2016年ジュニアNISA
(写真=PIXTA)

2016年1月1日からジュニアNISA制度がスタートする。ジュニアNISAとは、0歳から19歳までの未成年者を対象とした少額投資非課税制度(NISA)のことだ。名義は未成年者だが、実際の運用は両親や祖父母などの親権者が代理で運用することになる。2016年は、このジュニアNISAによる若年層への贈与制度としての活用が注目されるだろう。

ジュニアNISAの創設の背景

そもそもNISAとは何だろうという方もいるかもしれない。NISAとは、一定の投資額についての運用益に関して所得税が非課税になるという制度だ。通常、株式や投資信託などで運用益が生じた場合、その利益部分について20%の所得税が課税されるが、NISAの場合は100万円まで、ジュニアNISAの場合は80万円まで非課税になるというわけだ。

貯蓄に走りがちな日本の国民の投資活動を促すべく、2014年からNISAが導入された。しかし、フタを開けてみると、実際の活用者は中高年が大半を占め、20代~30代の利用状況は10%程度と、今のところは寂しい結果だ。「若年層は日々の仕事と生活に忙しく、よほどのインセンティブがなければ投資をしない」「時間もカネも持て余している中高年が投資活動を積極的に行っている」という実態が明らかになったわけである。

経済活動の中心を担うはずの若年層に資金がなければ、経済の活性化も増税に耐えうる家計も実現するはずがない。この事態を憂慮した政府は、高齢層に偏在する金融資産を若年層に移し、同時に若年層の投資に対する関心を呼び起こすことを目的に、2015年税制改正においてジュニアNISAの創設を盛り込んだ。自分の子や孫への贈与や相続対策を念頭に置いている中高年がこの制度を活用することもまた、目論見の一つである。

ジュニアNISAのメリットとは?

では、ジュニアNISAを親が贈与として活用することのメリットは何だろうか。

一つは、投資という形を選択することにより、実際に子や孫が株式などを売却した時に、投資金額より大きくなって戻ってくる可能性があるということだ。

単に資金を贈与しただけでは、その資金は貯蓄か消費に回ってしまう。しかし、投資として運用することで、実際に我が子や孫が大学進学などで入用になったとき、投資額以上の金額を得ることができるのだ。非課税上限額は年80万円、期間は5年間なので最大で400万円を子や孫の将来のための資産運用に充てることができる。堅実な投資活動により、ジュニアNISAはその効果を発揮するだろう。

また、他の贈与の非課税制度と併せて活用することで、より節税効果は高くなる。「ジュニアNISAの非課税枠80万円」という枠だけを見ると、大した贈与額ではない。しかし、教育資金や結婚・子育て資金の一括贈与の非課税措置と併せて活用することで、贈与・相続対策にもなるだろう。

NISAと全く同じではない、ジュニアNISAならではの注意点

その一方、ジュニアNISAならではの注意点もある。

ひとつは、80万円という上限額は暦年贈与の非課税枠の内でしかないという点だ。名義人が未成年者で代理運用者が親権者ということは、実質「親世代から子世代への贈与」である。単に名義が子どもであるにすぎないのだ。他の非課税措置制度と混同し、また別途50万円贈与をしたら、暦年贈与制度の非課税限度額110万円を超えた部分については、通常の贈与税が課されてしまう。

また、ジュニアNISAは、名義人の未成年者が18歳になるまでは払い出しをすることができない。それまでに、運用益が生じ、払い出しをおこなった場合、その部分については通常の所得税が課されることになる。また、NISA口座と同じだが、損失が発生したとしても、他の株式や投資信託などの配当金や運用益と損益通算することはできない。

この他、
・次年度以降への投資枠の余りを繰り越すことは不可
・口座開設の際にマイナンバーが必要になる
・非課税期間5年間が過ぎた後は、「課税ジュニアNISA口座に移行」「新規の非課税口座に移行(ロールオーバー)」「売却」のいずれかを選択
・未成年者本人が20歳になったら、自然と大人版NISAに移行
などといった注意が必要になる。

投資は貯蓄以上のリターンを生むのと同時に、相応のリスクも付きまとう。ましてや、子・孫のための投資資金だ。贈与税上のメリット・デメリットもさることながら、ジュニアNISAについての細かい諸要件や投資そのものについても勉強をしっかり行うことが必要になる。

日本は、以前に比べて投資に対する敷居が下がったとはいえ、まだ貯蓄の傾向が高い。50代の貯蓄率は6割を、60代以上のそれは9割を超える(2015年版高齢者白書より)。同時に、20代から40代の生活観においては、「毎日の生活を充実させて楽しむ派」が38%から40%程度であるのに対し、「将来に備える派」が55%から58%となっている。なお、この世代の貯蓄率は10%超から40%超程度だ。つまり、「将来に備えたくてもない袖は振れない」状態なのだ。

ただ、ない袖は振れなくても、それでも「我が子の将来のために何か備えをしておきたい」と思うのが親心。その期待に応えるのが少額投資の運用益を非課税としたジュニアNISAだと言える。教育資金贈与や結婚・子育て資金贈与の非課税措置などと併せて活用することで、次世代の育成につなげたいところだ。

鈴木 まゆ子(すずき まゆこ)税理士

税理士鈴木まゆ子事務所代表。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。妊娠・出産・育児の傍ら、税理士試験を受験し09年に合格、12年に税理士登録。現在、外国人のビザ業務を専業とする行政書士の夫と共に外国人の起業支援に従事する。現在、国際相続などについての記事執筆に取り組む。税金や金銭に絡む心理についても独自に研究している。ブログ「 税理士がつぶやくおカネのカラクリ