1955年の創業以来、ハーブやアロマテラピーの文化を日本に根付かせてきた株式会社生活の木。同社の三代目である重永忠代表取締役社長CEOは、先代までの陶器事業から大胆な転換を図り、独自の「文化創造型」ビジネスを確立させた。
顧客の成長とともに歩んできた同社は、単なる商品の販売にとどまらず、スクール事業を通じた体験価値の提供に重きを置く。コロナ禍においては、独自の行動指針「DCAP」を掲げてデジタル発信を強化し、実店舗とオンラインを融合させた新たな接点を創出した。
「オンリーワン」という企業哲学とその実践について、重永氏に聞いた。
企業サイト:https://www.treeoflife.co.jp/
社長の交代ごとに事業の変遷があった生活の木
── 社長としては三代目だそうですね。
重永氏(以下、敬称略) その通りです。ただ、三代の社長それぞれで事業内容はまったく異なっています。
初代は祖父で、写真館を営んでいました。二代目の父は、写真館を手伝いながらも、学生時代に食器の取り扱いを始め、オリジナルのデザインで製造販売する事業を展開していました。そして、私の代で現在のハーブやアロマテラピーの事業へと移った形です。
代々、違うことをやっても良いという家訓のようなものがありまして。私が引き継いだ際に、食器の事業は大切にしながらも、徐々にハーブやアロマテラピーの事業の比重を高めました。
── 事業を切り替えるきっかけは何だったのでしょうか?
重永 私自身が食器や陶器の分野にあまり興味を持てなかったということもありますが、ハーブやアロマテラピーに出合ったことで、その魅力に次第に惹かれていったことが大きいです。
── 食器の事業をされていた時代に、ハーブやアロマテラピーに出合ったのですか?
重永 ええ。父が和洋折衷の陶器をつくっていたため、アメリカへの出張が多かったのです。その際に、西海岸で見たハーブティーやポプリをお土産として持ち帰ってきたのがきっかけでした。それが面白いと感じ、まさか事業になるとは思っていませんでしたが、テスト的に始めた企画がヒットしたんです。
── 小学生の女の子の間でポプリづくりがブームになったとか。
重永 はい。ポプリは、乾燥させた植物を混ぜ合わせてオリジナルの香りをつくるクラフトで、小学校の女の子たちの間で人気が出ました。その仕掛けを私たちが行ったことで当初は子どもたちに響いたのですが、その方々が50代、60代となった今も私たちの大切な顧客層であり続けています。
顧客とともに文化を広げてきたことが、私たちの事業の特徴だと思っています。
── 現在の主な顧客層は、やはり女性でしょうか。
重永 はい、女性が9割を占めます。年齢層としては、30代以上が多く、特に50代、60代の層が中心ですね。お子様向けのワークショップなども開催しており、若い世代にも関心を持っていただける機会は多いと思います。女の子は、香りに対して敏感ですから。
子ども向けのポプリから次第に親世代にも浸透
── ハーブやアロマテラピーを日本へ本格的に導入された当時、国内にライバルとなるような企業はありましたか?
重永 正直なところ、まったくありませんでした。私たちが早くからこの分野に着目し、お客様の反応を見始めたということもありますが、当時は「ハーブ」という言葉すら一般にはほとんど浸透していなかった時代で、ハーブのお茶を開発した際、「ハブ茶」と勘違いされたほどです。
── それほど、ハーブというものが一般的ではなかったのですね。
重永 ええ。そのころは、食器店の片隅のような小さなスペースを間借りして事業を始めたのですが、まず、先ほどお話しした子ども向けのポプリ企画がヒットしました。
その企画とは、ある漫画雑誌にポプリづくりをするシーンを描いてもらい、読者参加型のポプリコンテストを実施したのです。全国からたくさんの応募があり、潜在的な需要の大きさを実感しました。
── その企画は、当初から子どもたちに響くと確信していたのですか?
重永 人との出会いが大きかったですね。漫画家さんや出版社の方との偶然の出会いから、「子どもたちも反応するかもしれないね」という話になり、トライアルで企画を進めることになりました。まさに、ご縁が事業の発端となったのです。
そこから、ポプリづくりを始めた子どもたちが、さらにアロマテラピーという香りの楽しみ方に傾倒していきました。私たちは、単に商品をつくるメーカーではなく、生活文化を創造しその広がりで商品が売れる、という考え方で事業を進めてきました。
いわば、文化創造型企業としての特徴があると思います。
── 「生活の木」という社名は、いつごろからのものなのでしょうか?社名の由来についても教えてください。
重永 創業は1955年ですが、当初は「生活の木」という社名ではありません。1986年に、この分野で本格的に事業を展開する決意を固め、社名を変更しました。それまでは陶器の取り扱いもしていました。社名変更と同時に陶器事業は終了させ、ハーブ・アロマテラピー事業に一本化しています。
「生活の木」は、英語で「Tree of Life」であり、生命の摂理や自然の巡りを意味します。木が太陽の光を浴びて成長し、やがて実をつけ、また新しい生命へとつながる。生命の循環のような意味合いが、私たちの事業にぴったりだと感じ、この名前にしました。
PDCAに代わる概念「まずやる」DCAPとは?
── 現在、多くの店舗を構えていますが、店舗のデザインなどブランドイメージを保つために工夫していることはありますか?
重永 お客様と一緒に体感し、共感していただくことを大切にしています。そのため、体感できるスペースや、お客様自身の内面に向き合える場を重視した店づくりを心がけています。動線よりも、対面・体感・共感を重視した空間づくりですね。
── コロナ禍では店舗運営に大きな影響があったかと思いますが、どのように乗り越えたのでしょうか?
重永 おっしゃる通り、大きな壁でした。売上の大部分を占めていた直営店が1ヵ月以上、全店閉鎖となり、通常であれば売上が大幅に減少するところでした。
しかし、幸いなことに「マスクスプレー」という商品が注目され、需要が急増したのです。そのおかげで、売上減を最小限に抑えることができました。まさに神風が吹いたような状況でした。
── そのような状況下で、オンラインでの発信を強化したそうですね。その結果、どのような効果がありましたか?
重永 はい。対面でのコミュニケーションが難しくなったため、オンラインで解説を行ったり、香りの体験をオンラインで伝えたりする工夫をしました。InstagramやFacebook、YouTubeなどを活用し、言葉や画像、動画で香りの魅力を伝える試みを行ったのです。
店頭での伝え方も重要ですが、それ以外の方法で香りの想像力を掻き立てることができ、結果的に「本物を試したい」と実店舗に来てくださるお客様も増えました。オンラインでの発信が、新たな顧客の流れを生み出したのです。
── SNS戦略は、社内のマーケティング部門が中心となって進めたのでしょうか?
重永 はい。若手のメンバーが中心となり、スピード感を持って取り組んでくれました。彼らの「とりあえずやってみよう」という行動力が、この状況を乗り越える上で大きな助けとなりました。社内にSNS発信専用のスタジオも設立し、積極的に情報発信を行っています。
── コロナ禍のような緊急時において、経営判断のスピード感は非常に重要だったかと思います。
重永 ええ。決裁なしで、思いついた面白いことやお客様が喜びそうなことはどんどん発信していこう、という方針を打ち出しました。
PDCAではなく、DCAP(Do、Check、Action、Plan)という考え方で、とにかくスピードを重視して、まずはやってみる。黙っていては埋没してしまう時代ですから、何もしないことが一番の罪だと考えていました。
今後は「ウェルエイジング」へ領域拡大
── スクール事業を始めたきっかけは何でしょうか?
重永 私たちは創業当初から「モノ売り」から「コト売り」へとシフトすることを考えていました。「コトショップ」という言葉を使い、商品を販売するだけでなく、手づくりの体験や知識を学べる場を提供しようとしていたのです。それが発展して、スクール事業へとつながりました。
── スクール事業は、アロマテラピーの資格認定制度の推進にも貢献したそうですね。
重永 はい。アロマテラピーの資格認定制度を設立し、多くの方が資格を取得しました。その資格を生かして仕事をしたいという方々が増え、社員として活躍してくれる方も出てきました。正しいアロマテラピーの普及に、スクール事業は大きく貢献しています。
── 今後、アロマ以外の分野への事業拡大も考えていますか?
重永 講師の先生方から占星術と組み合わせたアロマ講座などさまざまなアイデアが出ており、それが新たなビジネスのヒントになっています。お客様とともに、そしてオピニオンリーダーである講師の先生方とともに成長することが、私たちの成長の原動力となっています。
── アロマテラピーの利用目的は、時代とともに変化していますか?
重永 はい。ポプリづくりが「一人で楽しむ」スタイルだったのに対し、現在は家の中だけでなく、ホテルやアパレルショップ、銭湯など、さまざまな場所で空間演出としてアロマが活用されるようになっています。これは、健康意識の高まりや、心の癒しを求めるニーズの増加が背景にあると考えられます。
── 心の健康や、気分転換としての活用が増えているのですね。
重永 ええ。特に心の健康への意識が高まっている点は、大きいですね。アロマは、心のよりどころとして活用されるようになっています。AI時代だからこそ、人間にしか出せない「味」や「体験」を大切にし、提供することが重要だと考えています。
── 海外展開や上場については、どのように考えていますか?
重永 海外マーケットは、私の代ではやりきれなかった部分です。現在は、次の世代がアジアを中心にマーケティングを展開しています。
上場については、現時点では考えていません。この事業はスピードが命だと考えています。オーナーマインドで素早く意思決定できる機敏性を失いたくないためです。
── 今後の展望について教えてください。
重永 ハーブ・アロマテラピーという小さなマーケットだけでなく、ウェルネス&ウェルビーイング、そして「ウェルエイジング」という、より大きな領域へとスケールアップしていきたいと考えています。良い年の重ね方を、誰もが実現できるような社会を目指し、そこに貢献したいです。
私自身も、会社を若手に任せられるようになったら、新たな挑戦を始めたいと考えています。一生、商いを続けたいですね。
- 氏名
- 重永忠(しげなが ただし)
- 社名
- 株式会社生活の木
- 役職
- 代表取締役社長CEO

