株式会社エージェントスミス

日本のIT業界に深く根付く、ベンダーへの「丸投げ」体質。企業のIT内製率が欧米に比べて著しく低いこの歪な構造に警鐘を鳴らし、「ユーザー主導の世界に、IT業界を変える」というパーパスのもと、企業のIT自走力向上を支援しているのが株式会社エージェント・スミスだ。

代表の山菅利彦氏は、長年勤めたSIerにおいて、既存の受託開発モデルの限界と利益相反のジレンマを痛感し、顧客に真に寄り添うべく同社を設立した。

コロナ禍を機に急加速したシステム内製化へのシフトを背景に、同社がいかにして成長を遂げてきたのか──。

シリコンバレー拠点を通じた最新テクノロジーの直輸入や、M&Aを駆使した事業領域の拡大、そしてプログラミングがAIに代替される時代における「真のDX」のあり方について、山菅氏の鋭い洞察と経営哲学に迫った。

山菅利彦(やますげ としひこ)──株式会社エージェント・スミス 代表取締役社長
1963年、栃木県出身。1986年、文教大学情報学部を卒業後、SIerに入社。34歳で最年少役員に就任し11年間務めた後、2009年に株式会社エージェント・スミスを設立。現在はグループ6社の代表取締役社長を兼任するほか、一般社団法人地域デジタル化推進協議会の代表理事も務める。
株式会社エージェント・スミス
「ユーザー主導の世界に、IT業界を変える」をパーパスに、IT企画や要件定義から設計・構築・運用まで、ユーザー企業の情報システム業務をトータルでサポート。自社製品を持たない中立的な立場で、顧客の「盾・頭脳・手足」となり、企業のIT自走力の向上を使命とする。
企業サイト:https://www.agentsmith.jp/

目次

  1. リーマンショック直後の創業と東日本大震災の苦難を越えて
  2. IT業界全領域をカバーするグループ戦略とホールディングス化
  3. シリコンバレーから最新テクノロジーを日本市場へ届ける使命
  4. コロナ禍で加速したシステム内製化と、SIerモデルへの警鐘
  5. AIの台頭で激変するIT業界。本当のDXと「残る仕事」
  6. 経営判断における対話の重要性と、攻めのIT投資

リーマンショック直後の創業と東日本大震災の苦難を越えて

── 創業からこれまでの歩みについて教えてください。

山菅氏(以下、敬称略) 当社は2009年に設立しました。当時はリーマンショック直後で、IT業界全体が冷え切っていた時期です。それをなんとか乗り切り、ようやく一息ついたと思ったら、2年後に東日本大震災が起こりました。

震災復興支援と地方創生を目的として、株式会社インプリメンテーションを設立しました。もともとは地方のエンジニアを有効活用するニアショア拠点として展開する予定でしたが、復興とともに地方も活気を取り戻していき、ニアショアを最重点施策とする経営方針は目論見が外れました。

結果として、エージェント・スミスが対応しない開発案件をインプリメンテーション社が対応するという住み分けに着地しました。

── 2013年には六本木ヒルズへオフィスを移転していますね。

山菅 この移転は、我々にとって非常に大きな転機でした。当時の売上高は6億円ほどしかありませんでしたが、社会的信用を早期に獲得するために即断しました。お客様からの信用や、中途採用における求職者への信頼をクリアしやすくするためです。

狙いどおり、移転の翌年には業績がほぼ倍増し、ここから2016年ごろまでは成長のスピードが加速し、苦難を乗り越えた先で、大きな飛躍を遂げることができました。

IT業界全領域をカバーするグループ戦略とホールディングス化

── その後、グループ会社を次々と増やしています。

山菅 創業10周年の年に、株式会社ネットサービスソリューションズをグループに迎えました。この会社は、エージェント・スミスやインプリメンテーションがまったくカバーしていなかった領域のインフラ構築や運用管理の分野を担っていました。この会社が参画したことで、システム企画、要件定義、設計・構築から実運用サイクルを回すところまで、インフラを含めた全工程に対応できる体制が整いました。

さらに2018年には、UI/UXを強みとする株式会社UNITZを設立します。エージェント・スミスはエンタープライズ系のお客様が多く、Webサイト制作やスマートフォンアプリの開発にはなかなか手を出せていませんでした。

UNITZを立ち上げたことで、ほぼすべてのIT領域を網羅できました。約10年間でこの体制を構築できたことは、非常に大きな成果です。さらに現在は、ホールディングス体制へと移行しています。

── ホールディングス化の狙いはどこにありますか。

山菅 事業会社4社を傘下に置くグループ戦略を策定しました。営業機能はすべてホールディングスに集約することによりグループ各社は営業機能を持たず、ホールディングス営業がお客様のご依頼やご要望を分析し、適した事業会社にてご提案する方式に転換しています。

人事、総務、経理、財務などのバックオフィス業務もホールディングスで一括管理しています。共通化できる業務をすべて集約することで、グループ全体の効率を高めるスタイルです。

さらに2024年には、システムソフト社の東日本部隊を譲り受け、開発業務に特化した株式会社Build up Service に社名を変更し、グループに迎え入れました。

シリコンバレーから最新テクノロジーを日本市場へ届ける使命

── 2025年には米国に「AgentSmith USA,Inc.」を設立していますが、その狙いは?

山菅 IT業界において、新しいテクノロジーやサービスの多くはシリコンバレーから発信されています。ITの聖地として、世界トップクラスの知見やエンジニアが集まる場所で、最新のソリューションをいち早く取り入れ、日本のお客様にスピーディーにご提供できるスキームを作るためです。

当面のミッションは、米国でサービスを展開するのではなく、新しいテクノロジーやサービスを日本国内のお客様にご提供することです。

インターネットが普及し、テクノロジーの発展が目覚ましい現代なら日本にいてもすぐできそうな気がすると思うかもしれません。

しかし、日本で展開される製品の多くは、どこかのITベンダーがリセーラー(代理店)となって持ち込まれたものか、大手企業が設立した日本法人経由のものです。ベンチャー企業の優れた技術は、待っているだけではすぐには手に入らないものが多数あります。

私自身、昔からそのような仕事を手がけていたので実態をよく把握しています。日本で待っているだけで代理店経由の製品・サービスだけを使っていると、スピード感がなく、お客様に最適なソリューションを提供できません。クライアントニーズに適った鮮度の高い情報をスピード感を持って提供するために、現地拠点を設立しました。

コロナ禍で加速したシステム内製化と、SIerモデルへの警鐘

── 成長の角度がもっとも上がったタイミングはいつでしょうか。

山菅 2020年のコロナ禍です。世界中でパンデミックが起こり、多くの企業がIT投資を一時停止し、大手の仕事は著しく減少しました。

これまでたくさんのIT投資をしてきた大手ユーザー企業は、外部に依存するウェイトを減らし、自社でなんとかしようという「内製化」へと大きくシフトしたのです。

日本の事業会社におけるIT内製率は約15%程度しかなく、約半分が内製である欧米と比べるときわめて低い水準です。

日本ではこれまで、大企業が大手ITベンダーに「予算はこれだけあるから、いい感じのシステムを作ってくれ」と丸投げする構造が長く続いてきました。中身が何も検討されていない状態での発注です。

これはたとえるなら、「5000万円あるから車を持ってきて」と依頼し、どんな車を何台欲しいかを指定しないのと同じです。

受注側は予算を使い切るために高級車を持ってきたりしますよね。建設業界で例えるなら、ビルの高さも決まっていないのに数百億円の予算だけ決めて発注するようなものです。発注側はできるだけ多くの機能を詰め込みたい一方で、受注側は利益を出すためにコストを抑えたい。この利益相反が必ずトラブルや衝突の原因になります。

── その思いが、現在のビジネスモデルにつながっているのですね。

山菅 私は前職の会社がSIerだったのですが、当時からSIerとしてシステムを売るのではなく、お客様に寄り添った事業への転換を社に提案していました。

しかし当時の主要事業である「開発・構築」を、ユーザーサイドのサポートサービスに転換することはとても大胆な事業転換だったため、当時の経営陣は誰も賛成しませんでした。しかし私はこの時点から、現在多くのSIer企業が直面しているような事業転換を迫られる時代が訪れると確信していました。

コロナ禍で内製化の意識が高まり、当社への依頼は一気に増えました。内製化を推奨し、お客様のIT業務を補完する当社のスタイルが評価された結果、2020年から2024年にかけて毎年120%の成長を継続し、規模は約2倍になっています。

AIの台頭で激変するIT業界。本当のDXと「残る仕事」

── 今後のIT業界をどのように展望していますか。

山菅 AIが普及すると、プログラミングの作業そのものが大幅に減ります。それは、構築やプログラミングを主業とするSIerの仕事が激減することを意味します。

本当のDXはこれから本格化します。運用やプログラミングがAIに取って代わられるなか、これからは「それ以外の領域の仕事」に移行していきます。

エージェント・スミスが手がけてきたのは、まさにその「残る領域」の仕事なのです。プログラマーやシステムエンジニアがすぐに当社の領域の仕事ができるかというと、簡単ではありません。よりお客様サイドでの業務で、上流の対応能力が求められるのです。現在の業界の中心的存在であるSIerの仕事も大きく様変わりします。したがって現在のような開発と構築にフォーカスした人材要件は通用しなくなります。

── 究極的には、どのような形を目指していますか。

山菅 お客様の情報システム部門を当社がすべて代行できることを目標としています。具体的には、我々の知見によってお客様社内で事業展開とIT戦略を連動させられるレベルまで向上させて、お客様の情報システム活動全般を我々が代行することを目標としています。

特に中小規模の企業ほど、自社でITリテラシーの高い要員を抱え、育成するのは難しくなっています。

ITの本質的な価値は、航空会社やホテルの予約システムを見ると分かりやすいでしょう。昔は旅行代理店に安く席を卸して売ってもらう中間搾取の構造でしたが、今は自社のWebサイトで直接販売できます。

AIを使って空いている日は安く、混んでいる日は高くなるようなダイナミックプライシングを行えば、コミッションを払わずに利益を最大化できます。これがIT化の力です。

巨大企業でさえ、膨大なIT予算のすべてを自社グループだけで捌くことは不可能です。私たちは、そうした企業の不足する『盾・頭脳・手足』を補完し、企業のIT戦略そのものを支える存在であり続けます。

経営判断における対話の重要性と、攻めのIT投資

── M&Aも積極的に行っていますが、成功の秘訣はありますか。

山菅 M&Aで最も難しいのは、買収された会社の社員の心理的ケアです。彼らはまるで「占領された」ようなネガティブな意識を持ちがちです。だからこそ、私は買収した会社の全社員と直接対話する時間を大切にしています。

一昨年も、Build up Service社(当時70人)の社員全員と小グループ制で複数回に分けて食事をしながらコミュニケーションをとりました。その後、事業戦略と人事戦略の2つのタスクフォースを作り、希望者十数名にこれからの制度や事業展開を1年ほどかけて検討してもらいました。

自分たちの会社は自分たちの意思で方向性を定め、自分たちの価値基準で評価するという自立意識が芽生え、モチベーションを高めることができました。社員のモチベーションを高めることが、M&Aを成功させる道です。

── AI活用などの新しい技術に対して、企業はどのような姿勢で臨むべきでしょうか。

山菅 あらゆる産業でAI活用が不可避な潮流となりつつある現在、自分の会社がAI活用に乗り遅れるのではないかと不安を感じているなら、ぜひ当社にご相談ください。

大企業の方々に多いのが、セキュリティやコンプライアンスを懸念して手をこまねいているケースですが、それでは他社に置いていかれます。守るだけでは現在のような大きな潮流を乗り越え、会社を成功させることは不可能です。未来の仕組みを先取りし、事業展開に有効活用することがこれからの企業の生き残りをかけた挑戦になると思います。

成功のためには事業転換をも厭わず、また経営層が自身の守備範囲に固執することなく、リスクを恐れない「攻めのIT投資」がこれからの鍵となるのではないでしょうか。

氏名
山菅利彦(やますげ としひこ)
社名
株式会社エージェント・スミス
役職
代表取締役社長

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