この記事は2026年8月31日に配信されたメールマガジン「アンダースロー(ウィークリー):年金財政検証に基づき基金の運用を国内債券中心とすることも社会保険料を引き下げることも合理的」を一部編集し、転載したものです。

アンダースロー
(画像=years/stock.adobe.com)

目次

  1. アンダースロー(ウィークリー):年金財政検証に基づき基金の運用を国内債券中心とすることも社会保険料を引き下げることも合理的
  2. アンダースロー:日本経済見通しのメインポイント(政策)(8月26日)
  3. アンダースロー:Key calls(経済)高圧経済の方針で構造的経済停滞からの完全脱却の動き(8月28日)
    1. 成長(CY26:0.8%・CY27:0.8%・CY28:1.6%):短期的停滞の後に構造的な経済停滞から脱却へ
    2. 物価上昇率(CY26:2.0%・CY27:0.9%・CY28:1.8%):エネルギーを除けは一時的に減速

アンダースロー(ウィークリー):年金財政検証に基づき基金の運用を国内債券中心とすることも社会保険料を引き下げることも合理的

  • 日本成長戦略と中長期経済財政試算のシナリオと、年金財政検証のシナリオは整合的であるべきだ。シナリオは三つある。前者では成長戦略実現ケース①、成長戦略実現ケース②、現状投影ケースである。それぞれの全要素生産性の向上の前提は、1.4%・1.1%。0.6%となる。年金財政検証では高成長実現ケース、成長型移行ケース、過去30年投影ケースである。それぞれの実質GDP成長率の前提は、1.6%・1.1%・-0.1%となる。

  • 年金財政検証において、社会保険料と年金支給額を計算するための現在のベースケースとみられるのは、過去30年投影ケースである。非常に悲観的なシナリオでも、年金基金の積立度合い(年間支払い額)が100年後に1倍となり、純粋な賦課制度に戻るだけであり、日本の年金財政は健全であると説明できる。

  • 問題なのは、過去30年投影ケースの年金基金の想定利回り(名目賃金上昇率+1.3%)が3%の前提となっていることだ。既に、日本の超長期国債の利回りは4%程度となっている。想定利回りを実現する最少リスクポートフォリオを組むというのが合理的で、金融の常識だ。現在のアロケーションである、国内債券25%、国内株25%、海外債券25%、海外株式25%は、過大なリスクをとっていて、非合理的であると判断できる。国内債券への投資を大幅に増加できるはずだ。

  • 成長戦略実現ケース①を前提とした場合、年金基金の想定利回り(名目賃金上昇率+4.0%)は5.4%となる。問題なのは、高成長実現ケースの年金基金の積立度合いは、厚生年金で23倍程度まで膨張してしまうことだ。100年後に1倍の標準的な積立度合いに着地するためには、現役世代の社会保険料を大幅に引き下げるか、年金支給額を大幅に引き上げることができることになる。または、年金基金の想定利回りを大幅に引き下げ、国内債券中心のより安全な運用をすることができることになる。より早く少子高齢化が進行した場合でも、結論は変わらず、より重要なのは経済成長である。

  • 厚生年金保険法で年金の積立金は「専ら被保険者の利益」のために運用するとされている。年金財政検証のベースケースのシナリオを明確に定めず、年金基金の想定利回りも曖昧なまま(変動する賃金上昇率+1.9%)でいることは非合理的で、「被保険者の利益」にはならない。リスクを考慮せず、運用利回りを最大化するというのは金融の常識ではない。

  • 日本成長戦略と中長期経済財政試算のシナリオと、年金財政検証のシナリオは整合的にすれば、悲観的なシナリオで現役世代の社会保険料が過多となり、現役世代の疲弊で悲観的なシナリオが自己実現することを避けられるはずだ。過剰な海外投資による損失と円安のリスクも軽減されるはずだ。日本成長戦略の官民連携の長期投資のベースとなる、長期資金の安定供給にもつながり、成長戦略実現ケースを達成できる確度も上がるはずだ。年金財政検証のメインシナリオが曖昧であることが多くの誤解を生む問題で、日本成長戦略と中期経済財政試算のシナリオと整合的に特定すべきである。

図1:日本成長戦略・中長期経済財政試算のシナリオと年金財政検証のシナリオ

日本成長戦略・中長期経済財政試算のシナリオと年金財政検証のシナリオ
(画像=出所:内閣府、厚生労働省、クレディ・アグリコル証券)

図2:厚生年金の積立度合

厚生年金の積立度合
(注:厚生労働省の「将来の公的年金の財政見通し」
注:「積立度合」は前年度末積立金の当年度の支出合計に対する倍率。国民年金から優先的に取り崩し、100年後に1と置く。
出所:厚生労働省、クレディ・アグリコル証券)

以下は配信したアンダースローのまとめです

アンダースロー:日本経済見通しのメインポイント(政策)(8月26日)

  1. グローバルな循環的景気回復の局面と高市政権の官民連携の戦略投資による内需拡大で、設備投資サイクルの上昇が牽引役となり企業貯蓄率は低下の動きとなる。2026年の骨太の方針で、新たな投資枠を中心に戦略投資の積極財政への動きが始まる。コアコア物価上昇率(除く生鮮食品・エネルギー)は内需の回復の遅れによる減速の後、2%の物価目標に向かって再拡大する。2027年には、設備投資サイクルの上振れと実質賃金の上昇によって内需が回復する。2028年には、内需の回復が加速し、企業貯蓄率は正常なマイナスに戻り、潜在成長率も上振れ、構造的な経済停滞を完全に脱却する。
  2. 図1:日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
    日銀とCACIBのGDP、CPI見通し
CACIBの予想
(注:物価見通しは2027年4月から食料品消費税1%を前提
出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)
  1. 日銀には「強い経済成長」と「安定的な物価上昇」のデュアル・マンデートが課され、利上げペースは緩やかなものとなる。低い実質金利の維持が、経済活動を促進する。骨太の方針で経済政策の大きな転換が示され、消費減税もあり、高市政権の戦略投資拡大と高圧経済の方針がより明確化した。 2028年には、企業貯蓄率がマイナスに戻り、実質政策金利は物価目標対比でマイナスを脱する。日本経済の再生の可能性はより高まり、2029年に2.50%のターミナルレートに達する(2.25%から修正)。

図2:日銀の政策金利

日銀の政策金利
(出所:日銀、総務省、クレディ・アグリコル証券)
  1. 高市政権は、衆議院選挙での大勝を背景に、骨太の方針で、経済・財政政策の大転換をした。高市政権では、需給ギャップが十分に大きくなるまで、積極財政と緩和的金融政策、官民連携の戦略投資・需要の拡大によって、「高圧経済」の方針で、経済規模の持続的な拡大にコミットする。企業の国内支出の増加によって、企業貯蓄率が低下を始め、積極財政の動きと合わせ、消滅してしまっているネットの資金需要が再回復し、構造的な経済停滞からの完全脱却に向かう。実質賃金上昇までの家計の負担は、消費減税などの家計支援の財政政策で軽減することになる。

図3:政府の経済政策の方針

政府の経済政策の方針
(画像=出所:クレディ・アグリコル証券)
  1. 地政学上のリスクが高まる中でのグローバルな景気減速の下、金融・財政政策の後押しが不十分で、信用サイクルと設備投資サイクルが腰折れれば、内需の鈍化で企業貯蓄率は上昇し、構造的不況に戻るリスクになる。日銀の拙速な利上げによって、雇用・賃金・消費を含む内需の回復が遅れるリスクが残っている。設備投資サイクルが腰折れてしまえば、グローバルな戦略投資の競争から脱落し、将来の供給能力の棄損によって、円安と金利上昇に歯止めがかからなくなる。円安のコストを、為替介入や経済対策で軽減しながら、設備投資サイクルの押し上げを続けることが重要である。

図4:信用サイクルと失業率

信用サイクルと失業率
(出所:日銀、内閣府、クレディ・アグリコル証券)

アンダースロー:Key calls(経済)高圧経済の方針で構造的経済停滞からの完全脱却の動き(8月28日)

成長(CY26:0.8%・CY27:0.8%・CY28:1.6%):短期的停滞の後に構造的な経済停滞から脱却へ

2026年は、グローバルな景気減速とトランプ政権の不確実性、地政学上のリスクによる原油高と供給停滞の下押しの中、日銀が拙速な利上げをすることで、経済成長は0%台にとどまり、構造的な経済停滞からの脱却への動きは一時的に停滞する。2027年以降は、グローバルな循環的景気回復、高市政権の官民連携の戦略投資拡大の積極財政の推進と設備投資サイクルの上振れによる内需の拡大で、構造的な経済停滞からの脱却への動きの加速が始まる。2028年までには、1%台への成長の上振れによる高圧経済への動きとなる。消費減税に加え、実質賃金の上昇が消費の回復につながる。名目GDPの持続的拡大によって、企業の競争がコスト削減から投資に明確に変化する。設備投資のGDP比率はなかなか到達できなかった18%を大きく上回り、消費の拡大とともに景気回復に加速感が出る。企業の期待収益率・成長率の上振れで潜在成長率が上昇する。企業貯蓄率は正常なマイナスに戻り、構造的な経済停滞を完全脱却。積極財政・緩和的金融政策の継続が必要条件で、緊縮財政への転換や利上げのスピードが速ければ、構造的な経済停滞からの脱却失敗のリスクになる。

物価上昇率(CY26:2.0%・CY27:0.9%・CY28:1.8%):エネルギーを除けは一時的に減速

消費者物価指数(除く生鮮食品とエネルギー)の前年比は、まだ弱い内需とエネルギーコストの大幅な増加による購買力の低下によって、1%台に縮小する。需要の価格弾力性の上昇に企業は警戒感を持ちなじめる。消費減税もあり、2027年には0%台まで減速する。グローバルな循環的景気回復と内需の回復の下、設備投資と賃金を含む企業の支出が強くなり、過剰貯蓄として構造的経済停滞の原因となった企業貯蓄率のプラス幅は縮小していく。実質賃金の上昇による消費の回復と成長率の上振れによる高圧経済の実現で、物価上昇率は再び2%に向けて上昇幅が拡大していく。2028年には企業貯蓄率がマイナス化し、構造的な経済停滞圧力を払拭し、賃金上昇の加速とインフレ期待が2%にアンカーされることで、物価目標の安定的・持続的な達成となる。日銀の拙速な利上げによって、信用サイクルの下押しで内需が腰折れないことと急激な円高にならないことが前提条件である。

日本経済見通し

日本経済見通し
CACIBの予想
(注:物価見通しは2027年4月から食料品消費税1%を前提
出所:日銀、クレディ・アグリコル証券)

会田 卓司
クレディ・アグリコル証券 東京支店 チーフエコノミスト
松本 賢
クレディ・アグリコル証券 マクロストラテジスト

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