ASEAN貿易
(写真=PIXTA)


はじめに

かつて先進国向けの輸出拡大で経済成長を遂げたASEANは、足元では中国経済の変調で輸出不振に陥っているように、ASEANの貿易構造は大きく変化している。

また東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉は、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の交渉に触発されて積極的になっており、今後の貿易構造はその影響を受けるだろう。本稿では、1980年以降のASEAN貿易の動向を確認した後、ASEAN諸国はどのような産業で足元国際競争力を強めているのかを捉え、先行きのASEANの貿易構造を展望する。


ASEANの貿易構造の変化

これまでの世界輸出に占めるASEAN製品のシェアの推移を見ると、1980年代半ばから1990年代後半にかけて大きく拡大したことが分かる(図表1)。これはプラザ合意(1985年)後の円高急進の打撃を受けた日系企業がNIEsに倣って外資誘致政策を進めていたマレーシアやタイなどのASEAN諸国に対する投資を拡大したことが背景にある(図表2)。

ASEAN 貿易 図1-2

結果、世界輸出に占めるASEAN製品のシェアを産業別に見ると一般機械、電気機械など工業製品を中心に幅広い産業で輸出が拡大し、工程別に見ると素材が減少する一方、最終財(消費財・資本財)と中間財(加工品・部品)が拡大した(図表3)。

ASEAN 貿易 図3

しかし、中国では1979年に改革開放政策が打ち出され、1992年には鄧小平の「南巡講話」によって市場メカニズムを導入することが決まるなか、これまでASEANに流れていた外国企業の投資は中国にシフトしていった。ASEANは中国に傾く投資を呼び戻そうと域内統合(*1)を目指し、1992年からASEAN自由貿易地域(AFTA)をスタートしたものの、形勢は変わらなかった。

更に1997年にはASEANを震源地とするアジア通貨危機が起きた結果、中国は「世界の工場」と評されるまで輸出(世界シェア)が拡大した一方、ASEANの輸出は2000年代半ばまで伸び悩んだ。この低迷期(1990年代後半から2000年代半ばまで)の世界輸出に占めるASEAN製品のシェアの変化を見ると、産業別には大きな動きがないものの、工程別に見ると最終財(消費財・資本財)がやや縮小して中間財(加工品)が拡大した。

また仕向先別に見ると欧米向けが縮小する一方で中国向けが拡大した。即ちASEANで組立てた最終財を欧米向けに直接輸出する「三角貿易」は、ASEANから中国に中間財を輸出し、中国で最終財に組み立てて欧米向けに輸出する形に徐々に変化していったと見られる。

2000年代半ば以降はASEANが中国や日本など周辺国とのFTA(ASEAN+12)を発効したことや国際商品市況の上昇を受け、ASEANに流入する直接投資は2000年代後半から急増して2013年には中国を上回る水準まで拡大した。投資拡大が追い風となり、ASEANの輸出(世界シェア)は再び拡大に転じている。

仕向先別に見ると中国向けが拡大、産業別に見ると石油・石炭製品、鉄鋼・非鉄金属といった資源関連が全体を牽引した。また工程別に見ると中間財(主に加工品)が拡大する一方、最終財(消費財、資本財)が縮小しており、東アジアにおける国際分業の動きが更に進んだことが分かる。

このほか、2011年以降は東日本大震災やタイの大洪水、中国の反日デモなどを受けて製造業で生産拠点を分散化する動き、また中国の人件費高騰を背景にベトナムを中心にASEAN諸国で加工組立型産業の投資が集まったものの(チャイナ・プラスワン)、ASEAN全体で見ると電気機械や一般機械の輸出のプレゼンスは拡大していないように見える。