この記事は2026年8月24日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー):中央銀行の独立性は通貨の強さを支える根幹」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. アンダースロー(ウィークリー):中央銀行の独立性は通貨の強さを支える根幹
  2. スティープなイールドカーブは財政不安が原因ではない(8月19日)
  3. 日本経済見通しのメインポイント(経済)(8月21日)

アンダースロー(ウィークリー):中央銀行の独立性は通貨の強さを支える根幹

  • 日銀に対し、安定的な物価上昇と強い経済成長の両立を目指す「デュアルマンデート」を政府が付与することについては、政治的圧力による利上げ抑制につながるとの批判もある。しかし、これは日銀法第4条(「その行う通貨及び金融の調節が経済政策の一環をなすものであることを踏まえ、それが政府の経済政策の基本方針と整合的なものとなるよう、常に政府と連絡を密にし、十分な意思疎通を図らなければならない。」)が定める政府との連携義務の枠内にある政策的選択であり、物価安定のみを単一の責務とするECB(欧州中央銀行)型から、物価安定と最大雇用の双方を責務とするFRB(米連邦準備制度)型への転換を試みるものだ。当然ながら、デュアルマンデートの下でも、FRBは独立している。中央銀行の独立性とは、政府の短期的な政治的思惑から切り離された政策運営を意味するものであり、法律に基づく政策目標の枠組みを政府と共有すること自体は、独立性の毀損には当たらない。

  • 政府は「骨太の方針」において、「強い経済」の定義を明確化した。すなわち、「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、さらに引き上げていく」というものだ。これは、日本経済が目指すべき姿を数値で示した点で重要な意味を持つ。日銀法第二条の「通貨及び金融の調節を行うに当たっては、物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする。」の定義も明確化したことになる。一方、日銀が公表した展望レポートによれば、2026年度から2028年度にかけての実質GDP成長率の見通しはそれぞれ+0.6%・+0.8%・+0.8%にとどまり、政府が掲げる「実質1%超」の目標には届かない水準が続く見込みだ。

  • 経済成長の回復はいまだ道半ばと言わざるを得ない。他方、物価上昇率の見通しは同期間を通じて2%台で推移すると予測されており、物価安定目標を大幅に上回る過剰なインフレ懸念はない。政府は、官民連携の戦略投資の拡大によって、日本経済を再生し、「強い経済」を実現しようとしている。戦略投資の拡大の進捗に従って、日銀が政策金利を徐々に引き上げ、企業が貯蓄超過から投資超過に転じた時には、実質政策金利がマイナスを脱する方向性であると考えられる。「物価は安定しつつも成長は弱い」という非対称な状況で、戦略投資の拡大の進捗がまだ不確かであることこそが、デュアルマンデートの文脈で日銀の政策運営を難しくしている本質的な課題である。

  • 政府と日銀が法的枠組みの下で政策目標を共有し、連携して経済運営に当たることは、正常かつ健全な姿である。しかし、外国政府による内政干渉に等しい圧力によって金融政策が変更されるならば、それは中央銀行の独立性を根本から毀損する。そして、外圧に対して脆弱な中央銀行を持つ国の通貨は、市場の信認を失い、長期的に強くなることはない。共同通信によれば、日米両政府が実施した28年ぶりの異例の円買い協調介入が実現した決め手は、日銀の植田和男総裁が「9月以降の早期に政策金利を引き上げる」と強く示唆したことだったという。複数の日本政府関係者は、「利上げの遅れが過度な円安を招き、さらなる物価高と長期金利の上昇が世界金融市場に波及することを米国が懸念していたためだ」と説明した。さらにある高官は、「植田氏の発言は米側に高く売れた。一方で、日銀は次回9月17・18日の金融政策決定会合で利上げ以外の選択肢を取れなくなった」と語ったとされる。

  • また、日米財務相が為替介入に関する共同声明を公表した後、真偽は定かではないものの、米国が日本政府に対し日銀への利上げ促進を水面下で要請したとも報じられた。ベッセント米財務長官は、日本の長期金利上昇に連動して米金利も上昇すれば米国経済を冷やしかねないと危惧していたとされており、米国側にも日本の金融政策に介入する動機があったことが示唆される。仮に外国政府の介入によって日銀の利上げが事実上強制されたのであれば、日銀の金融政策の独立性は深刻に毀損されたと言わざるを得ない。問題はそれにとどまらない。今後の利上げ局面においても、「これは外圧によるものではないか」という疑念が市場に根付いてしまえば、利上げは円高修正の材料として機能しなくなる。それどころか、独立性を失った中央銀行への不信感が、円の信認低下を通じてさらなる円安圧力を生み出すという逆説的なリスクを招きかねない。中央銀行の独立性は、それ自体が通貨の強さを支える根幹であることを、改めて認識する必要がある。

以下は配信したアンダースローのまとめです

スティープなイールドカーブは財政不安が原因ではない(8月19日)

日本のイールドカーブが早期にスティープ化した原因は六つ考えられる。短期2%台、長期3%台、超長期4%台が、日本経済が構造的低迷を完全に脱却した時のイールドカーブの形だと考えられる。この六つの要因により、その形に向かうイールドカーブの正常化が、想定より早く進んだ。イールドカーブのスティープ化は、日本の財政不安が原因ではない。10年国債金利と政策金利の差は、米国と英国の動きと似通っていて、グローバルな動きである。

日銀の拙速な利上げによって、2026年と2027年の実質GDP成長率は、2025年の1%台から減速し、0%台にとどまるとみられる。骨太の方針で示された「2%の物価安定目標の実現の下で、できるだけ早期に、実質で1%を上回る、名目で3%を上回る経済成長を定着させ、更に引き上げていく。」との政府の目標の実現の重荷となっている。日銀が利上げをしても、イールドカーブはフラット化するが、景気を大きく悪化させないかぎり、長期金利は下がらない。日銀が9・10月に利上げをすれば、2027年の実質GDP成長率は2026年の+0.8%から+0.5%程度の潜在成長率なみまで更に減速するだろう。成長率の減速は円安圧力となる。これまで日銀が前のめりな利上げを続けても、円安・長期金利上昇が続いてきたことを忘れてはいけない。

  1. 積極財政を目指す政権の誕生によって、名目GDP3%成長が持続的である期待が高まった。政策金利の影響の小さい超長期から順に金利が上昇した。
  2. グローバルな経済政策の潮流が、新自由主義による効率化重視の投資不足から、官民連携の戦略投資の競争に変化し、長期投資が拡大しつつある。投資が先行する欧米は財政赤字が大きい。
  3. 日銀当座預金残高に付利があるため、日銀の利上げ局面で金利上昇が予想される中、国債投資が控えられる副作用がある。付利のある利上げは、付利のない利上げよりも、イールドカーブをスティープ化させ、引き締め効果が強いリスクがある。長期投資を抑制するリスクにもなる。
  4. 日銀は国債買い入れを減額しているため、名目GDPの増加額と比較して、成長通貨の供給が不足するのではないかとの不安がある。成長通貨の供給の必要性が日銀が減額を止める理由になったと考えられる。
  5. 賦課制度下の年金基金の膨張は、本来民間にあるべき長期資金を政府が吸収していることを示す。民間から吸収した長期資金の50%が海外に振り向けられてしまっているため、長期投資の拡大が予想される中、日本で長期資金が不足する不安がある。
  6. 長期金利の上昇は、日銀の利上げに前のめりの施政によるターミナルレートの織り込みの上昇と概ね連動しており、財政不安によるタームプレミアム拡大主導ではない。タームプレミアムは、2013年の大規模金融緩和以前の水準に戻りつつある。

図1:10年国債金利と政策金利の差(2025年6月末対比)

10年国債金利と政策金利の差(2025年6月末対比)
(出所:Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

図2:市場の日銀ターミナルレート織り込みと国債10年金利

市場の日銀ターミナルレート織り込みと国債10年金利
(注:5日移動平均
出所:Bloomberg、クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通しのメインポイント(経済)(8月21日)

① 異常であるプラスの企業貯蓄率が示す構造的な経済停滞圧力が残っているため、内需はまだ弱い。原油価格上昇や金融政策の引き締めなどによるグローバルな景気減速の下押し圧力を受ける。エネルギーのコストの上昇が、家計の購買力を削ぎ、需要の価格弾力性が上がる。まだ弱い内需と消費減税によって、コアコア物価上昇率(除く生鮮食品・エネルギー)は一時的に減速する。地政学上のリスクの後退に加え、官民連携の戦略投資拡大が実質賃金の上昇につながり、内需を徐々に拡大させる力となる。企業貯蓄率が正常なマイナスに戻ったところで、構造的な経済停滞から完全に脱却する。

図1:企業貯蓄率と消費者物価

企業貯蓄率と消費者物価
(出所:総務省、日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

② 積極財政と緩和的な金融政策の継続によるリフレの力が、名目GDPを大きく拡大させてきた。日銀のこれまでの拙速な利上げに加え、グローバルな景気減速と交易条件の悪化で、名目GDPの拡大は一時的に減速する。

図2:名目GDP

名目GDP
(出所:内閣府、クレディ・アグリコル証券)

③ ネットの国内資金需要(企業貯蓄率+財政収支)が回復し、リフレの力で、名目GDPを拡大させた。高市政権の官民連携の戦略投資と消費減税による積極財政の推進が内需を回復させ、地政学リスクの後退の後のグローバルな循環的景気回復も見込まれる。企業の国内支出の増加によって、企業貯蓄率が低下を始め、積極財政の動きと合わせ、消滅してしまっているネットの資金需要が再回復し、構造的な経済停滞からの完全脱却に向かう力になる。

図3:ネットの資金需要

日本のネットの資金需要(企業貯蓄率+財政収支)
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

④ 設備投資サイクルの上振れが企業貯蓄率を正常なマイナスに戻す力となる。設備投資サイクルが上向いている限り、将来の供給能力の拡大の期待があるため、円安の更なる強い圧力はかかりにくい。企業貯蓄率の低下が設備投資サイクルに追い付いていく局面で、実質賃金の上昇が強くなる。経済・政策・企業・マーケットの重点が外需から内需にシフトする。

図4:設備投資サイクル

企業貯蓄率と国内設備投資サイクル
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

日本経済見通し

日本経済見通し
CACIB
(出所:内閣府、総務省、日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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