株式会社ツバキ・ナカシマ

ベアリング用精密ボールで、世界的にもプレゼンスを示す株式会社ツバキ・ナカシマ。創業以来、日本の製造業の発展とともに歩んできた同社は、1980年代以降に海外進出を本格化させ、現在は売上と従業員の海外比率が約8割となった。

2024年7月、同社の代表執行役 CEOに就任した松山達氏は、ボストンコンサルティンググループやプライベートエクイティファンドのKKRなどで培った経営変革の知見を武器に、大胆な組織改革を断行中だ。外部からの積極的な人材登用や徹底した成果主義の導入、さらには「つくる」から「キャッシュを生み出す」体質への転換など、伝統あるものづくり企業に新たな息吹を吹き込んでいる。

激変する市場環境下で、同社がいかにして構造的課題の打破を実現し、次なる成長ステージを目指すのか。松山氏に聞いた。

松山達(まつやま いたる)──取締役 代表執行役 CEO
福岡県生まれ。2001年、東京大学法学部卒業後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。日本国内の事業会社における経営課題解決に取り組む。2009年、デュポン米国本社に入社。エレクトロニクスや自動車産業分野関連の子会社や事業部にて経営、事業再建に従事。2017年、KKRに入社。日本、米国の投資先企業の企業変革、価値向上に従事。2021年、BCGにて、米国企業の企業変革担当役員に就任。2024年5月、ツバキ・ナカシマ入社、同年7月代表執行役 CEO就任。
株式会社ツバキ・ナカシマ
1936年、設立。精密ボール、精密ローラー、大型送風機、高機能プラスチック製品など、自動車、航空宇宙、医療などさまざまな分野で使用される2万種類以上の精密部品を製造・販売。東証プライム市場上場。
企業サイト:https://www.tsubaki-nakashima.com/

目次

  1. 自動車OEM・ベアリングメーカーとともに海外進出
  2. 松山氏が進める組織変革の具体像
  3. 評価の仕組みを変え、「キャッシュを生み出す」体質に変えた
  4. さらに無駄なく強い組織を目指す

自動車OEM・ベアリングメーカーとともに海外進出

── 創業から上場、そしてグローバルに展開する現在まで、ツバキ・ナカシマの成長の過程について教えてください。

松山氏(以下、敬称略) 弊社は創業から約90年の歴史を持つ、精密加工のDNAを受け継ぐものづくり企業です。もともとは戦前の奈良県で、自転車用ベアリングのボール製造工場としてスタートしました。戦時中、そして戦後の高度経済成長期を経て、日本の製造業とともに成長を遂げてきました。

一度上場していましたが、2007年に上場廃止、その後、2011年にプライベートエクイティファンドであるカーライルに買収され、非公開企業期間を経て、2015年に再上場を果たしました。

当初は日本国内中心の事業でしたが、20世紀後半からは海外進出も進め、工場建設や既存企業の買収を繰り返しながらグローバル展開を加速させてきました。現在では、日米欧アジアの全リージョンをカバーし、グローバルに工場を擁しています。売上の約8割、従業員も約8割が海外にある状況です。

旧東証一部、今のプライム上場企業としては比較的小規模ですが、ベアリング向け精密ボールのメーカーとしてはグローバルシェアトップの企業へと成長しました。

── 海外進出の背景にはどのような経緯があったのでしょうか?

松山 1980〜1990年代にかけて、日本の製造業、特に自動車産業が海外進出を加速させたことが大きな要因です。弊社の製品の半分以上は自動車用ベアリングに使用されているため、自動車OEMが海外へ進出するのに伴い、私たちもサプライヤーとして、ベアリングメーカーとともに海外へ進出する必要がありました。

日本の製造業の海外進出をサポートする形で、私たちは海外でボールを供給する体制を築いたのです。

また、2017年の米国の競合企業だったNN社買収も大きな転機となりました。この買収により、企業規模はほぼ倍となり、特に米大陸や欧州におけるシェアが飛躍的に拡大しました。これが、海外売上が大きく伸びた大きな理由です。

松山氏が進める組織変革の具体像

── 松山CEOの多彩な経験についても教えてください。

松山 私のバックグラウンドは、経営コンサルティング、事業会社の経営者、そして企業買収・企業改革という3つの領域のミックスです。

新卒でボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社し、その後、米国の大手化学メーカーであるデュポンの米国本社でMBA取得後に事業会社の経営に携わりました。特に、デュポンではリーダーシップ・ディベロップメント・プログラムに参加し、企業の再建や変革といった事業経営者としての経験を積むことができ、それが私の経営者としての土台となっています。

その後、KKRで約4年間、企業買収から変革、価値向上までを一貫して行う仕事をしてきました。これらの経験で、グローバルなフィールドで活躍したいという私が高校生のころから持っていた思いを、実現できたと考えています。

そして、そろそろCEOとして会社を率いたいという思いが強くなり、ちょうど良いタイミングでツバキ・ナカシマからお声がけいただき、就任に至っています。

── 今回の中期経営計画策定にあたり、役員層の刷新やグローバル人材の登用など、大胆な組織改革を進められていますが、その狙いを教えてください。

松山 おっしゃる通り、最初に取り組んだのが経営陣の刷新と強化です。コンペティティブかつダイナミックな業界で勝ち残るためには、強いチーム、つまり優秀な人材を揃える必要があると考えています。

また将来を見据えると、これまでと同じ環境では厳しいと感じました。そのため、経営陣の多くを外部から招聘し、入れ替えを行いました。

新しい経営陣は、事業リーダーや各機能のリーダー(CFO、CHRO、COOなど)として、成功する企業がどうあるべきか、どうすれば成功を実現できるか、それらを実行した経験のある人材を迎えています。これは、私が過去にデュポンやBCGで培ったネットワークや経験を生かしたものです。

中期経営計画では、売り上げ向上やコスト削減といった直接的な打ち手に加えて、組織デザインの最適化、強いリーダーの登用、経営ダッシュボードの整備、そして組織風土・文化の変革といった「イネイブラー」(可能にする要素/土台)を重視しています。

組織文化の変革においては、大きく二つの軸があります。

一つは、徹底した成果主義・能力主義の導入です。部署間の政治的な駆け引きや「誰の手柄か」といった議論ではなく、会社全体を成功させるために正しいことができる人が評価されるべきだと考えています。年次や入社時期にかかわらず、会社に貢献し、成功へ導ける人が最も重要であるという考え方を浸透させています。

もう一つは、心理的安全性の向上です。企業文化が古いと、トップダウンで指示に従わせるような場合もありますが、半面、現場から問題提起や改善提案がオープンに声として上がりにくくなります。

これを変え、役職や年齢にかかわらず、会社にとって正しいアイデアであれば遠慮なく発信できる環境を目指しています。マネージャーに求めているのは、部下の意見を積極的に聞き、たとえ間違っていても、まずは発信することを奨励し、感謝する姿勢です。

── 理念などの部分は、いかがでしょうか?

松山 パーパス、ビジョン、ミッション、バリューでも、従業員の意見を反映させ、この会社ならではの魂のこもったものを再構築しました。これらの取り組みを通じて、社員の士気を高め、自分たちがどういう企業になりたいのかという価値観や文化を根付かせています。

評価の仕組みを変え、「キャッシュを生み出す」体質に変えた

── 製造部門においては、「物をつくり続ける」から「キャッシュを生み出す」へのシフトを重視されているとのことですが、現場の製造部門のマインドセット変革や具体的な施策について教えてください。

松山 弊社の「6つのバリュークリエーション(価値創造)ドライバー」という考え方に基づき、特にコスト削減とキャッシュ創出に注力しています。

コスト削減の柱は3つあります。

一つ目は「生産拠点の再編」です。過去の買収の積み重ねで複雑化していた工場網を、全体最適の視点で見直し、コスト競争力の強化に取り組んでいます。

二つ目は「調達コストの削減」です。各工場が個別に調達するのではなく、グローバルで最適なサプライヤーを選定し、ボリュームディスカウントや戦略的な価格交渉を通じてコストを下げています。

三つ目は「生産性の向上」です。生産プロセスのシンプル化、標準化、デジタル化、自動化を進めることで、生産コストを削減し、コスト競争力を高めています。

また、キャッシュ創出の観点では、「ワーキングキャピタル(運転資本)の最適化」、特に在庫の削減に力を入れています。以前は、PL(損益計算書)上の利益を優先するあまり、過剰な在庫を抱える傾向がありました。これを「余剰在庫は持たない」という考え方にあらため、キャッシュフロー経営を徹底しています。

変革を実現するため、現場の製造責任者やリーダーには、具体的な仕組みや取り組みを通じて、考え方や行動を変えてもらっています。一例として挙げられるのが、各工場のベストプラクティスをグローバルで共有する仕組みの導入です。優秀な工場長やエンジニアをベストプラクティスのある工場へ派遣して、集中的に学ぶ機会を設けています。

在庫削減に関しては、以前は営業利益のみに紐づいていたボーナス体系を、売上とキャッシュフローを重視するように変更しました。これにより、従業員は利益を出すだけでなく、在庫を減らすことの重要性が認識できます。

結果として、昨年1年間で大幅な在庫削減を達成できました。

── (一般的に)事業の譲渡や撤退といった「捨てる決断」は、経営者にとって難しいものですが、断行する際の社長の基準やポイントは何でしょうか?

松山 事業ポートフォリオの意思決定は、常にアグレッシブかつフレキシブルに行う必要があると考えています。事業ポートフォリオの見直し対象となった事業は整理し、新たに必要となる事業は買収や新設で取り入れることを前提としています。

撤退や売却の判断基準は、主に二つです。

一つは、「事業の経済性」です。NPV(正味現在価値)で見て、企業価値の向上に資するかどうかを冷静に評価します。

もう一つは「自社事業との戦略的な整合性」です。ベアリング向けボールを軸とした精密加工技術という弊社の得意技や、会社としての戦い方、スイートスポットに合致するかどうかを考慮します。

これらの基準に基づき、事業ポートフォリオ構築の意思決定や検討を行っています。

さらに無駄なく強い組織を目指す

── 2030年代に向けて、どのような企業像を目指していますか?

松山 2030年代には、企業としての形は大きく三つの側面で変化すると考えています。

一つ目は、「コスト競争力の強化」です。オペレーション、サプライチェーン、組織全体をリーン(無駄がない)でシンプルな形にし、コスト競争力の高い企業へと進化させます。具体的な取り組みとして、たとえば、グローバルソーシングを強化し、コスト競争力の高い中国やインドからの供給割合を高め、欧米への輸出を増やすといったことです。また、プロセスの自動化・デジタル化を進め、省人化されたシンプルな製造プロセスへと変革します。

二つ目は、「高付加価値事業への軸足シフト」です。コモディティ化が進むセグメントから、より高い技術力や品質が求められる領域へと、事業の重点を移していきます。具体的には、航空宇宙、プラスチック、セラミックといった分野や、既存のスチールボールにおいても、より高付加価値な製品・セグメントへのシフトを進めます。これにより、事業ポートフォリオの構成比率が大きく変わるでしょう。

三つ目は、「新しいビジネスモデルの模索」です。従来のボール製造プロセスを一気通貫で行うモデルだけでなく、バリューチェーンの最適化や、まったく新しいビジネスモデルを模索しています。現時点で明確な答えはありませんが、90年の歴史で培ってきたものにとらわれず、新しい形の追求が重要です。

これらの事業の変革に伴い、組織の中身も変化すると考えます。実力主義・成果主義に基づいた、高い専門性や敏捷性を持った従業員が増えるでしょう。

また、グローバルでオープンかつカジュアルな、自由闊達なコミュニケーションが取れる企業へと進化し、リーダーだけでなくあらゆる従業員が多様な視点やアイデアを共有し、チーム全体で進化し続ける会社になると考えています。

── 投資家に対しては、どのような発信をしますか?

松山 投資家にとっての弊社のテーマは、日本の伝統的な製造業がグローバル化や競争激化の中で直面する構造的な課題を、新しい経営陣がブレイクスルーさせることだと考えます。

グローバル会議などで使用される社内公用語は英語となり、経営陣も多様な国籍・バックグラウンドで構成され、合理性やロジック、サイエンティフィックなアプローチを重視しながら、これまでのものづくりや品質といった強みを活かし、グローバルで戦えるダイナミックな企業へと変革する。ブレイクスルーする姿に興味を持っていただける投資家の方々にとっては、応援しがいのある企業であると信じています。

弊社の変革は、社内での改善と財務パフォーマンスに表れるまでにはタイムラグがありますが、先見性を持って弊社のポテンシャルを見抜いてくださる投資家の皆様とともに、未来を切り拓きたいです。

氏名
松山達(まつやま いたる)
社名
株式会社ツバキ・ナカシマ
役職
取締役 代表執行役 CEO

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