3.ベンチャーキャピタルの構造的欠陥


ここまでバブルだという話をしてきたのだが、昔ほどの情報格差はないので、バブルと言っても、日本の80年代や米国の2000年のITバブルみたいな異常な水準まで行くことも、広範にバブルになることも、長期的になることもないだろう。

情報格差がなくなった後に、起こっているバブルの特徴は、“局地的”かつ“瞬間的”で、後からの参入組はバブルの恩恵をあまり享受できないまま終わることになることだ。ゲームもアプリも先発組は鱈腹儲け、後発組が収益ギリギリが現状といった感じ。実際にバブルは局地的に起こっていた。理由は以下の2つだ。

  1. マネタイズの説明がほとんどできない所までベンチャーキャピタルやエンジェルの資金が加速度的に流入していたこと

  2. 加えて、IT周辺を全く理解しない個人投資家までもがベンチャーキャピタルに資金を提供していたこと

私自身は東京やシンガポールでベンチャーキャピタリスト達と一緒に投資家側や上場予備軍側を周っていた経験を持つ。その中でベンチャーキャピタル(VC)側の構造的な欠陥が2つあることに気づいた。

  1. ベンチャーキャピタルは資金を集めたら投資しなければならないこと(でないと投資家にリターンを返せない)

  2. 営業担当者のKPI(キーパフォーマンスインディケーター)に投資件数・金額等が採択されていること

この2つ目の欠陥が特に痛い。それが故に、投資競争が加速し、自社が乗り遅れ、他社が投資したニュースなんかが出ると上司から怒られたりするわけだ。私は全てのVCを知っている訳ではないが、少なくともこのような仕組みになっているVCは多い。しかし、何れVCへの資金流入が止まり、VC側の投資先のM&AやIPOが減少すると、VCからの投資も止まる。結果、まず調達前提のビジネスモデルの企業は経営悪化に追い込まれる(≒営業キャッシュフローがマイナスの企業)。

一方で、これと同じ仕組みで、米国のVCの投資金額が大きいのは資金が世界中の投資家から集まるからだ。中には政府系ファンドや年金基金、大学が運用する基金からも投資を受ける(Yale大学の基金やシンガポールのテマセクやGICの政府系ファンドはベンチャー投資でも有名)。

しかし日本のVCが海外の資金を集められることはほとんどないのでサイズ自体が小さい。これは純粋に日本企業に魅力がないというよりも、VCが世界中から資金を集める能力が低いというところの方が問題である。(もちろんパフォーマンスが高くないというのもあるが、資金を集める営業力という点の方が大きい。)

私は、このVCの営業力が日本と米国の調達額が一桁違う最も大きな理由だと考えている。日本企業が日本市場しか対象にしていないからという意見もよくあるし正解なのだが、それよりも、そもそも資金提供者であるVCなどの規模の問題なのだ。

☆☆☆

以上、3つの観点から説明してみたが、金融業界でこういった経済や業種の循環を見ていると本当に興味深い。如何に簡単すぎる構造で動いているのか?ということだ。にもかかわらず、それをコントロールできてない人がほとんどという不思議な世の中になっている。それは金融業界の人間も然りだ。

バブルの面白い所は、論理的にバブルである気がしていても、感情的にそうではない気がしてくる所だ。“そうじゃはない”理由なんて幾らでも探せる。そういった時に限ってメディアは、“そうじゃない”理由ばかり取り上げ、バブルを煽る。

本当なら、もっと長い期間を見据えて投資をしてくれるエンジェル投資家が増えればこういった構造が大きく変わるんだろうが、米国のように…(省略)。今の日本のエンジェル税制とネット企業に関する理解度だとまだ厳しいかもしれない。日本が国として、本格的にスタートアップ支援に動く日が待たれる。

By Z

photo credit: Ferran. via photo pin cc