人が育つ営業現場は安全を保障している

常見氏は、ある企業との会合で、新卒採用で人材を見誤らないコツを聞かれたのだと言う。誤ることを良しとしない余裕のなさの表われだろう。事実、即戦力を求め、新人を育てる余裕のない企業は多い。こうした環境で、良い人材が育つと言えるのだろうか。

北澤氏 今の若い人たちは人間関係を非常に気にしますよね。私たちの世代が関心があったのは自己成長でしたが、彼らは「いかに適応するか」「いかに周りから浮かないか」に関心があります。だからこそ、営業現場の方々は、新人に対して「ルールから逸脱しない限り、何をしてもいい。安心していい」と思わせることが大切。そうでなければ、今の若い人たちは一歩踏み込んだ営業活動をしないんです。

石川氏 確かに、グーグルの生産性の高い働き方を研究するプロジェクト『アリストテレス』でも、「安全性」を保障することが社員の生産性を高めるとされています。

常見氏 そこで僕が言いたいのは、「若者の安全・安定志向を否定してはいけない」ということ。よく若者の大企業志向が批判されますが、土台のしっかりとした組織でフルスイングをしたいという気持ちの表われだと思います。

石川氏 そう。しかも、若い営業マンは良い意味でオープンで、私たちの世代では思いつかないようなこともしますよね。他社の商品でも、「良い商品だ」と思ったらお客さんに紹介するとか。

北澤氏 公平ですよね。

常見氏 時代が違えば、売り方も、売る商品も違うのが当たり前。そこを理解したうえで、営業ノウハウを互いに学びあえる組織があったら、その組織の営業力は強くなるのではないでしょうか。

あなたも、思いどおりに育たない部下を抱えて、指導を諦めてしまってはいないだろうか? そして、それを世代間ギャップのせいにしていないだろうか? 部下育成に大事なのは、部下の行動をよく観察し、性格を理解し、ベストのタイミングで適切なアドバイスをすること。そして、「上から教える」のではなく、「互いに学びあい、教えあう」ことで組織を成長させていく姿勢だ。

『人材が育つ営業現場の共通点』では、社員を成長させるさまざまなノウハウが紹介されている。ぜひ手に取って、参考にしていただきたい。

北澤孝太郎(きたざわ・こうたろう)レジェンダ・コーポレーション〔株〕取締役
1962年、京都市生まれ。85年、神戸大学経営学部卒業後、〔株〕リクルートに入社。20年にわたり、営業の最前線で活躍。2005年日本テレコム(現ソフトバンク)の執行役員営業本部長を経て、現在、東京工業大学大学院で特任教授を務める。著書にベストセラー『営業部はバカなのか』(新潮新書)、『優れた営業リーダーの教科書』(東洋経済新報社)がある。

石川 明(いしかわ・あきら)新規事業インキュベータ石川明事務所代表
リクルート社の新規事業開発室のマネージャ、株式会社オールアバウトの創業を経て独立し、企業の新規事業開発に特化した支援業務を行なう事務所を設立。社内起業提案制度の設計などボトムアップの仕組み作りが得意領域。著書に『はじめての社内起業』(ユーキャン学び出版部)がある。

常見陽平(つねみ・ようへい)千葉商科大学専任講師
1974年生まれ。一橋大学商学部卒業後、97年に㈱リクルート入社。2005年には、㈱バンダイに入社し新卒採用を担当。その後、人材コンサルタント、作家としての活動を本格化させ、現在は千葉商科大学国際教養学部専任講師に就任。『僕たちはガンダムジムである』(日本経済新聞出版社)など著書多数。(『 The 21 online 』2016年08月02日 公開)

【関連記事】
相手に応じて「第一印象」を使い分けよう
ビジネスマンにとって「雑談力」こそ最強の武器だ
一流だけが実践している! 開始2秒で心をつかむ雑談術
【元オリンピック選手が教える】本番で結果を出せる人、出せない人
<松井忠三・竹下佳江特別対談>「セッター思考」とは何か?