
1985年に来日し、東京大学大学院で博士号を取得した、中国出身の門洪涛氏。同氏は株式会社CSK(現SCSK)や日本ポラロイド株式会社などを経て、激動のさなかである2001年に株式会社ビットストロングを創業した。
当初は画像系のソフトウェア開発を主軸としていたが、リーマンショックを機に自社の営業力を強化。後にコロナ禍でのサーマルカメラの販売がターニングポイントとなり、商社としての機能を飛躍的に拡大させた。
現在は、海外の優れたハードウェアと自社のIT技術を融合させた「ソフト×ハード」の独自モデルにより、医療やハイテク産業分野へ高い価値を提供している。幾多の荒波を乗り越えてきた門氏に、事業転換の詳細や独自のIT人材育成、そして未来像について聞いた。
目次
写真・画像業界の荒波を乗り越えてきた門社長
── 門社長は1985年来日とのことですが、日本での歩みについて教えてください。
門氏(以下、敬称略) 来日してから、すでに40年ほどが経過しました。最初は留学生として日本に来て、東京大学で博士号を取得した後に、コンピューター関連の企業に就職しました。
最初に勤めたのはCSK(現SCSK)という会社です。その後、バブル崩壊などの時期を経て、日本ポラロイドという写真業界の企業に転職しました。
── 前職のソフトウェア開発と写真業界では、一見すると関連性がないようにも思えますが、どのようなつながりがあったのでしょうか?
門 私の専門分野は画像処理です。CSKではソフトウェアの側面から画像に関わり、日本ポラロイドでは写真というハードウェアに近い側面から画像にかかわりました。
アプローチは異なりますが、画像という軸は一貫しています。日本ポラロイドでは写真業界の仕事を経験しましたが、当時はその業界全体が大きな転換期にありました。コダックなどの大企業が苦境に立たされる半面、富士フイルムのように事業転換に成功した企業もありましたが、業界構造は劇的に変化しています。
── フィルムからデジタルへの移行という、非常に大きな変化の時期ですね。
門 その通りです。フィルム関係の部署が縮小し、多くの企業がリストラや新規事業への転換を余儀なくされました。米国のポラロイドもその波に抗えず、最終的には倒産することになりました。
私が自分の会社を立ち上げたのは、そのような激動のさなかである2001年3月のことです。
リーマン・ショックとコロナ禍がもたらした転換点
── 創業当時はどのような事業を中心に展開していたのでしょうか?
門 創業時は、私の専門である画像系のソフトウェア開発がメインでした。しかし、2008年のリーマン・ショックで状況が一変しました。
それまで順調だったのに、まったく仕事が来なくなったのです。開発会社に共通する課題ですが、当時の私たちは営業力が非常に弱い状態でした。
── 多くの技術系企業が直面する課題ですね。そこからどのように立て直したのでしょうか?
門 営業力を強化するために、まずは自社のパッケージソフトを販売することに挑戦しました。しかし、これには多額の費用がかかった上に、努力してもまったく売れないという苦しい時期がリーマン・ショック後から10年以上続きました。
もっとも、世の中の動きが読めない中では、生き残るための準備を泥臭く続けるしかありません。
転機となったのは、新型コロナウイルスの流行です。私たちはもともとカメラ関係の仕事をしており、そのラインアップの中に赤外線カメラがありました。
── 非接触で体温を測定するサーマルカメラですね。
門 そうです。赤外線カメラのメーカーが製品を売り出したタイミングで、私たちがその販売に注力したところ、非常に大きな反響がありました。
それまで10数年間、物を売るための準備を地道に続けてきたことが、危機ともいえる状況で実を結びました。
現在は、この商社としての売り上げが全体の半分を超えるまでになっています。売上規模としては、3億円から4億円ほどにまで成長しました。
「ソフト×ハード」の融合がもたらす独自の競争優位性
── かつては中国でのオフショア開発にも力を入れていたそうですが、現在の事業環境はどうですか?
門 以前は130人を超える規模でオフショア開発を行っていましたが、現在は縮小しています。
理由は、中国のコスト上昇です。かつては賃金の安さがメリットでしたが、現在は採算が合いません。中国で安くつくるというモデルには、もはや魅力がないと判断しました。
── それに代わる現在の強みは、どのような点にありますか?
門 現在の強みは、海外の優れた製品を日本に持ち込み国内のニーズに合わせて提供する商社機能と、IT技術を組み合わせた独自のビジネスモデルにあります。
たとえば、日本のソフトウェア会社がハードウェアを必要とする場合、端末やそれを取り付けるスタンドまで含めて提供できるのが私たちの強みです。
── ソフトウェアだけでなく、物理的な機材までトータルでサポートできるということですね。
門 その通りです。私はもともとカメラ業界にルーツがあるため、ハードウェアに対する知見が深く、顧客ネットワークも持っています。ハイテクな産業分野や医療現場など、普通は入り込みにくい領域に深く踏み込めることが、他社にはない優位性となっています。
顧客が抱える「かゆいところに手が届く」ようなハードウェアと、それを動かすソフトウェアをセットでの提供が、高い信頼につながっているということです。
IT人材不足の中でSES事業が継続可能な裏側
── エンジニアの派遣事業(SES)についても、創業時から継続しているとのこと。採用が難しい時代ですが、どのような対策を講じていますか?
門 私たちは、ハードウェアの販売に伴う設置工事やサポート、ヘルプデスクといった人材の育成に力を入れています。
IT業界で求められる高度な開発人材の確保は競争が激しいため、技術要件が極めて高い純粋なシステム開発ではなくハードウェア周りの実務であれば、未経験からでも社内で着実に育てられるからです。
── 具体的には、どのような教育プログラムを実施しているのでしょうか?
門 実際の業務を通じて、多種多様なスキルを習得してもらいます。たとえば、製品を売るためのSEO対策やデータ連携のためのRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)活用などです。
社内には経験豊富な先輩がおり、チームで仕事を進める中で、新人が着実に成長できる環境を整えています。
── 業務フローの自動化など、これからの時代に求められるスキルが身につくのですね。
門 はい。単なるプログラミングだけでなく、ビジネスがどのように動くのか、データがどのように連携するのかを実体験として学べることは、大きな魅力だと自負しています。
専門特化と地域連携で描くビットストロングの未来像
── 事業がどのような状態にあるのを理想としていますか?
門 ソフトウェアの力とハードウェアという武器を掛け合わせ、顧客の本業を支えるパートナーとしての地位を確立することです。
私たちは、顧客の本業と競合することはありません。あくまで顧客が苦手とするハードウェアの提供や、その運用を支えるサービスに特化して事業を拡大します。
── その戦略を加速させるために、どのような投資を考えていますか。
門 基本は人材投資ですが、同時に専門性を高めるためのM&Aや業務提携も積極的に行います。
最近では、歯科向けのシステムを扱う企業を引き継ぎました。医療分野は私たちの重点領域ですが、より深いサポートを行うにはその業界特有の専門知識が不可欠です。
── 医療だけでなく、工場や実験室といった分野にも広がりを見せていますね。
門 医療、公共、実験室という三つの柱を中心に考えています。これらは光学的な視点で見ると共通点が多く、私たちの技術が最も生かせる分野です。
医療装置の保守は、工場の設備管理と似ている部分があります。光学の力をもって医療や産業をサポートする体制を、さらに強固なものにします。
── 今後の展望について、教えてください。
門 私たちは光学系の会社として、さまざまな部材と技術でお客様をサポートしています。今後は、特定の分野に秀でた専門家の方々と、より多くのコラボレーションをしたいと考えています。
特に地方の医療機関や施設をサポートするためには、現地で工事や修理ができるパートナーの存在が欠かせません。私たちの機材と、地方にいらっしゃる専門家の方々の力を合わせることで、日本全国の現場を支えたいです。