日本乾溜工業株式会社

九州を拠点にインフラ整備を担う建設事業と、人々の安全を守る防災安全事業を展開する日本乾溜工業株式会社。2022年兼田智仁氏が社長に就任した当時、最初の課題は若手の離職率が50%に近かったことだった。業界としても、労働力不足やDX化といった課題を抱える中で、抜本的な組織改革と人材育成を断行した。

同氏が推進する「総合防災・減災事業」の強みや、AI・ドローンを活用した最新の取り組み、そして次世代を見据えた経営ビジョンについて、聞いた。

兼田智仁(かねだ ともひと)──代表取締役社長
1955年、山口県生まれ。1979年、丸紅株式会社入社。2001年、伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社入社。同社執行役員、取締役兼常務、代表取締役副社長を歴任し、2017年に代表取締役社長就任。2020年会長、2021年相談役を経て、2022年1月に日本乾溜工業株式会社入社。顧問を経て同年4月から現職。趣味は映画鑑賞、読書、ゴルフ。
日本乾溜工業株式会社
災害時に使用する防災用品や身体の安全を守る保護具の販売を行う防災安全事業と、建設工事や資材の販売を行う建設事業を営む。さらに、建設と防災安全の両事業を組み合わせた「総合防災・減災事業」も展開。ハードとソフトの両面から提案を行う。
企業サイト:https://www.kanryu.co.jp/

目次

  1. 「総合防災」の事業で九州・関東・関西で商品を提供
  2. 若手離職率50%とDXという課題にどう取り組んだか
  3. 組織改革のテーマとなった「共有」
  4. CO2を吸収し続ける舗装材を開発
  5. インフラ・安全を守り続けるため組織変革を継続

「総合防災」の事業で九州・関東・関西で商品を提供

── 本社は福岡ですが、九州地区の営業体制、全国での事業展開について、教えてください。

兼田氏(以下、敬称略) 当社の営業組織は、建設本部と防災安全本部の二つに分かれています。会社全体としてのパーパスは、建設事業を通じて九州のインフラ整備に貢献すること。そして、地域で暮らす方々の安全に資する防災安全グッズを提供することです。さらに、この二つを軸とした「総合防災・減災」を事業として営んでいます。

拠点は九州全県に支店や出張所を17ヵ所、構えています。それ以外にも、関東には木更津支店、関西には関西支店を展開。木更津支店は、日本製鉄様の君津地区を中心に防災関係のグッズ及び労働安全衛生保護具を提案してきた歴史があります。その他、木更津支店では官公庁への営業も含め、幅広い事業展開をしています。

関西支店は昨年度に新設しました。以前も関西には拠点がありましたが、大正工業という建設機械メーカーをM&Aし再進出しました。これを機に、関西でも防災グッズの販売を強化します。

また、建設本部としても関東や関西に拠点があることは、最新の工法や商材に関するアンテナを高くする狙いがあります。

── 兼田社長が就任された経緯には、どのような背景があったのでしょうか?

兼田 私の前職である伊藤忠丸紅鉄鋼の子会社との縁がきっかけです。その会社と当社に資本関係があり、経営者派遣の相談がありました。また、当社の再生に深く関わっていた福岡銀行様とのつながりもあります。

他にも、大学時代の友人を介した打診などさまざまな縁が重なり、引き受けることにしました。

若手離職率50%とDXという課題にどう取り組んだか

── 就任後、まずどのような改革に着手されたのでしょうか?

兼田 就任当時、社員には二つのメッセージを伝えました。一つは「人材不足は必ず進む」ということ。もう一つは「DX化は避けて通れない」ということです。会社として、この二つに対する方針を出す必要があります。

とりわけ当時の大きな課題は、若手の離職率が50%近い状況だったことです。2022年の新卒採用も、高校生3人だけだったのです。

このままでは将来、立ち行かなくなると危機感を持ち、採用の方向性を明確にしました。学生が企業に何を求めているかを調査し、育成体制と将来性の両方の提示が不可欠だと判断したのです。

そこで、すぐに人材育成室とDXソリューション室を立ち上げました。九州の建設業界で、われわれの規模の会社がこうした部署を設ける例は当時、ありませんでした。これを採用現場でアピールして学生の目を引き、翌年度は大卒6人の採用に成功しました。

SNSの活用や広告戦略、初任給の見直しも行い、現在も採用の流れは良い方向に向かっています。

── 組織の課題を把握するために、具体的にどのような行動をとられたのですか?

兼田 全拠点を回り、社員一人ひとりと話をしました。単なる顔見せではなく、全員に「ディスカッションシート」を配りました。現在の課題、それに対する対応、理想の状態を自分なりに書いてもらい、議論したのです。これにより、課題の抽出と発見の場を設けました。

現場からは「タブレットが足りない」「移動の隙間時間を活用したい」といった声が出ました。建設現場では写真撮影と整理の作業が大きな負担になり、その解消にタブレットが必要です。こうした課題が、ある支店では解決しているのに別の支店では手付かずという状況もありました。

その場で解決できるものは即座に対応し、部署間でのノウハウの共有も行っています。

組織改革のテーマとなった「共有」

── 組織運営のルールについても見直しを行われたそうですね。

兼田 もともとオーナー企業だったこともあり、規定に矛盾がある箇所も見受けられました。たとえるなら、増改築を繰り返した建物のように、動線が定まっていない状態だったのです。

そこで全体の規定を見直し、矛盾のないルールで会社を運営する体制を整えました。また、評価規定がなかったため、MBO(目標管理制度)を導入しました。

もう一つの大きな課題だったのが、コミュニケーションの不足です。支店ごとの独立採算に近い形だったのがかえって良くなかったのか、支店間や子会社との交流がほとんどありませんでした。そこで「意識、知識、技術、人材を組織全体で共有する」という考え方を打ち出しました。

一方、建設本部には「CMX(コンストラクション・モデル・トランスフォーメーション)事業部」を新設しました。建設現場のあり方を変え、技術共有の発信源とするためです。

防災安全本部には、「安全ソリューション室」を立ち上げました。各拠点の優れた提案や商材を全社で共有し、顧客の困りごと解決を進めやすくするのが、狙いです。

管理部門の効率化も同時に進めました。人事、総務、経理、支店の営業事務を統合し「SSC(シェアード・サービス・センター)事業部」を設立しました。バラバラだった書類や事務作業を統合し、生産性を向上させています。

さらにRPAの専任者を雇用し、手作業で行っていた定型業務の自動化も推進しています。

── 教育体制についても、かなり手厚く刷新されたそうですね。

兼田 変革には、社員の意識改革が不可欠です。そのため、階層別の研修には非常に力を入れています。次世代経営者層から課長職、若手まで、外部講師を招いて集中的に研修を実施しています。徹底的に伝えているのは、会社がどう変わるべきか、そのために必要な考え方は何か、です。

新入社員研修も、以前の1ヵ月から3ヵ月に延長しました。マナー教育のようなものだけでなく、配属予定先での実習と本社での振り返りを繰り返します。また「教育は仕事である」という認識を定着させるため、教育手当を新設しました。教える側には手当を出し、受ける側も取り組む姿勢を評価の対象としています。

CO2を吸収し続ける舗装材を開発

── DXの具体的な事例について教えてください。

兼田 AIの活用は、1年以上前から取り組んでいます。有料版のChatGPTを導入し、福岡にできた「AI学校」へ社員を派遣して学んでもらいます。現在は、AIを使って過去のデータを解析し、最適な工法や商材を提案できる仕組みを構築中です。

こうした取り組みは、最終的にお客様から最初に相談される会社になることを目標としたものです。

また、2年半前に「i-Constructionチーム」を結成しました。新規購入したドローンは単に撮影だけでなく、測量や点検、3D解析に活用しています。国交省が推進するi-Constructionに本格的に対応するため、高精度なカメラや設備を導入しました。蓄積したデータはAIで解析し、付加価値の高い提案につなげます。

── DX以外の新規事業はありますか?

独自製品の開発を進めています。その一つが、CO2を吸収・固定化する土系舗装材「かぐやロード」です。もともとは雑草対策用でしたが、成分の酸化マグネシウムがCO2を吸収することに着目しました。福岡大学様との共同研究により、1平方メートルあたりスギの木約0.5本分を吸収するとのデータが得られました。

この製品は、CO2を吸収し続ける「呼吸する舗装材」です。SDGsへの関心が高い企業から、多くの引き合いをいただいています。現在は九州だけでなく、関東や関西でも販売を開始しており、手応えを感じています。社会の需要を的確にとらえることで、まだまだ成長のチャンスはあるでしょう。

── 業界全体の課題である労働力不足には、今後どう立ち向かわれますか。

兼田 新卒採用の継続はもちろん、定年を迎える熟練者の再雇用も重要です。高い技術や資格を持つ方々の処遇を改善し、引き続き力を貸してもらう形をとります。また、リファラル採用制度を整え、信頼できる技術者の確保にも努めます。

能力の底上げと新しい人材の確保、この二本立てでの対応が必要です。

インフラ・安全を守り続けるため組織変革を継続

── 組織の個別最適から全体最適への移行には、反発もあったのではないでしょうか?

兼田 変わることへの抵抗感は、今でもゼロではありません。しかし、各拠点の地元にある建設会社と競合する中で、われわれは独自の武器を持つことが必要です。AIやドローンなどの設備投資も、九州全県に展開している当社ならコストを分散できます。根底にあるのは、「みんなで武器を持って戦おう」という考え方です。

具体的な組織づくりとして、九州を四つのエリアに分け、エリア長に人事権と予算立案権を持たせています。エリア長は支店長を兼務し、業績責任も負います。たとえば、佐賀と長崎で忙しい時期が異なれば、エリア内で柔軟な人員の異動が可能です。現場に近いところで判断させることで、スピーディーな運営を可能にしました。

特に、福岡エリアについては需要が大きいため、「F-PIC」という特別組織を設けました。福岡支店、北九州支店、そしてM&Aで加わった子会社を一体的に運営する仕組みです。これにより、福岡全体で約100人規模の機動的な稼働ができる体制が整いました。

現場をよく知るリーダーが人事異動も含めて差配し、効率を最大化しています。

── 今後のM&A戦略や、将来のビジョンについて教えてください。

兼田 M&Aで最も重視するのは、シナジーです。グループに加わることで、お互いにどう成長できるかを徹底的に話し合います。昨年度実施したM&Aでも、現場の社長たちと直接対話を重ねました。「一緒に大きくなろう」という姿勢を示し、処遇面でも納得感のある内容を提示しています。

また、今後のビジョンとして、防災安全事業の売上比率を現在の2割から4割程度まで引き上げたいです。国土強靱化や防災庁の設置など、追い風となる要因はたくさんあります。

そして、決めた方針に対してKPIを設定し、PDCAを徹底的に回す。この当たり前のことを愚直にやり抜くことが、会社を好循環に導くと信じています。

── 兼田社長の経営者としての決意も教えてください。

兼田 DXやAIはあくまで道具ですが、他社との差別化を生む強力な武器になります。それらを使いこなし、お客様に高い付加価値を届けられる社員を育てます。

結果にこだわり、改善を続ける組織でありたい。九州のインフラと安全を守る責任を胸に、さらなる変革に挑みます。

氏名
兼田智仁(かねだ ともひと)
社名
日本乾溜工業株式会社
役職
代表取締役社長

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