●足元で世界の高リスク債市場で不安定な動きが出始めている。株式の勢いの割に、銀行の高リスク債券であるCoCo債や高リスク債券には年初来の勢いがなく、北朝鮮問題後退後も回復がやや鈍い。
●世界の負債総額は、金融危機以降、毎年約518兆円ずつ増加している。まだ金利が低く、銀行や債券投資家が積極的なので、借り換えに困るような問題企業は少ないが、今後、流れが変わる可能性もある。
●銀行の引当金は過去最低水準で、リスクへの備えに不安も。金融危機の兆しはまだないが、一部の住宅価格等に行き過ぎ感があり、トレンドの節目に差し掛かっている可能性がある。高リスク債投資には注意したい。
高リスク債券に反転の動き
4月のフランス大統領選以降、不安要素の後退で、銀行債の価格は上昇を続けてきた。特に、世界的運用難を背景に、高リスクのCoCo債の価格はほぼ一貫して上昇してきた。ところが、8月に入ってから、CoCo債の価格が下落(取引利回りは上昇)し始め(図表1)、米国の高利回り債(いわゆるジャンク債)がこれに続いた(図表2)。CoCo債等は利回りが高いため(平均約6.5%)、日本の投信等にも組み込まれ、マイナス金利に悩む個人や地域金融機関などに販売されている。
足元の北朝鮮リスクの後退に伴い、銀行債については持ち直しているが、それでも、年初来の強さは見られない。特に米国ジャンク債は、今のところ殆ど反発していない。
世界の債務は膨張:銀行の備えは突然のショックに対してやや不安
こうした高リスク債の反発力が弱い背景には、世界的な債務の膨張に対するリスク意識の高まりがあるとみられる。
2008年のリーマンショック後の金融緩和で、世界の債務は毎年平均で518兆円ずつ増加し、2016年末時点では、160兆ドル、日本円で1京8, 000兆円まで膨張した (図表3)。 過去10年間の累積増加率は63%にのぼり、同じ期間のGDPの伸び率47%を大きく上回る。
企業のデフォルト(債務不履行)が急増し、金融危機が発生するサイクルは、およそ10年前後と言われている。そして、このデフォルトの急増に若干先行するのが、企業の利払い額である(図表4)。これは、規制や金融政策、銀行貸出や債券の平均的な期間、債券投資家のリスク選好度などが関係しているとみられる。
これまで8年間にわたり低金利が続いたことで、延命されている脆弱企業も多い。今後金融政策が正常化されると、そうした企業は淘汰されていくだろう。サイクル的にはそろそろそのような脆弱企業の淘汰の流れに入ってもおかしくない。
そこで懸念されるのは、銀行の備えができているかどうか、である。この数年、貸出金が増加している割には、将来の貸倒れに対する引当金はあまり積まれていない(図表5)。銀行の引当金は、主に過去のデータに基づいて計上されるため、景気サイクルに遅行してしまう。結果、また大きなショックが発生した場合には、銀行などに大きな損失が発生し、これが銀行の貸し渋りを生み、景気の足をひっぱる可能性が高い。
当面高リスク債は回避が無難
今のところ、金融危機の芽となるような巨大なリスクがくすぶっているような印象はない。しかし、住宅等資産価格が、一部の国で行き過ぎ感があるなど(図表6)、金融緩和・債務膨張の歪みが徐々に拡大している。
高リスク債は、景気回復期の株式と同様に、景気後退期の先行指標になる。まだしばらくは、政策の舵取りを見守る余裕はありそうだが、この数ヶ月のユーフォリアは陰を潜めつつある。銀行や企業の高リスク債への投資は当面回避し、9月以降ヤマ場を迎える米国の債務問題の行方、政策金利の動向やこれに対する市場の反応を見定めたい。
大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券
チーフ・アナリスト
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