株式会社ソラジマ

株式会社ソラジマは、ミッションに「今世紀を代表するコンテンツを創る。」を掲げ、縦型のスマホ漫画を中心に事業を展開する漫画出版社だ。フランスでジャパニーズコンテンツの可能性を肌で感じた前田儒郎氏が共同創業者であり、事業のピボットを経て急成長を遂げた。

同社は徹底したデータ分析と知見の共有、作品展開力を武器に、作家と深く伴走しながら大規模ヒットを狙う。代表取締役Co-CEOの前田氏に、創業の経緯や高成長を支える3つの要因、そして2050年を見据えた壮大な「35ヵ年計画」について話を聞いた。

前田儒郎(まえだ じゅろう)──代表取締役Co-CEO
1992年生まれ。2015年、早稲田大学教育学部卒業。2017年、フランスのソルボンヌ大学大学院文化地理学科修了、日本食チェーン店のフランス事業開発責任者に就任。2019年に「今世紀を代表するコンテンツを創る。」をミッションに掲げる漫画出版社・株式会社ソラジマを、萩原鼓十郎氏と共同創業。縦型のスマホ漫画を中心に数多くのオリジナル作品を制作・配信し、日本だけでなく、韓国・北米・中国など世界9ヵ国・地域で展開。
株式会社ソラジマ
「今世紀を代表するコンテンツを創る。」をミッションに掲げる漫画出版社。縦型のスマホ漫画を中心に、数多くのオリジナル作品を制作・配信。日本だけでなく、韓国・北米・中国など世界9ヵ国・地域で展開。タテ読み漫画アプリ『ソラジマTOON』や漫画レーベル『よすみ』の運営に加え、ドラマ化・商品化など作品を多角的に展開。 企業サイト:https://sorajima.jp/

目次

  1. フランスで日本のコンテンツが受け入れられた実感から創業
  2. 持続的成長を実現するための3つの因子
  3. 共同CEOの役割分担は?
  4. SORAJIMAが掲げる「35ヵ年計画」
  5. 「時代や世代、世界を超えて人々に夢を与え続ける」漫画出版社のあり方

フランスで日本のコンテンツが受け入れられた実感から創業

── 創業の経緯を教えてください。

前田氏(以下、敬称略) 僕のキャリアは、フランスで日本食チェーンの事業開発に携わったことから始まります。おにぎりをはじめとする日本食は、世界で通用する立派な日本の文化です。現地の最前線で、日本の食文化が受け入れられるすごさと、その難しさを肌で感じました。

この経験をふまえ、さらなるステップアップを目指して日本に戻り、日本で優れたプロダクトやサービスを世界へ広めるためにSORAJIMAを創業しました。当初は、YouTubeでのアニメーション制作をメイン事業として展開しました。

YouTubeは当時、大きなトレンドの中にありました。日本のアニメーションがさらに普及すると確信して取り組んだ結果、一定の成果を出すことができました。しかし、市場の限界を感じる部分もあり、事業を移譲してピボットを決断しました。

2021年に、縦読み漫画である「Webtoon」へピボットします。ここからコンテンツ制作をより加速させました。現在はWebtoonをつくる会社という枠を超え、オリジナル漫画づくりへの1点集中をしながらも、原作の多メディア展開を行う漫画出版社へ進化しています。

2026年以降は、編集部を5つ立ち上げ、縦横の形式にとらわれず漫画出版社としての広がりを強化しています。

また、漫画レーベル「よすみ」をはじめとした、オリジナル作品の書籍展開や、ドラマ化、グッズ化、アニメ化など、作品の多角的な展開を強化。世代や国境を超えて愛される、コンテンツをつくることが僕たちの目標です。

持続的成長を実現するための3つの因子

── Webtoon市場の現状と、将来性についてどのように分析していますか。

前田 Web漫画とWebtoonは分けて考える必要があります。Web漫画市場はこの10年で爆発的に成長し、現在は国内で5000億から6000億円規模です。その中の、一つの大きな土俵としてWebtoonが存在します。

Webtoonの国内市場は、現在1000億程度と言われています。YouTubeアニメからピボットした理由は、漫画という市場の堅実さにあります。YouTubeでのアニメや漫画体験は、まだ正解が見えず、上限があるかもしれない領域でした。

一方で、漫画は日本が100年かけて確立してきた強固な市場です。この領域にこそ、世界を獲るための大きな勝機があると考えました。

── SORAJIMAがこれほど高い成長を維持できている要因はどこにあるのでしょうか?

前田 まず前提としてヒットは作家さんの力ありきなのですが、その上で僕たちが会社としてヒットを創出するための戦略を3つ定義しています。

一つ目は、定量的なデータに基づく創作のサポートです。自社アプリ『ソラジマTOON』を運営し、すべてのデータを自社で管理しています。

漫画出版社としては珍しく、社内にCTOが在籍している点も強みです。編集部が求めるデータを、翌日には可視化できるよう迅速な開発体制を構築しています。このデータドリブンな環境が、作品の質を底上げする大きな要因です。

二つ目は、定性的な経験を組織の資産として蓄積することです。編集者の感覚や経験をデジタルナレッジとして可視化します。NotionやSlackを活用し、全社員がほとんどすべての情報にアクセスできる環境を整えました。

新しく入社した編集者が、過去のエース編集者の失敗談をいつでも参照できる仕組みです。単なる失敗で終わらせず、組織全体の知見として積み上げます。この徹底した情報共有文化が、組織としての成長を支えています。

三つ目は、販売力と作品展開力の強化です。漫画はつくるだけでなく、いかに世へ届けるかというセールス機能も重要です。さらに、グッズ化や映像化といったIP展開には、非常に大きな力が必要になります。

この領域を強化するため、プロフェッショナルな人材を役員に迎えています。デジタル広告代理店のエースや、大手ゲーム事業のマーケティング経験者などです。これにより、本来、何もしなければ100人にしか届かなかった作品を、いかに1万人に届けられるようにするかという体制を構築しています。

── データを重視すると、作品が画一化される懸念はありませんか?

前田 作品の企画とデータの活用は、異なる次元のものと考えています。とがった作品をつくるか、王道の作品をつくるか、そういった企画面の話は、作家さんや伴走する編集者の企画段階での判断です。データは、その作品をいかに読者に読んでもらえるようにするか、端的に言えばいかに読了率を上げるかをサポートします。

データは仮説を可視化し、作品のポテンシャルを最大限に引き出すための道具です。自社作品のデータを蓄積し、常に最適な表現を追求しています。

共同CEOの役割分担は?

── 経営体制について、二人の代表による役割分担はどのようになっていますか?

前田 役割は時期によって柔軟に変化しますが、大まかな役割分担として、僕は主に新規事業の立ち上げや、コアとなる事業のグロースを担当します。萩原は、コーポレート、ファイナンス、人事といった基盤を支える役割です。

現在は、僕がリソースの7割以上を少年漫画編集部の立ち上げに投入しています。もちろん、状況に応じて萩原が事業に入ったり、僕がコーポレートを見たりすることもあります。その時々に必要なことを、最適な人間が実行するスタイルです。

── 意見が分かれたときは、どのように解決しているのでしょうか?

前田 解決するまで徹底的に話し合う、というシンプルなルールを貫いています。二人で決めるという約束には、並々ならぬ強さがあると感じています。この対話を妥協しない姿勢が、SORAJIMAの経営判断の軸となっています。

SORAJIMAが掲げる「35ヵ年計画」

── 「35ヵ年計画」を掲げているそうですが、その内容を教えてください。

前田 2022年を漫画事業への本格参入の年とし、35年かけて壮大なビジョンを実現します。「誰もがバカにする大きな夢を叶えてみせる」という最上位のビジョンを掲げています。

具体的には、2035年までに国民的な大ヒット漫画を創出。さらに2050年までには、今世紀を代表するコンテンツを一つ生み出すことを目指します。時代が変わればコンテンツの形も変わりますが、少年漫画はその有力な候補です。だからこそ、僕は今、少年漫画編集部の立ち上げに全力を注いでいます。

── 国民的ヒットとは、具体的にどのような作品を指すのでしょうか?

前田 業界的な順位が1位2位ということではなく、「今年一番読まれた漫画はこれだよね」と聞いたときに、10人中10人近くが口を揃えて名前を挙げるような、その時を象徴する作品を指します。また、時代を超えて、僕たちや作者さんを含めた今の人たちがいなくなったとしても、作者さんのメッセージや作品の魂がいつまでも続き、世界中で新しいファンを生み出し続けていく。そんな、作家さんが作品に込めた想いを風化させず、世代を超えて未来へ繋いでいくための強固な土台となるような作品を目指しています。

── 少年漫画にそこまで注力する理由は何でしょうか?

前田 SORAJIMAのミッションを体現するため、そして次世代に夢を届けるためです。少年漫画は、世代を超えて世界中に広がる圧倒的な影響力を持っています。このジャンルに最低でも10年間、会社の利益のすべてを投じてでも、勝負し続ける覚悟を持っています。

今、エンタメの選択肢は無数に広がり、デジタル上の多様なコンテンツに囲まれる中で、中高生をはじめとする若い世代が漫画雑誌を手に取る機会は急激に減っています。

さらに、純粋な少年向けの作品自体も減少傾向にあり、このままでは僕たちが胸を熱くした「少年漫画」という素晴らしい文化そのものが、次の世代に繋がらなくなってしまうのではないかという強い危機感があります。

僕らの世代は、少年漫画から人生で本当に大切だと言えることをたくさん教えてもらいました。だからこそ、その大切な文化のバトンを次の世代へ繋いでいく編集部が必要だと考えています。少年漫画への本気の投資は、僕たちが育ててもらったカルチャーへの、心からの恩返しでもあります。

実際に、この編集部を立ち上げるにあたって、僕自身も中学校や高校を訪問し、今の10代のリアルな声を聞いています。そこで彼らに「普段、紙の漫画雑誌って読んでる?」と聞くと、「え、雑誌を買うわけないじゃないですか、当たり前ですよ」といった、清々しいほどの反応が返ってきます(笑)。彼らにとって、漫画雑誌を買うことはもはや当たり前ではありません。しかし、だからといって、彼らが漫画の物語を嫌いになったわけではないんです。少年心を持つすべての人に響く物語は、いつの時代も必要とされています。

── ターゲットは、いわゆるZ世代と呼ばれる層になるのでしょうか?

前田 僕たちがターゲットとして見据えている「少年」とは、単なる年齢的な区切りだけではありません。時代や世代、年齢に関係なく、心の中に熱い「少年心」を持っているすべての人たちです。そうした人々の胸を躍らせ、生きていく上での夢を与える物語は、いつの時代も、どの世代にも必ず必要とされています。僕たちは、その最高の物語を彼らに届けていきます。

「時代や世代、世界を超えて人々に夢を与え続ける」漫画出版社のあり方

── これまでの事業運営の中で、想定外のハードルはありましたか?

前田 大きな困難というより、僕たちが創業当時から掲げている「今世紀を代表するコンテンツを創る」という野望を達成するために、僕たちがどういう漫画出版社であるべきか、という本質的な気づきがありました。

現在の日本のビジネス界隈には、目先の短期的な利益での上場・売却(エグジット)をゴールとする風潮が強くあります。しかし、僕たちは単に一時的な流行を追いかける企業ではなく、本質的な漫画ビジネスを追求する「漫画出版社」です。本当に何世代にもわたって世界中で愛され続けるような偉大なコンテンツを創るには、そうした目先の数字を追う枠組みのままではいけないと途中で気づいたんです。

そのヒントになったのが、実際にエジプトを訪れた際に出会った、ツタンカーメン王の墓の発掘エピソードでした。考古学者のハワード・カーターは、「絶対にあるはずだ」と信じて発掘を続けましたが、周囲の全員が諦めて撤退していきました。しかし、イギリスのカーナヴォン伯爵だけは、彼を信じて資金を出し続けたんです。

二人は夏になると、次はどこを探そうかと少年のように語り合っていたといいます。そして、打ち切り直前の最後の一回で、ついに世紀の大発見を成し遂げました。その発見がもたらした価値は、100年経った今もなお、世界中の人々にロマンと夢を与え、莫大な経済効果をエジプトにもたらし続けています。3000年以上前のものが完全な状態で残っているその圧倒的な光景を目の当たりにしたとき、僕たちがつくる会社も作品も、それくらいの時間軸で愛されるものでありたいと強く衝撃を受けました。

── 投資家の方々に対しては、どのような出口(イグジット)を提示していますか?

前田 僕たちの出口は、大きな夢を叶え、時代や世代、そして世界を超えて人々に夢を与え続ける存在になることです。ファイナンス戦略は、その過程における重要な手法の一つだととらえています。IPOも選択肢にありますが、それはあくまでビジョン達成のための手段です。

僕たちがやるべきなのは、このカーターとカーナヴォン伯爵のような「超長期で、とてつもない大きな夢を一緒に見に行ける強固な関係」をパートナーと築くことです。

何のために企業があり、何のために投資があるのか。それほど大きなテーマを大層に語れる立場にはありませんが、少なくとも僕は、この3000年以上も前のツタンカーメン発掘のエピソードに胸が熱くなりました。SORAJIMAも、こんな風に時代を超えて、今を生きる世界中の人々に感動を与えられるような存在でありたいと深く心に決めています。

とてつもなく大きなものを、長い年月をかけて創り上げる。この壮大な挑戦に共感し、作家さんの想いを世界へ届けるべく、伴走してくださる投資家の方々と出会いたいと願っています。短期的な利益を超えた先にある、真の価値を共につくり上げたいです。