第13回 〔株〕ビィ・フォアード代表取締役 山川博功
ビィ・フォアードという会社を聞いたことがあるだろうか。日本から海外への輸出業者で、顧客は外国の人たちであるため、日本人には馴染みが薄いかもしれないが、同社が運営するウェブサイトは国境を越える「越境ECサイト」として売上高日本一。業績を急伸させているベンチャー企業だ。しかも、多くの日本企業が関心を持ちながらビジネスを成功させられていないアフリカが主な輸出先となっている。扱っている商品は日本の中古自動車。従来の中古車販売業者のイメージを覆す経営で快進撃を続けるビィ・フォアードの創業社長である山川博功氏に、その強さの秘密を聞いた。
日本では普通のサービスが、競争力になる
――御社のホームページによると、2009年には12億円だった売上高が2014年には492億円へと急伸しています。2015年は予想値で600億円。この要因はなんでしょうか?
山川 他の中古車輸出業者と決定的に違うのは、インターネットでのECにこだわっているということです。
もともと中古車の輸出は、パキスタン、あるいはバングラデシュやスリランカの人たちが家族でやっていることが多かったんです。たとえば、兄が日本で中古車輸出業を経営し、弟がケニアで自動車販売業を経営している。兄が仕入れた中古車を弟に輸出し、弟が路面店で販売する、という形です。要するに、日本の輸出業者と現地の販売会社との間でのB to Bのビジネスですね。
これに対して当社は、自社のウェブサイトを通じて、世界中のお客様から直接注文をしていただくB to Cのビジネスをしています。インターネットを使うことによってコストが削減でき、より低価格で販売できるようになりました。そのために、お客様に選んでいただけているのです。インターネットを使った中古車のB to Cのビジネスは、当社が始めるまで、世界的に見ても他になかったと思います。
また、扱う台数が増えてきたことで1台当たりの物流コストが下がり、さらに販売価格を下げられるようになりました。
――顧客はウェブサイトに掲載されている在庫の一覧からほしいクルマを選んで注文するわけですね。
山川 そうです。ただ、一部の国については「こういうクルマがほしい」という注文を受けてから仕入れる形を取っています。
――輸出台数の多い国はどこなのでしょうか?
山川 タンザニア、ザンビア、ジンバブエですね。アフリカ以外ではバハマも多い。
――米国や欧州から入ってくる中古車との競合はありませんか?
山川 日本の中古車は世界で一番質が高くて、世界で一番安いんです。5年や7年くらい走っただけで、日本ほどクルマの価値が下がる国は他にありませんよ。
――販売先の国での広告や宣伝はしているのでしょうか?
山川 今はしていますが、当初はしていませんでした。口コミで少しずつお客様が増えたのです。「ビィ・フォアードという会社に頼めば、自分が頼んだクルマがきちんと届く」という評判が広がったんですね。当たり前のことだと思われるでしょうが、「頼んだクルマがきちんと届く」ということが、中古車輸出業界では当たり前ではなかったんです。悪質な業者が多くて、頼んだクルマとは別のクルマが届くなんて、よくあることでした。当社は、もちろんそんなことはしません。日本企業としては普通のことなのですが、中古車輸出業界においては「質の良いサービス」を提供できていることになるのです。
口コミを広げるための施策として、ロゴを印刷したステッカーを販売するすべてのクルマに貼ることは、はじめからずっとしてきました。今では、見渡す限りのクルマに当社のステッカーが貼ってある国もあります。
ロゴについてはブランディングの一環としてとくに力を入れていて、世界中の人に格好良いと思ってもらえるデザインになるよう、常に少しずつ改善しています。先日、社員の手違いで、ロゴの矢の部分の角度が少し違うステッカーを印刷してしまい、すべて廃棄するということがありました。700万円をムダにしましたが、それくらい力を入れているのです。
――為替の変動が業績に与える影響も大きいビジネスだと思います。
山川 以前はあまりありませんでしたが、去年のチャイナショックの影響は大きいです。アフリカ経済は中国経済に頼っていたので、中国の景気が減速したことでアフリカの景気も減速し、通貨価値が米ドルに対して大きく下がりました。ひどい国だと4割になった。通貨価値が下がった国の人にとっては当社の商品の値段が高くなってしまい、注文が減っている状況です。
これに対応するために、ウェブサイトを訪れたお客様が注文に至るまでの動線を研究してムダな部分を省くなど、この半年間、社内のコストをさらに削減する取組みを進めてきました。
ただ、チャイナショックの影響を受けなかったカリブ諸国の昨年の伸び率は400%もありますし、むしろチャイナショック後の状況のほうが私は好きですね。企業の淘汰が進みましたから、当社にとってはやりやすい状況です。