「みんなみんなみんな咲け」という願いをこめたスローガンを掲げ、障害や難病のあるスタッフとともに生花店を運営する株式会社ローランズ。従業員140人のうち約100人が障害などと向き合いながら活躍し、工程を細分化する工夫などで「誰もが咲ける」社会の実現を体現している。
同社代表取締役の福寿満希氏は、自社の経験を活かし、中小企業とともに障害者雇用を促進する「ウィズダイバーシティ有限責任事業組合」を発足。日本初の共同雇用スキームとして注目を集め、地域の障害福祉事業所と中小企業が連携した新たな雇用の形を提案する。
福寿氏に、利益追求と社会的意義の両立という壁、そして「社会をつなぐパートナー」として描く今後の成長戦略について話を聞いた。
企業サイト:https://lorans.jp/
目次
三つの事業を柱に「誰もが咲ける」社会を目指す
── 花の販売を事業の主軸としつつ、障害のある人の就労支援に注力していますね。
福寿氏(以下、敬称略) 私たちは「みんなみんなみんな咲け」というスローガンを掲げて活動しています。
主な事業は三つあります。一つ目はプロダクト事業、二つ目は就労支援事業、そして三つ目は企業の障害者雇用支援事業ですが、もともとは、2013年に花屋としてスタートしました。
私は学生時代に特別支援学校の教員免許を取得したのですが、そこで子どもたちの現状を知りました。働く夢を持っていても、挑戦する機会がまったくないという課題を解決したいと考えたのです。
最初に子どもたちの憧れの仕事の一つである“お花屋さん”を選んだのは、仕事で自信を失いかけたとき、私自身が花に救われた経験があったからです。障害者雇用に取り組み始めてから、今年で10年目になります。現在は全従業員140人のうち、100人の障害や難病と向き合うスタッフとともに働いています。
── フラワーギフト以外にも、レンタルグリーン(観葉植物のレンタル)やカフェ運営やコーヒー販売、花栽培、オフィスサポートなど幅広く展開されていますね。これらはどのようなきっかけで始まったのでしょうか?
福寿 花屋の事業の中には、ギフト提供だけでなく結婚式の装飾なども含まれます。レンタルグリーンもお花の仕事の一つとして、自然な形で広がりました。
私たちの目的は、障害者が働くことの概念を変えることです。「障害者にはできないことが多い」という制限されたイメージを払拭したいと考えています。
重要なのは、障害当事者とともにつくるサービスで、これほど質の高いものができるのだと証明することです。プロダクト事業では、その実力をしっかりと社会に示しています。
私たちの仕事は、工程を細かく分解することから始まります。たとえば一つのフラワーボックスをつくるのに、30人のスタッフが分業してかかわることもあります。難しい商品に見えても、工程を分解すればシンプルな作業の積み上げです。
例えば、先端恐怖症でハサミが持てないスタッフは、逆に丸みを帯びたデザインづくりは得意なので、ラッピング工程のプロとして活躍することができます。このように、工程ごとのプロをつくることで、挑戦のハードルをなくす工夫をし、誰もが活躍できる場を構築しています。
原宿店出店が大きな転換点に
── これまでの歩みの中で、大きな転換点となった出来事やエピソードを教えてください。
福寿 最大の転換点は、2017年に初めての店舗として「ローランズ原宿」をオープンしたことです。それまでは企業のフラワーギフトを中心に受注生産をしており、店舗を持つ計画はありませんでした。
しかし、日本財団様からお声がけをいただき、日本財団はたらくNIPPON計画のプロジェクト支援を受け、店舗を始めました。
この店舗という「接点」を持てたことが非常に大きかったです。「商品に触れたい」「当事者の活躍を見たい」と思った人がアポイントなど必要なく自由に関わりを持てる場ができたからです。
それが口コミで少しずつ広がり、私たちの認知度は高まりました。ローランズが本社をおいている原宿の店舗では、カフェと花屋という異業種コラボについて多くのメディアにも取り上げていただき、社会的な信頼が積み上がりました。その結果、大手企業との取引も次々とスタートしています。
実は、私たちは12年ほど営業チームを置かずに運営してきました。事業計画すら持たず、お客様の「こういうサービスが欲しい」という声に応え続けて、今があります。
── 原宿店はカフェも併設されていて、とてもおしゃれな空間ですよね。商社とのコラボレーションも進んでいるとか。
福寿 原宿店は日本財団とのコラボレーションですが、今年3月にオープンした丸の内店は三菱商事様とのコラボレーションです。カフェでコーヒーを楽しみながらお花を眺め、そのまま購入できるような体験を提供しています。
こうした企業様とコラボした取り組みも、私たちのブランド価値を高める一因となっています。
日本初の共同雇用スキーム「ウィズダイバーシティLLP」
── 2019年設立の「ウィズダイバーシティLLP」についても詳しく教えてください。日本初の共同雇用スキーム(注・中小企業など複数の企業が共同で障害者を雇用する仕組み)として注目されていますね。
福寿 障害者雇用支援事業の核となるのが、このLLP(有限責任事業組合)という座組です。「一人でやらない、みんなでやる」をテーマに、企業とともに法定雇用の先を目指しています。有限責任事業組合(LLP)として算定特例の認定を受けた日本で最初の団体です。
2026年3月31日現在、ローランズを含めて18社の企業が組合に参加して障害者雇用を創出しており、この規模は日本ナンバーワンです。
企業が抱える障害者雇用の課題は、主に四つに分類されます。「採用が進まない」「定着しない」「戦力化できない」「運用コストが大きい」という点です。特に経営資源の限られた中小企業にとって、これらは大きなハードルです。
こうした課題に対し、ウィズダイバーシティでは、障害者雇用を諦めやすい中小企業が地域の障害福祉事業所(就労継続支援A型事業所・注)から商品やサービスを購入することで、共同で雇用を創出する仕組みを提供しています。
通常、企業が自社で障害者雇用を行う場合、採用活動や業務設計、現場でのマネジメント、障害当事者へのサポート体制の構築など、専門的なノウハウや多くの準備が必要です。
一方、ウィズダイバーシティでは、福祉事業所に所属する専門スタッフが、障害当事者の就労支援や業務管理を担います。加えて、福祉事業所は商品・サービスの営業に課題を抱える一方で、中小企業は販路や顧客接点を持っています。両者がそれぞれの強みを活かし、弱みを補い合うことで、より多くの障害者雇用の創出ができています。また、そこで働く当事者の人たちも、専門的なサポートを受けながら安定して仕事に取り組むことができます。
さらに本取り組みは、中小企業が事業協同組合等を活用して共同事業を行い、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の認定を受けたものについて、その事業協同組合等とその組合員である中小企業(特定事業主)における実雇用率を通算することができます。
── 企業側にとっては、リソースを抑えつつ社会貢献と法定雇用の達成を両立できるわけですね。
福寿 その通りです。採用や定着については、専門スタッフがモニタリングを行います。戦力化についても、60種類以上のサービスラインアップから業務を選択できます。お花の注文や事務代行など、自社に必要なサービスを受け取りながら雇用を成立させることができます。
人件費を単なるコストとして消化するのではなく、サービスという成果物を受け取ることができ、経営資源が限られた中小企業も無理なく取り組むことができます。企業側は自分たちができることに特化し、運用の専門的な部分は福祉事業者が担います。この役割分担により、運用コストを抑えながら質の高い雇用を維持することが可能です。
この仕組みについて、東京都の有識者会議で小池都知事にも報告し、非常に高い評価をいただきました。2026年7月1日には、法定雇用率が2.7%(37.5人に1人)に引き上げられる法改正もあり、多くの引き合いをいただいている状況です。
── 順調に成長されていますが、これまでにも課題や壁に当たることもあったのでは?
福寿 常に課題としてあるのは、株式会社として利益を追求する側面と、ソーシャルな側面の両立です。
特に難しいのは、当事者スタッフとともに成長をつくるプロセスです。一般的なスタートアップでは、業務の幅や量を広げながら成長を促す場面もあります。
しかし、障害と向き合う当事者が過度な業務負荷を感じると、体調を崩して出勤できなくなる恐れがあります。現場に負荷をかけずに、いかに事業を成長させるか。このバランス取りは、今も向き合い続けている非常に難しいポイントです。
これまではマーケットインの考え方で、お客様の要望に合わせてサービスを展開してきました。しかし、その結果として業務が広がりすぎてしまった側面もあります。そこで現在は、あえて「やることを絞る」という戦略に切り替えました。
たとえば、お花のデザインを特定のものにすることで、たくさんの当事者が参加できる製造ラインの磨き上げに入っています。つくる側は決まった商品工程に特化して技術をあげていくことができ、クオリティが向上するのです。販売リソースも絞った商品に集中投下することで、セールスの効果も出やすくなるという好循環が生まれています。
── 「やらないことを決める」ことで、組織としての強みを再定義されているのですね。
福寿 また、自社だけで雇用を広げることには限界があります。そのため、企業のみなさまの障害者雇用に伴走し、ともに雇用を増やす事業に力を入れることにしました。
プロダクト事業では「どんな人でも”できる”があり、誰もが自分らしく咲いていい」と社会受容を作るアプローチを行い、その接点から繋がった企業と一緒に雇用作りのパートナーになっていくという流れで輪を広げています。やるべきことを明確に定めたことで、組織内の課題が整理されました。自分たちの役割を「花屋」から「人を咲かせる事業会社」としたことで、迷いがなくなりました。
この方針転換により、現在はさまざまな施策の効果をより強く実感しています。
BtoCとBtoBのシナジーが生む独自のブランド価値
── BtoCの店舗展開とBtoBの大型案件が、非常にうまく連動している印象を受けます。このシナジーは当初から意図されていたのでしょうか?
福寿 正直にいいますと、当初はこれほどシナジーが生まれるとは予想していませんでした。
現在はBtoBの売上比率が高まっており、社内では「BtoCをやめてもいいのではないか」という議論もありました。しかし、BtoCはブランドを構築し、一般のお客様とのファーストタッチの場となって「誰もが自分らしく咲いていい」という社会受容を広げるハブとなっています。結果としてBtoBの案件を生んでおり、Cの中にBのお客様が存在しているという状態です。
そのため、BtoC事業をブランドの核として強く持ち続ける方針です。
── 今後の成長について、どのような展望を持っていますか。
福寿 日本には「働きたくても働けない」という当事者が356万人いるといわれています。単一の企業だけで雇用をつくるスピードには限界があるため、今後はより多くの企業を巻き込みたい。企業の活動に地域の福祉団体を組み込むことで、雇用を諦める企業を減らし、雇用の輪を広げていきます。
「一社でやらない、みんなでやる」という文化を、社会のスタンダードにしたいです。そのために、当事者がつくった素敵な商品をより多くの方に届ける接点を増やたい。「こんなに素晴らしいものがつくれるんだ」という驚きが、社会に広がればいいなと思っています。
外部資本に頼らず、社会を良くするための経営を貫く
── 組織の拡大に伴い、採用や評価制度などの課題も出てくるかと思います。どのような組織づくりを目指していますか?
福寿 人材面において、何をもって「会社に合う人」とするか、その定義を明確にすることが重要だと考えています。
私たちにとっての「会社に合う人」とは、単に成果を出すだけでなく私たちが大切にしている文化を守りながら成長をつくれる人です。私たちはまだ小さな会社であり、大手のような体制も外資のような報酬も用意できません。
表向きはきれいに見えても、現場は人間らしさにあふれ、泥臭い努力の連続です。入社後のギャップをなくすため、採用の段階で現状を正直に伝え、認識を合わせるようにしています。「みんなみんなみんな咲け」の社会を作るために、人を咲かせるための土壌を耕し続けたいという価値観が合致する仲間とともに、この組織をつくり上げるプロセスを楽しみたいと考えています。
また、支援や当事者の活躍を感情論だけで語るのではなく、科学していくことも大切です。どうすれば人が咲けるのかを理論的にも設計できるようになることが、次の成長の鍵となると思ってます。
現場の熱量と、経営としての冷静さを、しなやかに両立させた組織を作れたらと思っています。
── 今後の資金や事業の計画について教えてください。
福寿 資金調達については、できる限り外部資本を入れずに成長をつくることを理想としています。経営の自由度を保ち、社会を良くするという本来の目的を見失わないためです。株主の利益が最優先指標にならず、働く人と、そこからの社会的インパクトを重視した運営にしていきたいと思っています。
この媒体をご覧になっている経営者のみなさまは、社会的な責任を強く意識されている方々だと思います。障害者雇用を「義務」としてとらえるのではなく、「一人への配慮がみんなの配慮となる」ように設計し、ともに新しい職場環境や価値をつくる機会としてとらえていただけたら嬉しいです。
誰もが咲ける社会の実現に向けて、ぜひいろいろな形でご一緒できることを願っています。
- 氏名
- 福寿満希(ふくじゅ みづき)
- 社名
- 株式会社ローランズ
- 役職
- 代表取締役

