この記事は2026年8月3日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー):消費減税の十分な財源があることを示す中長期財政試算」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. アンダースロー(ウィークリー):消費減税の十分な財源があることを示す中長期財政試算
  2. 消費減税はバラマキではなくコペルニクス的転回をした財政政策の投資戦略の一環(7月29日)
  3. 骨太の方針で明確に示された日銀のデュアル・マンデート(7月31日)

アンダースロー(ウィークリー):消費減税の十分な財源があることを示す中長期財政試算

  • 高市政権は、日本経済の停滞の原因は、人口動態の宿命ではなく、投資不足の意志の問題だと判断している。城内日本成長戦略担当大臣を中心に、専門家の英知を結集し、官民連携の戦略投資の拡大で、強い経済を実現する意志を示す、グランドデザイン(日本成長戦略)が生まれた。経済政策の総動員で、民間投資をクラウディング・インして、国力を強くする、グローバルな厳しい競争に勝ち残ろうとする。新自由主義の古い考え方で、政府の関与の拡大とクラウディング・アウトを懸念していては、日本は時代の変化に取り残され、競争に劣後し、国力の衰退を招くとの危機意識も強い。

  • 日本成長戦略では、2040年度までに17戦略分野の62の主要な製品・技術を中心に、370兆円超の官民合計の投資額が示された。官民の投資額の想定が明確に示されたことは、企業と政府の支出する力である、ネットの資金需要をターゲットとすることが決定されたことになる。ネットの資金需要の拡大で、官民の支出する力を強くし、家計に所得を強く回す。投資需要の拡大で、需給ギャップ2%の「高圧経済」とし、景気を十分に強くすることで、民間の投資の誘発力を強くする。

  • 日本成長戦略では、「需給ギャップは0%近傍となったが、景気は十分に強くなく、地方や中小企業まで景気回復の実感はまだ広がっていない」との認識が示された。骨太の方針では、「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく」とする高圧経済の方針が示された。設備投資と公共投資の実質GDP比が上昇を続け、国内投資拡大による労働生産性の向上にともなう実質賃金の上昇をともない、企業貯蓄率が低下し、ネットの資金需要が十分なマイナスとなることが、成長戦略の、進捗の尺度となる。

  • これまでの内閣府の中長期の経済財政に関する試算では、財政収支が黒字に向かう中で、ネットの資金需要はプラスの消滅を続け、家計の貯蓄率が上昇せず、家計のファンダメンタルズはしっかり回復できないという「弱い経済のグランドデザイン」であった。日本成長戦略の下では、政府の戦略投資の分、財政収支は赤字となるのは当然だ。ネットの資金需要がマイナスという官民合わせた投資超過によって、家計にしっかり所得を回すことができる、「強い経済のグランドデザイン」を構築する。

  • 日本成長戦略と高市政権初の骨太の方針の決定後、新たな中長期経済財政試算では、企業貯蓄率は正常なマイナスの回復に向かい、政府の戦略投資の分の財政赤字とともに、ネットの資金需要も正常なマイナスの回復に向かうことが示された。2040年度までに、企業貯蓄率はマイナス化、ネットの資金需要は-2%程度まで回復する。「弱い経済のグランドデザイン」を脱した。しかし、企業貯蓄率のマイナス化が、成長実現ケース①(全要素生産性5年程度で1.1%まで上昇、その後更に5年程度で1.4%に到達)では2038年度、成長実現ケース②(全要素生産性5年程度で1.1%まで上昇し、その後一定)では2040年度と遅く、その幅も―0.4%・-0.1%と小さいことだ。結果として、家計の貯蓄率は2%程度でまだ横ばいだ。

  • 問題は、官が戦略投資を拡大するコミットメントをしたが、企業がしっかり投資拡大でついてくるのか、新興企業が育つのか、まだ不透明であることが示されていることだ。企業がまだコストカット型から投資型への移行が道半ばであるとの意識だろう。企業の投資活動が強くなり、企業貯蓄率のマイナス化が早く進み、その幅も大きくなれば、ネットの資金需要は更に大きなマイナスへ回復し、家計のファンダメンタルズは、現在の消費と将来に向けた貯蓄の両方の拡大ができるまで、回復することができるようになる。「強い経済のグランドデザイン」への転換には、民間の力が必要である。転換がなされれば、「強く豊かな日本」を国民は実感できるようになる。

  • 投資が実質賃金の上昇につながり、家計のファンダメンタルズが回復するまでには時間がかかる。その間、消費税率を引き下げ、家計を支えるのは合理的だ。2027年度の税収見込みは90.5兆円となった。消費税の食料品の税率が1%まで引き下げられ、税収が4兆円程度下振れても、2027年度の税収は2026年度の見込みの83.7兆円を上回ることになる。消費税の減税は国債に頼らずできることが明らかとなった。名目GDPが横ばいであった時は、成長による税収増は恒久的な財源とはならなかった。増えれば、また減るリスクが大きかったからだ。しかし、名目GDPが持続的に拡大する局面となった現在、来年の税収は、今年の成長による税収増の上に、更に増加することになる。持続的な名目GDP成長の下では、成長による税収増は恒久的な財源となる。更に、当初予算で財務省が歳入を過小に見積もる癖によって、補正予算まで歳入が7兆円程度も上振れることが常態化している。恒常的支出を補正から当初に回すのであれば、この過小見積もりの癖も正すべきで、その修正は財源と見なすこともできる。税収・税外収入は社会保障費を含む義務的支出を大きく上回っており、消費税の減税が義務的支出の削減につながることはない。

図1:日本成長戦略の下で「強い経済のグランドデザイン」へ

日本成長戦略の下で「強い経済のグランドデザイン」へ
(出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図2:義務的歳出(社会保障費と地方交付税交付金)と税収+税外収入

義務的歳出(社会保障費と地方交付税交付金)と税収+税外収入
(出所:財務省、クレディ・アグリコル証券)

以下は配信したアンダースローのまとめです

消費減税はバラマキではなくコペルニクス的転回をした財政政策の投資戦略の一環(7月29日)

日本成長戦略で、日本経済の再生のために望まれる官民連携の投資額が決まったことで、企業と政府の支出する力のターゲットが事前に決定された。政府が投資をしても、企業がどれだけ投資をするのか分からないという無責任な考え方は、高市政権の成長戦略の方針と矛盾する。企業と政府の支出する力であるネットの資金需要0%と、需給ギャップ0%の、緊縮志向のリミッターを外すことが必要だ。投資需要の拡大で、需給ギャップ2%の「高圧経済」とし、景気を十分に強くすることで、民間の投資の誘発力を強くする。ネットの資金需要は-5%がターゲットで、官民の支出する力を強くし、投資による生産性向上で、家計に所得を力強く回す。国内設備投資サイクルが上昇を続け、賃金上昇をともない企業貯蓄率が低下することが、成長戦略の進捗の尺度となる。現在、ネットの資金需要の消滅でも、経済に縮小の力がかからないのは、円安によって、海外から所得を回すことができているからだ。しかし、この形は持続的ではない。官民連携の投資拡大によって、ネットの資金需要を自立的に-5%のターゲットに回復させることが、成長戦略の要となる。

高市政権の2026年の骨太の方針では、財政収支は黒字でなければならないという緊縮志向の呪縛による財政再建優先の天動説から、投資拡大によって国力を回復する積極財政の地動説へ、「経済財政運営の在り方そのものに関するコペルニクス的転回」をし、予算編成の方針を抜本的に改革する。日本経済停滞の原因であった国内投資を拡大させるため、責任ある積極財政の考え方の下、経済政策と政府予算を総動員する。効率重視の新自由主義から、官民連携の大規模かつ長期的な財政支出を伴う産業政策のグローバルな大競争の時代への転換に対応する。「危機管理投資」と「成長投資」の戦略投資を官民連携で進め、企業を貯蓄超過から投資超過に回復させ、新たな成長型経済へ移行する。17分野を中心に戦略投資をポートフォリオとして拡大し、経済の成長力と国民の安全と安心を確保し、経済規模と供給能力を持続的に拡大し、所得を増やし、企業収益を上げ、税収が自然増に向かう「強い経済」の好循環を実現し、結果として持続可能な財政とする。緊縮志向を脱し、国民の力を成長の原動力に変えることで、実質で1%超、名目で3%超の経済成長率を早期に定着させ、更に引き上げる。投資の拡大から家計に景気回復の果実が回るまでには時間がかかるため、その間の家計支援策として、食料品の消費税率を0%近傍に引き下げる決断を政府が下すことはほぼ確実だろう。消費税の減税は、バラマキではなく、コペルニクス的転回をした財政政策の投資戦略の一環だと考えているからだ。消費減税ショックと呼ぶことはこれまで財政政策の「コペルニクス的転回」をしっかりウォッチできていなかったことになる。

通常歳出とは別の大規模な「強く豊かな日本投資枠」の創設、補正から当初予算への恒常支出の移行など、予算編成を抜本的に見直す。戦略分野の2040年度までの累計370兆円超の官民投資を実現するため、安定的な債務残高GDP比の下で可能な最大限の財政支出を行う。国債の利払い負担を上回る将来の便益(高すぎる社会的割引率は見直し)がある投資の予算は、複数年度で予見可能とし、要求上限を設けない。PB黒字化目標を事実上無効化し、成長力強化と経済規模の拡大にふさわしい財政支出の拡大を実現するための予算編成へ転換する。追加財政支出の額は、想定する官民投資額を実現するための省庁の積極的な概算要求と財務省査定を経て、年末の予算編成で決まる。省庁の消極的な概算要求と財務省の査定で、追加財政支出が過小で、想定する官民投資額が実現できない場合は責任が発生する。石破政権の緊縮的な骨太の方針の予算である2026年度の新規国債発行額の32.7兆が予算の上限となってはならず、参考にもならない。政府予算の概算要求は、骨太の方針に基づいて戦略投資と補正から当初に移行する恒常的支出で膨らむことは既に明らかであるため、概算要求ショックと呼ぶことも政治をしっかりウォッチできていなかったことになる。

日銀には、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートを課し、政府と日銀の連携で国内投資の拡大を目指す。デュアル・マンデートは日銀の独立性を毀損するものではない。政府と日銀の連携の下、ECB型から、FRB型に、政策運営を変える試みだからだ。「経済財政運営は「強い経済」の実現を目指しており、そのためにも「安定的な物価上昇」の実現に資する適切な金融政策運営を伴うことが非常に重要である。日本銀行法第4条及び政府・日本銀行の共同声明の趣旨に沿って政府と緊密に連携することを期待する。 」「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく」とする高圧経済の方針で、「強い経済成長」の水準が示された。

図1:ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)

ネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(出所:内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

図2:企業貯蓄率と国内設備投資サイクル

企業貯蓄率と国内設備投資サイクル
(出所:内閣府、日銀、クレディ・アグリコル証券)

図3:政府予算の抜本的改革のイメージ

政府予算の抜本的改革のイメージ
(出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券)

骨太の方針で明確に示された日銀のデュアル・マンデート(7月31日)

7月の金融政策決定会合で、日銀は政策金利(無担保コールレートオーバーナイト物)を1%に据え置いた(8対1、反対:高田審議委員)。政府は骨太の方針で、日銀に「「強い経済」の実現に向けては、「安定的な物価上昇」の実現に資する適切な金融政策運営が行われることが非常に重要である」とし、「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートを課した。6月に利上げを決めたばかりであり、デュアル・マンデートの下、利上げが経済活動を下押すことがないか点検する必要があったとみられる。高市政権の発足から、デュアル・マンデートが何度も政府から言及されていたため、骨太ショックと呼ぶことはこれまで政治をしっかりウォッチできていなかったことになる。デュアル・マンデートへの言及は、城内経済財政担当大臣の就任記者会見、初の経済財政諮問会議での高市首相の発言、日銀金融政策決定会合での政府からの発言などがあった。

骨太の方針では、「強い経済」の定義を、「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく」とすることによって、高圧経済の方針の下の日銀のデュアル・マンデートをより明確化した。「安定的な物価上昇」が「持続的な経済成長」につながるという、「安定的な物価上昇」の達成に前のめりのシングル・マンデートのような日銀の説明は、もはや政府の方針と整合的ではなくなった。「持続的」という弱くても満たされる経済成長では不十分で、「強い経済」との両立が課せられているからだ。政府は日銀に、「日本銀行法第4条及び政府・日本銀行の共同声明の趣旨に沿って政府と緊密に連携し、賃金と物価の好循環を確認しつつ、2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現に向けて適切な金融政策運営を行うことを期待する」と、政府の経済政策と整合的な金融政策運営を求めている。

日銀の金融政策の目標を、政府の経済政策の方針と整合的なデュアル・マンデートとし、ECB型からFRB型に転換する試みだ。「日本銀行法第3条(日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない)に基づき、金融政策の具体的な手法については日本銀行に委ねられる」と、目標を達成するための金融政策の手段の自主性に言及した骨太の方針の注とは矛盾しない。高市政権では、これまで軽視されてきた「日本銀行は、その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない」とする日本銀行法第4条がより重視されることになる。条文の解釈は、政府の権限で、日銀が独自に解釈できるものではない。

日銀の展望レポートでは、2026年度から2028年度の実質GDP成長率の見通しは、+0.6%・+0.8%・+0.8%と、経済成長はまだ弱いことが示されている。一方、物価上昇率の見通しは2%台で、物価安定目標に沿った動きが予想されている。高市政権では、2%の物価安定目標の解釈は、「2.0%ジャスト」ではなく、「2%程度」であるとみられる。デュアル・マンデートの下では、日銀が前のめりの利上げをする政治的環境は整っていない。骨太の方針を受けた、2027年度の政府予算の概算要求、財務省の査定、年末の政府予算案の決定を経て、官民連携の戦略投資の拡大の方向性がより明確となる。グローバルな景気の動きが堅調であることを確認し、実質GDP成長率が1%台に上昇していくことが予想できる状態となることが、次の利上げの必要条件だろう。その条件が整うのは来年1月の展望レポートになるとみられる。円安の過度な動きに関しては、「強い経済成長」を犠牲にする利上げではなく、為替介入で引き続き対応するとみられる。

図1:「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の日銀のデュアル・マンデート

「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」の日銀のデュアル・マンデート
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

図2:日銀の見通し

日銀の見通し
(出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)

図3:CACIBの見通し

CACIBの見通し
(注:物価見通しは2027年4月から食料品消費税ゼロ%を前提
出所:クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通し

日本経済見通し
日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
(注:物価見通しは2027年4月から食料品消費税ゼロ%を前提
出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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