リスクプレミアムの低下

今年、最大のリスクは英国の国民投票と米大統領選であった。英国国民投票はEU離脱を選択し、一時的に市場は混乱したが、その後落ち着きを取り戻している。BREXITショックはあったが、市場はとりあえず消化した。あとは時間をかけて見守ろうという雰囲気になっている。

こうなると残る最大のリスクイベントは米大統領選であり、そこでの「ブラックスワン」はトランプ大統領の誕生だが、その目は相当薄くなったと言えるだろう。

市場はその辺りの空気を敏感に察していると思う。

冒頭述べた通り、雇用統計の改善は米国の年内利上げの可能性を高めるため米国株にとって単純に好材料とはなり得ない。当初5%程度の減益と見られていた米国企業の4-6月期決算は、ほぼ一巡した現在では2.6%減と減益幅が半分に縮まった。とは、言え、企業業績の伸びが力強さを欠いていることには変わりない。

株価を決める要因が、企業業績と割引率だとすれば、業績にも金利にも変化があまりないなか、株価上昇要因として考えられるのは金利とともに割引率を構成するリスクプレミアムの低下であろう。

S&P500のPERの逆数(益回り)から米10年債利回りを引いたものを、S&P500の株式リスクプレミアムと定義して、クリントン氏とトランプ氏の支持率の差(「クリントン氏の支持率」マイナス「トランプ氏の支持率」)と比べると、きれいな逆相関が認められる。

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トランプ氏の人気が高まることを、株式市場は「リスク」と認識してきたのである。トランプ人気が高まると、株式市場は予想利益を現在価値に割り引く金利に、より高いプレミアムを上乗せすることを要求してきた。つまり、それだけ大きく利益を割り引いて、株価を過小評価することで、株価にリスクを織り込ませてきたのである。

だとすればトランプ氏の支持率の低下は、リスクプレミアムの低下要因になる。業績や金利環境に変化がなくてもリスクプレミアムが低下すれば株価は上昇する。それが世界的なリスクオン相場の素地ではないか。日本株にとってももちろん好材料である。