◆ASEANの中国に対する国際競争力
中国の台頭に伴い、ASEANの中国に対する競争力(貿易特化係数,TSI)がどのように変化したかを確認する。図表16,17は、1990年と2013年におけるASEAN-中国間の貿易総額(輸出額+輸入額)が大きい上位5産業のTSIの推移である。なお、石油・石炭製品と化学製品は1990年と2013年の両方で上位5位以内に入ったため、計8産業を示している。
まず1990年代はASEANが中国に先行して工業化を遂げたことから、幅広い産業でASEANの競争力が上昇した。特に一般機械や電気機械、化学製品はそれぞれ大幅マイナスからプラスに転じた。
2000年代に入ると中国の台頭により、ASEANの競争力は幅広い産業で相対的に低下していったが、石油・石炭製品やパルプ・紙・木製品など素材・資源関連産業は大幅なプラスが続いた。
2005年以降については、ACFTA(ASEAN-中国間FTA)の発効を受けて石油・石炭製品や鉄鋼・非鉄金属、食料品といった素材・資源関連の競争力が上昇した。一方、電気機械、化学製品、一般機械は引き続き低下傾向が続いた。
なお、電気機械は化学製品や一般機械に対して高い水準を維持していることから、電気機械はACFTAの活用によって中国台頭の影響を緩和してきたと見られる。
◆電気機械で進む東アジアの国際分業
ここではASEAN-中国貿易において輸出シェアが最大の電気機械について、国際競争力を生産工程別(中間財と最終財)の側面で掘り下げて見ていく。
図表18は、2000年から2013年までの顕示貿易統合比較優位指数(RTA)の変化を示したグラフである。中国を例として挙げると、中間財(X軸)が100程度(2000年)から-50強(2013年)まで上昇し、最終財(Y軸)が+50程度(2000年)から+260程度(2013年)まで上昇している。このように見ると、中国とベトナムは中間財がマイナス圏に止まる一方、最終財が大きく上昇していることが分かる。
またASEAN(シンガポール・マレーシア・タイ・フィリピン)や日本、韓国は最終財の変動が小幅に止まる一方、中間財が大きく上昇していること、そしてインドネシアは中間財・最終財がそれぞれ小幅プラスからマイナスに転じたことが分かる。
即ち、ASEAN(シンガポール・マレーシア・タイ・フィリピン)や日本、韓国は中間財を中国やベトナムに輸出し、中国とベトナムは輸入した中間財を最終財に組立てて輸出するといったように東アジア域内で工程間分業が進んだと見られ、インドネシアは電気機械産業の生産分業から外れてしまった可能性がある。
なお、ベトナムは周辺国に対して中間財を輸出するほどの競争力はないという点ではインドネシアと同じであるが、安価な労働力を活用することで中国に代わる最終財の生産拠点として企業から評価されたと言える。