12月24日に閣議決定した2016年度の政府予算案の公表とともに、このままでは名目GDP成長率が3%程度を維持しても2020年度に基礎的財政収支の赤字が6.2兆円(GDP対比1%程度)残るという内閣府の試算(7月22日公表の中長期の経済財政に関する試算)を基に、財政健全化は不透明であるという典型的な報道が多くみられた。

内閣府の試算の一般政府収支の赤字(GDP比率)は2014年度から2020年度まで、-6.5%・-5.5%・-4.7%・-4.3%・-3.6%・-3.4%・-3.4%となっている。そして、そこから債務の利払い費を除いた基礎的財政収支の赤字(GDP比率)は2014年度から2020年度まで、-4.4%・-3.0%・-2.5%・-2.3%・-1.7%・-1.4%・-1.0%となっている。

この内閣府の試算は、過去のデータを基にした計量経済モデルでなされているとみられ、足もとの日本の財政収支の改善をまだしっかり反映していないと考えられる。

12月25日に公表された2014年度の国民経済計算確報(資金過不足、実物取引)では、一般政府収支の赤字(GDP比率)は-5.2%(2013年度は-7.6%)となり、内閣府の試算である-6.5%から、1.3ppt(6.4兆円程度)も大きく改善していることが明らかになった。

内閣府のモデルには2013年度の国民経済計算確報までしか実績データがなく、試算の起点となる2014年度の確報の公表によって、大幅に見直す必要が出てきたと考えられる。

一般政府収支の赤字の2014年度の起点が-6.5%から-5.2%まで1.3ppt修正されたことにより、2015年度以降の赤字幅の推計値も同程度縮小するとみられる。

単純計算では、2015年度から2020年度までの一般政府収支の赤字(GDP比率)の新しい推計値は、-4.2%・-3.4%・-3.0%・-2.3%・-2.1%・-2.1%となる。そして、2015年度から2020年度までの基礎的財政収支の赤字(GDP比率)の新しい推計値は、-1.7%・-1.2%・-1.0%・-0.4%・-0.1%・+0.3%となっている。

2020年度には基礎的財政収支が黒字化する可能性が高まったと判断する。

中長期の経済財政に関する試算は毎年1-2月と7-8月と年二回見直されてきているため、次の1-2月の試算がどのように変化してくるのか注目である。追加的な財政緊縮策をとらないと2020年度の基礎的財政収支黒字化という政府目標の達成が困難であるという論調は変化してくるだろう。

または、財政に対する見方の好転に対して、2016年の景気が弱すぎれば、2017年4月に消費税率を無理に再引き上げしなくてもよいのではないかという論調につながる可能性もある。

会田卓司(あいだ・たくじ)
ソシエテジェネラル証券 東京支店 調査部 チーフエコノミスト

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