あのヒット作のタイトルは半年寝かせた!?

そう語る川村氏自身も、自らを「弱者」と位置づけている。「僕はめっぽう自己評価が低いんです(笑)。だから、まずはとことん失敗をしない方法を考え抜きます」

川村氏は、製作する作品に関連する書籍や映画を見て下調べをし、無数の成功例と失敗例を分析し、同じ轍を踏まないよう細心の注意を払うという。

「『世界から猫が消えたなら』を書いたときもそうでした。映画人が小説を書いて成功した例はほとんどなかったので、オファーを受けてからもなかなか決断できなかったのです」

ただ、ひとたび製作を始めれば、作品への執念をみせる。その執念がまた優柔不断につながっているようだ。それは、次のエピソードからもうかがえる。

「タイトルは『世界から僕が消えたなら』でほぼ決まっていたのですが、何か普通だなと感じていました。その理由は、『僕』が消えたところで、『自分が消えるから困る』というありきたりな答えになり、物語に広がりがないように感じたからです。でも、『猫』が消えることには、100人100様の意味と物語がある。そう考え、『僕』を『猫』に替えたのです。半年もの間、あれこれ迷った末の発明でした」