◆ASEAN諸国の国際競争力の構造

ここではシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア、フィリピン、ベトナムの6カ国を対象として、産業の国際競争力を比較する。

国際競争力を表す指標は、輸出と輸入を比較するTSIと輸出側から比較優位を示すRCAを使用する。さらに図表中で国際競争力を示す産業は全13産業のうち特徴的な動きを示す6つに絞ることとする。(全13産業の競争力の推移はP11の図表の通り。)

◇シンガポール

シンガポールは、輸出の約5割が中継貿易であるため、TSIの絶対値は対象6カ国で最も小さい。また同国は1965年のマレーシアからの分離・独立を受けて早々に輸出指向工業化政策を導入して高度成長期に入ったため、1980年以降の競争力の変化幅は小さく、サービス業の拡大の影響を受けてTSIのトレンドは下向きの産業が多い。

1980・90年代は、一般機械や電気機械、化学製品などのRCA、TSIが上昇した一方、繊維製品や家庭用電気機器、雑貨・玩具などが低下した。このことは人件費の高騰によって労働集約型産業から資本集約型産業への転換が進んだことを示している。

2000年以降は、繊維製品や家庭用電気機器のRCA、TSIが引き続き低下し、一般機械も低下に転じた。また足元輸出シェアが最も大きい石油・石炭製品は競争力が軟調に推移している。これは石油・石炭製品の輸出シェアが資源価格の上昇によってもたられたことを示している。一方、電気機械と化学製品は緩やかな上昇傾向が続いた。

政府は、サービス業の成長が進む中でもGDPに占める製造業の割合は2割を守る方針である。また人件費の高い同国において製造業がさらに付加価値を向上するためには、革新的な技術開発が必要としており、外国企業の研究開発投資を呼び込む政策を展開している。

ASEAN 貿易 図4-5

◇マレーシア

マレーシアは、1970年代に輸出指向工業化政策を進め、輸出加工区に家電メーカーが進出していたが、実際に外国企業の進出が加速したのはプラザ合意後の円高や外資規制の緩和、優遇措置の見直しが奏効した1980年代後半である。

1980・90年代には電気機械や一般機械、家庭用電気機器といった機械関連に加え、繊維製品や雑貨・玩具といった軽工業など幅広い産業でTSI、RCAが上昇した。一方でパルプ・紙・木製品や鉄鋼・非鉄金属などは低下しており、豊富な天然資源に依存していた輸出構造は変化していった。

2000年代以降は、一般機械と家庭用電気機器の競争力が伸び悩んでいる一方、電気機械や精密機器、化学製品など一部の技術・知識型産業は改善傾向が続いている。この動きは加工組立型の家庭用電気機器が減少し、半導体など高付加価値の製品を製造するようになったことを示している。また石油・石炭製品はペトロナスの成功によってTSIがプラスを維持している。

政府がこれまで自動車を主要産業として位置付け国民車ブランドまで作ったが、輸出産業には育っておらず、また航空宇宙や医療など先進分野の外資誘致の取組みも現在のところ成功と呼べる状況には至っていない。このように高付加価値産業の育成に苦労しながらも、家電メーカーの進出によって形成された電子部品の産業集積を活かし、太陽光発電産業が成長するといった好事例もある。

ASEAN 貿易 図6-7