5月の米雇用統計は、市場が非農業部門雇用者数の増加を前月比22万6千人と予想していたのに対し、実際には28万人の増加と予測を大幅に上回った。「非常に力強い数字だ」と評価するエコノミストが大多数を占め、早ければ9月の米利上げにつながると予想する声が大勢を占めつつある。

好調な数字を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)における影響力が第3位の高官であるニューヨーク連銀のウィリアム・ダドリー総裁は、「労働市場が引き続き上向き、インフレ率が安定して(FRBの掲げる2%目標に近づいて)いけば、米経済成長に予測できない暗雲が立ち込めない限り、年内の利上げが適切だろう」とコメントした。

元ピムコの有力エコノミストで、現在は独アリアンツの首席経済顧問を務めるモハメド・エラリアン氏も、「今回の雇用統計の結果は、年内の利上げにつながるだろう」と発言した。

こうしたなか、具体的な利上げ時期として9月を明言するエコノミストが目立つ。バンクオブアメリカ・メリルリンチのミシェル・メイヤー上席エコノミストは、「雇用統計は、米経済の基調が回復に向かっていることを示しており、FRBが9月に利上げする道筋が見えた」との見方を表明した。

さらに、パンテオン・マクロエコノミクスのチーフエコノミスト、イアン・シェファードソン氏は、「6月の雇用統計の数字が良ければ、7月の利上げの可能性も排除できない。そうでなければ9月だろう」と述べる一方、キャピタル・エコノミクスのチーフエコノミストであるポール・アッシュワース氏は、「7月の利上げはないと思うが、9月は絶対にあり得る」とした。ここに来て9月利上げ説が最有力になってきた。

一方、市場はより慎重なようだ。市場関係者の利上げ予測であるCMEフェドウォッチによれば、市場は10月利上げの確率を54%で織り込んでいる。因みに、統計の発表前のCMEフェドウォッチは、12月の利上げが最も確率が高いと予想していた。


他の指標と整合性なし、米経済に楽観は禁物

FRBによる利上げは、「もう量的緩和や低金利の補助輪なしでも、自律的に経済は成長できる」との判断を市場に伝えることになるのだが、本当に米経済はそこまで回復したのだろうか。5月29日に発表された2015年1〜3月期の米GDP(国内総生産)の改定値は前年同期比0.7%のマイナス成長を示し、市場に少なからぬショックが走ったばかりである。

気鋭の経済評論家マシュー・イグレシアス氏は、「賃金上昇率などの数字をよく見ると、経済成長の伸び代が縮小していく可能性がある」と警告。『ニューヨーク・タイムズ』紙の分析記事も、「2015年前期(1〜6月)の米GDP成長率予想は0.7%に過ぎず、5月の雇用統計の良好な数字と乖離している」との問題を提起している。

経済政策研究センターのディーン・ベイカー共同会長も同意見だ。同氏は、「今回の雇用統計の数字は概ね好調だが、経済回復がスローダウンしていることを示す(GDPなど)他の経済指標との整合性がない。GDPが落ち込むのに引きずられて、第1四半期の生産性も前年同期比3.1%下落した。寒波の影響を受けた1〜3月期を除いたとしても、生産性の伸びは過去2年間で年率1%に過ぎない」と指摘した。

こうした懐疑論で想起されるのが、6月4日に国際通貨基金(IMF)が米経済成長予測を引き下げ、FRBが初回利上げを2016年前半まで先送りするべきだと忠告した「事件」である。IMFが一国の、いや世界第1位の経済大国でIMFの最大の出資者である米国に対して、利上げ時期を遅らせるようアドバイスするなど、前代未聞だ。それほどにIMFが米経済の先行きを不安視している証左であり、早すぎる利上げが世界経済を冷やすことが懸念されている。

こうした不安心理を、FRBはどのように「退治」するのか。6月16〜17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米経済についてどのような判断が下されるか、世界中が注目している。

(在米ジャーナリスト 岩田太郎)

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