2020年、スーパーゼネコンである清水建設から、妻の実家が営む産業廃棄物処理会社、株式会社旭商会へと転身した浦部大輔氏。彼が目の当たりにしたのは、財務状況の不透明さと、「指示待ち」が染みついた組織風土だった。
就任から約数年、旧態依然とした業界の慣習と向き合いながら、社員の「幸福の追求」と「自立」を掲げて改革を続ける浦部社長に、組織変革の軌跡と次なる成長戦略について聞いた。
企業サイト:https://www.asahi-shoukai.co.jp/
目次
偶発的に生まれた垂直統合という強み
── 創業時、どのような事業からスタートしたのですか。
浦部氏(以下、敬称略) 実は、創業に関する明確な記録は残っていないんです。業界の古参の方にお話を伺うと、昔はリヤカーを引いて廃品回収から始めたという方が多いのですが、弊社の場合は少し特殊だったようです。
言い伝えレベルの話にはなりますが、創業者は工場などから出る、金・銀・銅などが付着した廃棄物を積極的に集めていたと聞いています。それを人力で選別し、鉱山へ売却する事業がスタートでした。
現在も、工場から排出される汚泥(水分を含んだ固形物)の中に貴金属が含まれている場合があり、それを回収して鉱山へ送るというフローは継続しています。
その後、1980年代には側溝や調整池の清掃、下水道のメンテナンスといった清掃事業を開始しました。さらに2000年代に入ると、時代の流れに合わせてプラスチックのリサイクル事業にも参入し、現在に至ります。
── ウェブサイトには、収集運搬から中間処理、リサイクルまでを「一気通貫」で行える点が強みとして挙げられています。これは当初から意図して構築されたビジネスモデルだったのですか。
浦部 いえ、戦略的に狙ったというよりは、お客様の要望に応え続けた結果、自然とそうなったというのが実情だと思います。私たちの仕事は「許可業種」であり、行政の許可がなければ何もできません。
おそらく先代や当時の営業担当が、お客様から「これも持っていけないか?」「あれも処理できないか?」と相談されるたびに、「やります」と応えて許可を取得していったのでしょう。
その積み重ねで、気づけば収集から処理まで一社で完結できる体制が整っていた。まさに「御用聞き」の歴史が作った強みだと言えます。今となっては、この多岐にわたる許可を持っていることが大きな資産になっていますね。
指示待ちとブラックボックスへの衝撃
── 清水建設という日本を代表する大手ゼネコンから、地域密着の中小企業へ。カルチャーギャップも大きかったのではないかと思いますが、入社当時の会社の印象はどうでしたか?
浦部 極端な表現かもしれませんが、ゴミ一つ捨てるのにも自分で判断できず、誰かの許可を求めているような「指示待ち」の空気がありました。自分たちで考えて行動するという発想が希薄で、会社をどうしていこうかという建設的な議論も皆無でしたね。
── 財務面や経営管理の面ではどうでしょうか?
浦部 現状を誰も把握していない状態でした。入社して1年ほど現場で汗を流した後、初めて経営の数字を見る立場になったのですが、財務状況を見て正直「これはマズい」と青ざめました。
さらに驚いたのは、その決算内容を社員が誰も知らなかったことです。経理担当者は日々の仕訳作業を行うだけで、年に一度会計事務所から上がってくる決算書を、当時の経営陣がただ眺めるだけ。
「今年もダメだったね」で終わり、翌年に向けた対策を話し合うこともありませんでした。経営陣がその状態ですから、社員にとっては会社の数字なんて完全にブラックボックスです。
給料やボーナスが決まった日に振り込まれるから、「上手くいっているんだろう」と漠然と思っていたのでしょうね。
── 戻る場所のない転身で、その現実に直面するのは相当なプレッシャーだったはずです。それでも改革へと踏み出せた原動力は何だったのですか。
浦部 綺麗事を言えば「社員と家族を守るため」ですが、本音を言えば「自分のため」でもあります。もう前の会社には戻れませんし、自分が選んだ道で失敗したくないという思いが強かったですね。
私が失敗すれば家族も路頭に迷いますし、何より社員を不幸にしてしまう。社員一人ひとりが「この会社で働いてよかった」と思える状態、経営理念にある「幸福の追求」を実現できなければ、結局は経営者である私自身にも成果として返ってきません。
だからこそ、やるしかなかったのです。
「数字」を共通言語に考える力を養う
── 指示待ちの社員たちに対して、改革を進める中で反発は起きませんでしたか。「外から来た人間が何を言っているんだ」というようなアレルギー反応はよくある話ですが。
浦部 私もそれを一番警戒して、かなり身構えて入社しました。工場のヌシのようなベテラン社員から反発されるだろうと覚悟していたんです。ところが、蓋を開けてみると反発はまったくありませんでした。
むしろ彼らは、私の発言を待っていたんです。それはそれで「自分で考えて動いてほしい」という悩みにはつながるのですが(笑)。
── そこから具体的にどのように社員の意識を変えていったのですか。
浦部 やはり人材育成が最大の壁であり、現在進行形のテーマです。まずは考える材料を持たせるために、情報の開示から始めました。最初は私が月次の決算資料を作り、翌年度の予算もすべて私が作成して、そのプロセスを横で見せていました。
そして1年が経った頃、「次はみんなでやってみよう」とバトンを渡したんです。もちろん最初は、私がやってきたこととはまったく違う見当違いな数字が出てきます。
でも、そこで「なぜこの数字になるのか?」「どういう根拠で積算したのか?」と問いかけ続けることで、彼らは初めて「会社の数字」を自分の頭で考えるようになりました。
── 現場の社員の方々にも、コスト意識などは浸透してきているのですか。
浦部 少しずつですが、変化はあります。例えば、弊社では外注費が経費の約30%を占めています。以前は40%以上あったのですが、これを適正化する際も、単に「減らせ」と命じるのではなく、「なぜここの外注費が増えているのか?」を現場に考えさせました。
すると、「こちらの業者のほうが単価が安いから切り替えた」といった具体的な会話が生まれるようになりました。日々のコミュニケーションでも、すぐに答えを教えるのではなく、「昨日はどうだった?」「それはなぜだと思う?」と投げかけ、思考のプロセスを踏ませることを心がけています。
組織の成長痛と人材戦略のジレンマ
── 人材戦略はどのように描いていますか。外部から即戦力を採用するのか、内部育成に注力するのか、そのバランスについて教えてください。
浦部 悩ましい部分ですが、今は内部育成に軸足を置いています。もちろん、現場を任せられるリーダーや、財務を見られる右腕のような存在は喉から手が出るほど欲しいです。
しかし、今いる社員たちがようやく考えることの入り口に立った段階で、外部からあまりに異質な人材を入れてしまうと、組織が消化不良を起こす懸念があります。
まずは既存の社員を成長させ、受け入れ態勢としての地盤を固めることが先決だと考えています。外部人材の登用はタイミングを見極める必要がありますね。
── 若い世代にとって、廃棄物処理業界は「3K」(きつい、汚い、危険)のイメージがいまだに根強い側面もあります。採用市場での手ごたえはいかがですか。
浦部 おっしゃる通り、世間的にはまだ3K、4Kのイメージが強いのが現実です。現場の作業員やトラックドライバーとして若い方が積極的に入ってくるかというと、まだ厳しい状況です。
一方で、業界全体としては変化の兆しも感じています。大手企業では大卒の新卒社員が営業や企画職として入社するケースが増えていますし、カーボンニュートラルやSDGsの文脈で、我々の業界が果たす社会的意義に目を向けてくれる若者も少しずつ増えてきました。この流れを捉え、業界全体のイメージを変えていくことも私の役割だと感じています。
次なる挑戦:ケミカルリサイクルと財務基盤の強化
── 今後の事業戦略について、既存事業の強化に加え、新しい取り組み・計画はありますか。
浦部 現在、力を入れているのはケミカルリサイクルの分野への参入です。
まだ契約段階ではありますが、新たなリサイクル設備を導入する計画を進めています。入社当時は借入金が売上高を上回るような財務状態でしたが、この数年で財務体質を改善し、新たな投資に融資を受けられる段階まで信用を回復させることができました。
── 既存の工場設備についても投資を行うのですか。
浦部 弊社には汚泥処理を行う工場と、プラスチックリサイクルを行う工場の2拠点があります。汚泥処理の工場は住宅地に囲まれた立地にあるため、大規模な拡張や設備増強が難しく、現状の設備能力を最大限に活かす効率化に注力しています。
一方で、プラスチック工場は工業団地内にあり、拡張の余地があります。今回のケミカルリサイクルも含め、時代のニーズに合わせて進化させていくのはこちらの分野になりますね。
── 5年後、10年後を見据えたとき、自身の役割をどう定義していますか。
浦部 私がいなくても回る会社にすることです。現状でも日常業務は回りますが、それだけでは現状維持、衰退しかありません。市場環境が変化したときに、次の打開策を考え、新しい計画を立案できる人材や組織を作ること。私が旗を振らなくても、社員たちが自律的に成長戦略を描ける状態に持っていくことが、私の最大のミッションです。
インフラを支える「誇り」を次世代へ
── 社内の自立が進んだその先に、浦部さんが描く「あるべき業界の姿」とはどのようなものですか。
浦部 私たちの仕事はネガティブなイメージを持たれることが少なくありません。しかし、社会生活や経済活動を裏で支える「インフラ」です。私が目指すのは、自社の成長だけでなく、この業界全体がもっと世の中に認知され、評価されることです。
若い人たちが「この業界で働きたい」と誇りを持って飛び込んでこられるような、そんな未来を作るためにエネルギーを使っていきたいと考えています。
安全で適正な処理を続けるという信頼。これを積み重ねながら、新しいリサイクルの形にも挑戦し、地域や社会になくてはならない存在であり続けたいと思います。
- 氏名
- 浦部大輔(うらべ だいすけ)
- 社名
- 株式会社旭商会
- 役職
- 代表取締役

