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(画像=PIXTA)

総務省が発表した「労働力調査」(2023年版)によると、2023年における60~64歳の男性の就業率は84.4%、女性の就業率は63.8%となっている。2013年4月に改正された「高年齢者雇用安定法」による定年年齢の延長や「人生100年時代」と言われるほどの長寿化の進行などにより、60歳以降も働く人は着実に増えている。

しかし定年後に引き続き同じ会社で再雇用されたとしても多くの場合、給与は減少するだろう。かといって定年後に一度退職し、条件の良い職場に転職するとしても転職前と同等の条件の職場が見つかるとは限らない。そのため収入が低減するであろう60歳以降には、給付金も受けながら生活設計を考えることが望まれる。

本記事では、60歳以降に給与が減少した場合に備えて知っておきたい「高年齢雇用継続給付」について解説するので、ぜひ参照していただきたい。

60歳以後に働く人が知っておくべき給付金

60歳以降にもらえる給付金制度として、まず知っておきたいのが「高年齢雇用継続給付」である。高年齢雇用継続給付とは、収入が低下しやすい高年齢者の就業意欲を維持・喚起することを目的に設けられている制度だ。以下のすべてに該当する人を対象に給付金が支給される。

  • 60歳以降も雇用されて働く
  • 雇用保険の被保険者期間が5年以上ある
  • 60歳以降の賃金が、60歳時点の賃金と比較として75%未満に低下する など

ただし、高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」の2つの給付金があり、それぞれに対象者や具体的な支給条件が異なるため、注意したい。以下では、それぞれについて詳しく解説する。

60歳になってそのまま働き続ける場合の「高年齢雇用継続基本給付金」

高年齢雇用継続基本給付金とは、一般的に失業手当といわれる雇用保険の基本手当を受け取らず定年後も労働を続ける65歳未満の人を対象に、60歳時点に比べ賃金が75%未満に低下した場合に支給される給付金である。60歳以降も同じ会社に引き続き雇用される場合だけに限られない。

定年等で退職後すぐ別会社に就職した場合も、基本手当を受け取っていなければ支給の対象となる。

支給期間

支給される期間は、60歳になった月から65歳に到達する日の属する月までだ。雇用保険の被保険者期間や賃金の低下率などの事情で60歳到達時に受給資格を満たしていない場合は、受給資格を満たした日の属する月から65歳に到達する日の属する月までとなる。

ただし60歳以降に受給資格を取得すれば65歳まで継続的に支給されるわけではないことには注意が必要だ。受給資格を満たしたあとも、支給対象月ごとに賃金の低下率を求めて支給可否の判定および支給額計算が行われる。そのため賃金や他の給付の状況によっては、給付金が支払われない月が発生する可能性があることも理解しておこう。

支給額と低下率

支給額は、基本的に次の計算式で求めることができる。

・支給額=支給対象月に支払われた賃金額×支給率

計算式のなかにある「支給率」は、60歳到達時の給与月額(※1)と比較した支給対象月に支払われた賃金額(みなし賃金を含む)の低下率(※2)に応じて決まり、それぞれ以下のとおり求める。

※1)60歳到達時の給与月額=60歳に到達する前6ヵ月間の総支給額(保険料等が控除される前の額。賞与は含まない。)÷180×30日分
※2)低下率=(支給対象月に支払われた賃金額÷60歳到達時点の給与月額)×100

支給率の求め方は、賃金の低下率によって以下のとおりとされている。

賃金の低下率 支給率
75%以上 0%(支給なし)
61%超75%未満 {(-183×賃金低下率+13,725)÷280×賃金低下率}×100
61%以下 15%

低下率が61%超75%未満である場合、支給率の計算が複雑だ。そこで、以下の計算式によって支給額を求められることを知っておくといいだろう。

賃金の低下率 支給額
75%以上 支給なし
61%超75%未満 (-183÷280)×支給対象月に支払われた賃金額+(137.25÷280)×賃金月額(上記※1)
61%以下 支給対象月に支払われた賃金額×15%

【支給上限額と最低限度額】

支給額には支給上限額と最低限度額が設定されており、それぞれに次のとおりだ(令和5年8月1日時点)。なお、支給限度額は毎年8月1日に変更される。

支給上限額

  • 支給対象月に支払われた賃金が37万452円以上の場合には給付されない
  • 支給対象月に支払われた賃金額と算定された給付金の合計額が37万452円を超える場合、37万452円からその賃金を差し引いた金額が給付される

最低限度額 ・算定された支給額が2,196円以下である場合には支給されない

【60歳到達時の賃金月額の上限額、下限額】

60歳到達時の賃金月額にも上限額と下限額が設定されている(令和5年8月1日時点)。こちらも同様に支給限度額は毎年8月1日に変更される。

  • 上限額:48万6,300円
  • 下限額:8万2,380円

60歳到達時に上限額を上回る給与を貰っていた場合は、上限額が60歳到達時の給与として、逆に下限額を下回る場合は、下限額が60歳到達時の給与として計算される。

高年齢雇用継続基本給付金をもらえる人、もらえない人の例

高年齢雇用継続基本給付金の支給要件、支給額の計算の仕方を確認した。ここからは、具体的な例として60歳到達時の給与が30万円だった場合の高年齢雇用継続基本給付金の額を、いくつかの例で見てみよう。

(例1) 支給対象月に支払われた賃金額が26万円の場合

・低下率=(26万円÷30万円)×100=86.67%

75%を上回っているので支給されない。

(例2) 支給対象月に支払われた賃金額が20万円の場合

・低下率=(20万円÷30万円)×100=66.67%

75%を下回っているので支給される。支給額は1万6,340円。

(例3) 支給対象月に支払われた賃金額が18万円の場合

・低下率=(18万円÷30万円)×100=60.00%

61%を下回っているので支給される。支給額は2万7,000円。

(例4) 支給対象月に支払われた賃金額が8,000円の場合

・低下率=(8,000円÷30万円)×100=2.67%

61%を大きく下回っており、計算上は支給額1,200円(8,000円×15%)だが、最低限度額2,196円(2023年8月時点)に達していないため、支給されない。

60歳になって一旦離職し、再就職する場合の「高年齢再就職給付金」

高年齢再就職給付金は、基本手当を受給したあと、再就職した人を対象に支払われる給付金である。

支給条件

支給要件は基本手当の基準となった賃金日額を30倍した額の75%未満となっている必要がある。その他、以下の要件がある。

  • 再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上ある
  • 1年を超えて雇用されることが確実と認められる、安定した職業に就いている
  • 再就職の際に再就職手当の支給を受けていない

●支給期間

支給期間は、基本手当の支給残日数によって変わる。

  • 残日数が200日以上の場合:再就職の翌日から2年を経過する日の属する月まで
  • 残日数が100日以上200日未満の場合:同様に1年を経過する日の属する月まで

いずれの場合も65歳になると支給はその月までとなる。

支給額

金額の算定などは高年齢雇用継続基本給付金と同様である。なお、定年後に基本手当をもらっていた人で、所定給付日数の3分の1以上を残して再就職した人は「再就職手当」を受給することもできる。ただし「高年齢再就職給付金」と「再就職手当」は、併給ができず、どちらかを選ぶ必要があるため、慎重に検討して欲しい。

高年齢雇用継続給付の支給申請

初回申請は支給対象月の初日から起算して4ヵ月以内、2回目以降はハローワークが指定した月(偶数月か奇数月か)の手続きとなる。

申請手続き後にハローワークが支給要件や賃金月額等を確認、支給決定したあと約1週間で本人口座に振り込まれる。しかし初回分は、受給要件を満たしてから最大4ヵ月後、その後の受給は2ヵ月ごととなるため、生活設計をしっかりと行うようにしよう。

高年齢雇用継続給付は廃止の可能性も

60歳以降の生活資金を補う給付金として、ここまで高年齢雇用継続給付についての説明をしてきた。2025年度には、新たに60歳になる人から給付率が段階的に見直される予定だ。2021年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法で事業主は65歳までの雇用確保義務に加え、努力義務として70歳までの終業確保措置を図ることとされた。

つまり60~64歳まで就業するのは当然のこととなり、「高年齢者の就業意欲の維持・喚起」という本給付制度の目的とズレが生じることになる。2025年度以後、急に廃止されてしまうわけではないが賃金減額に応じた最大支給率は現在の15%から10%に引き下げられる。

本給付制度見直しの代替策として賃金改善に取り組む事業主への助成金が別途予定されているが、個々人で老後資金対策をするのが望ましい。

60歳以降は給付金と労働収入で確かな生活設計を

60歳以降の賃金が60歳時点の賃金と比較として75%未満に下がる場合、高年齢雇用継続給付制度から給付金を受給できる。低減する収入を補えるのは、老後生活に入るうえで心強い。一方で、2025年度に60歳になる人を対象に本給付制度が見直され、段階的な支給率の引き下げや将来的な廃止が予定されている。

そのため今後は、ますます老後の就業と老後資金の準備が求められそうだ。自身の老後に向けて今から生活設計をしっかりと行っていこう。

(提供:大和ネクスト銀行


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