孫 ソフトバンク 東レ リッチ

私は、仕事柄、幾多の経営者と出会う機会に恵まれました。
そこで、特に印象に残った経営者をご紹介し、本物の経営者の資質に迫りたいと思います。


1「リスクを取りに行く」ソフトバンクCEO 孫正義

私が、ソフトバンクのCEOである孫正義氏と初めて出会ったのは、社名が示すとおりPC用ソフトのパッケージ販売を主たる業としていた時期です。
「コンピューターが時代を変える」と熱っぽく語っていました。
彼は当時、「いまの(サラリーマン)経営者は楽ですよ。GDPの伸び率+αの経営を続けていれば“◎(にじゅうまる)”がもらえるのですからね」とし、「誰も、リスクを取りに行かない」と憎まれ口を叩いていました。


2「リスクを取る」をやってのけた孫正義

孫氏が携帯業界に足を踏み入れる契機は周知のとおり、2006年のボーダフォン日本法人の買収です。
M&Aを経営の重要戦略としていた孫氏ですが、06年以前を振り返っても成功ばかりではなく、失敗も少なからずありました。

ですがボーダフォンの一件は、1兆7000億円にものぼる超大型買収、しかもブリッジファシリティ契約という、資金が割高金利となる方法で調達しています。まさしく大きな、それもとてつもなく大きなリスクといえます。

しかし、「携帯事業」に、よほどの将来性を直感的に見出したのでしょう。
孫氏は、持ち前の理屈でリスクを取りに向かいました。
そして、見事にそれをやってのけ、今に至っています。

デビュー当時、彼にどのくらいのリスクまで許容するのか聞いたことがあります。
すると彼は間髪入れず、「3割です」という言葉が飛び出しました。
「トカゲのしっぽというのは、3割までなら切ってもいつの間にか元に戻ります」

孫氏の絶妙なリスクテイクには、経営者としての資質が表れています。


3「経営の名ドクター」東レ名誉会長 前田勝之助

マラソンの世界では、「トップを走っていた者が一度二位、三位に後退すると、トップの挽回は至難の業に近い」といわれます。
企業社会でも、同様のことが指摘できるのではないでしょうか。

名門・東レに上席役員14人を飛び越して前田勝之助氏が社長に就任したのは、1987年4月のことです。
直前の3月期決算で東レは業界首位どころか、三位に転落していたのです。
後に「東レ中興の祖」と称された彼に背負わされた命題は、「トップ復活」以外にありませんでした。