4経営名ドクターの「治療法」

前田氏が執った手法は2つ。「急性肺炎」と「糖尿病」の治療です。

「急性肺炎」とは、主力の繊維部門の大赤字をいいます。
同部門は、売上高の7割を占めながら、数十億円の赤字を垂れ流していたのです。
前田氏は、3000品目に及んでいた繊維商品の一つ一つについて、過去5年間の損益計算書を作成させたのです。
それをもとに、「増産」「減産」「撤退」の徹底を図りました。


5「鉄の掟」をつくり、組織を劇的に変えた!

次に、「糖尿病」とは、「大企業病」の事です。
大企業病とは、大企業で見られる、非効率な企業体質をいいます。
彼は、一口で言うと現場最優先主義です。

「企業に評論家は無用」と公言し、経営管理部門の社員を現場に出し、現場の人間を本社組織に配置するという策を、「血も涙もない社長に出くわした悲運と諦め、言う通りにしろ」と徹底しました。

そして前田氏は、自ら作った「鉄の掟」を部課長全員に携帯させ、「1日に3回は読み、体に叩き込め」と命じたのです。

それは、以下のようなものです。
①現実直視:所属する部署の問題点を五つ即座に指摘できるか。
②各論主義:自分の仕事については、社の内外の誰にも負けない自負があるか
③競争原理の導入:自分や部下に、能力以上の目標を、具体的かつ定量的に設定しているか。
④画一性の排除:弾力的な管理体制が構築されているか。
⑤現場主義:評論家はいらない。管理職はもちろんスタッフも、現場に出て共に汗し、相互改革をやっているか。

前田氏はちょっとでも手が空くと、エレベーターの乗り降りを繰り返し、居合わせた部課長には誰かれなく、「○○君、所属する部署の五つの問題点は、いまはなんだ?」と問いかけたそうです。

以上、ソフトバンクと東レを例に本物の経営者と、その経営手法について見てきました。海外のファンドの中には、経営者だけを見て投資判断を決めるようなものが多数あるようです。「経営者で会社は決まる」と言ったものですが、それほど、経営者の資質を見抜くことは様々な観点から重要と言えるでしょう。

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