戦力となり、定着するかが高い壁です。以前は、戦力化できても定着しない、定着しても戦力化できない、という状況でした。

この課題に対しては、採用面で工夫をしました。私自身、人材会社での経験があるため、採用は比較的得意です。求人内容を分かりやすくし、応募者に「この会社は良い会社だ」とファンになってもらうことを重視しています。

面接の場でも、お互いが選ぶというスタンスで、選考はフェアであることを心がけています。その結果、内定を出せばほぼ入社されるほどの採用力を持つようになりました。

定着面では、「素直に頑張れるか」「『もっともっと』と欲を持てるか」「負けず嫌いか」といった資質に加え、「嫌な人じゃない」ということを重要視しています。

入社後については、3ヵ月に一度のキックオフでMVPや社長賞を授与し、社員が真剣に受賞を目指してくれます。それとともに、キックオフは今後の目標を語り合う場です。全員が持ち時間5分で「今期こう取り組んで、結果はこうでした。今後こう取り組みたいです」と発表を行っており、互いの考えを共有しています。

皆が成長を実感できる環境が、定着につながるということです。

導入研修も重要です。3週間ほどの期間を設け、「標準行動」としてエリアのとらえ方、物件の購入方法、リノベーションの進め方などをまとめた40〜50ページの教科書を用いて行います。

同じく導入時には全員とランチを共にし、会社の雰囲気や社員を知ってもらう機会も設けています。物件検査、営業、仲介業者訪問にも同行。その後、チームに配属し、4ヵ月目には予算を持つなど、段階的なスケジュールと目標設定を行っています。

── 採用時以外の育成や組織構築についても教えてください。

2023年10月からマネジメント体制を強化し、チーム制を導入しました。それまでは個人で予算を持っていましたが、チーム予算を持つことでより組織的な取り組みを促すものです。

さらに、今年の10月からはリーダー層の育成にも着手。階層ごとにタスクを分けるなど、組織体制を強化しています。週一回の会議で進捗を確認し、月曜日には全体営業会議で一週間の共有を行います。

年に一度、決算の数字が良かった際には、社員旅行や工場研修、クルージングなどを実施します。成長機会の実感を大切にしているということです。

不動産業界でのプレゼンス確保を目指す

── 将来的なIPO(株式公開)は、考えていますか?

鈴木 IPOは選択肢の一つですが、不動産業界は「株価がつきにくい」側面もあります。また、資金調達手段としては、IPOは必須ではありません。しかし、住宅を扱う企業の責任や社会的なブランディング、社員のためという観点からは、意味があると考えています。

── 10年後を見据えたときの理想像はどのようなものでしょうか?

鈴木 「確実な成長」がモットーです。そのため、部門長が独立的な立場で、それぞれが自信を持って事業運営できる組織体制を築きたいと考えています。将来は「中古マンションといえばACS」といわれるようなポジションを目指したいです。

氏名
鈴木美紀子(すずき みきこ)
社名
アート・クラフト・サイエンス株式会社
役職
代表取締役

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