経営者が古典を読む本当の理由

私は1カ月で本を30冊以上読む生活を10年以上続けています。最初のきっかけは、サラリーマン時代に「独立したい」と目標を持ったことでした。

しかし、職場の上司や先輩から起業や経営のノウハウを学ぶことはできません。だから、本を"先生"にしたのです。起業のために、あらゆる分野の本を読みました。起業マインドを高めるために有名経営者の自叙伝を読み、経営コンサルタントやマーケティングの本でビジネスのノウハウを学び、そして、登記や税金の本で会社経営に不可欠な実務を学びました。これらの本の中で、自分にできそうなことから実行していきました。

そして、経営者の立場になった今も、本から得る気づきや学びが大きな糧となっています。

それは上の立場になるほど「教えてもらう機会」が激減するからです。ビジネスの環境は日々刻々と変化していますから、経営者に新たな学びがないと、ビジネスも先細っていきます。それゆえに、日本に限らず世界のエリートはおしなべて読書家です。

彼らは本から「知識」より「考えるきっかけ」を得ています。経済、社会、政治──世の中の事象には、ある一定のパターンがあります。多くの本を読むことで、そのパターンを読み取ることができます。物事を長期的かつ大きな視点で見ることができ、時代に先んじてカードを切っていくことができるようになるのです。

とくに、古典や歴史書は、人間の心理や社会の動向の普遍的な真理を突いている本が数多くあります。経営者に古典や歴史書を好む人が多いのはそれゆえです。こうした本は堅くとっつきにくいところがありますが、私は意識して読むようにしています。現代人が読みやすい要約本も多く出ているので、そこから入ってみるのも手です。

本で得たベースに最新情報を重ねていく

今は、ネットでもさまざまな情報を得られるようになりました。本がネットと大きく異なるのは、「体系的である」という点です。1つの分野を新しく知ろうとしたら、本を1冊読むだけで、重要なテーマや課題、その分野のキーパーソンが誰なのかまで1冊でまとめて得ることができます。

一方で、本はネットに比べて即時性に欠けます。そこで本を読んで知識のベースを作り、ネットや雑誌などから最新情報をアップデートしていくのが現代における知識構築の最適な方法の1つです。

私にとって、本はどんな分野の課題にも答えてくれる最強のメンターです。人生で迷ったとき、仕事の壁にぶつかったとき、人間関係で悩んだとき──私はいつも本を開き、活路を見出してきました。

読書は知識を得られるだけでなく、新たな視点や想像性を高めてくれます。これこそ、どんな時代をも生き抜くための力です。アウトプット読書習慣を身につければ、本はあなたの未来を変えるだけの力を発揮してくれるのです。

藤井孝一(ふじいこういち)アンテレクト代表取締役/経営コンサルタント
1966年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。中小企業診断士。独立・起業を目指すビジネスパーソンに対し、実践的なサポートを行なう。「在職中から起業する」スタイルを「週末起業」と名づけ、2003年に「週末起業フォーラム」を創設。1万人を超える人が学び、独立・開業を果たす。独立・開業を、教育コンテンツ、パートナーシップ、インフラの面からも支援するために、㈱アンテレクトを設立、経営。著書に、代表作『週末起業』(筑摩書房)、近著『30歳からの「時間」の投資術』(三笠書房)ほか多数。

(取材・構成:麻生泰子)(『 The 21 online 』2016年2月号より)

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