お寺や神社、教会などの宗教団体の中には「宗教法人」として法人格をもつものがある。宗教法人が受け取ったお布施やお賽銭には税金がかからない。これは多くの人が知っているところだろう。

とはいえ、メリットを享受するなら、その分犠牲にするものが出てくるのが世の常だ。宗教法人に関しても例外ではない。宗教法人の苦労について解説していこう。

宗教法人とは?

(写真=PIXTA)
(写真=PIXTA)

宗教法人とは、宗教法人法により法人となった宗教団体をいう。「宗教団体=宗教法人」とカンチガイする人がいるが、宗教団体のすべてが法人格をもつわけではない。宗教活動自体は、個人でも可能だ。ただし、同じ信仰を持つ個人があつまり、集団が形成されると個人の物とは区別された共有財産が発生し、管理・運営しなくてはならなくなる。そこで、個人とは別個の法人格が必要となる。この維持管理を目的としたのが宗教法人だ。

宗教法人の最大のメリットは、お布施などといった本来事業の収入や境内建物などに関して課税されないことだ。これは宗教法人が公益法人の一種であり、その公益事業は剰余金配当と残余財産分配を行うことができないため、非課税となっている。ちなみに、宗教法人法第6条第2項により、宗教法人であっても収益事業を行うことができる。

なお、個人のより集まりに過ぎない宗教団体が受け取ったお布施などについては、宗教法人法の適用がない。そのため、税法的には、PTAや同窓会と同じく「人格のない社団等」として、株式会社や合同会社といった普通法人と同様の存在とみなされる。そして、お布施などの寄附についても「受贈益」として法人税が課税される。

宗教法人の大変さ(1) 設立と維持にコストがかかる

非課税メリットが大きいということは、それだけ法律により課せられた条件も厳しいということだ。もっとも厳しいのが「宗教法人の設立や維持のハードルが高い」という点である。

宗教法人を設立する場合、以下の要件をクリアしなくてはならない。

1.礼拝の施設その他の財産を有していること
2.布教活動をしていること
3.日頃から儀式行事を行っていること
4.信者を教化育成すること

一見単純だが、各要件の現実的な運用は厳格だ。1.は自宅でやっていればいいというものではなく、境内建物などのように公開性を有していなくてはならない。2から4については、宗教法人の実態の証明が必要だ。

そのため、設立申請時には、設立以前からの活動実績報告(3年が目安)や所轄庁認証された規則、信者名簿などといった、宗教法人の健全な実態を証する書類を提出しなくてはならない。そして認可そのものは実際3年程度かかることが多い。つまり、そうカンタンに宗教法人になれないのだ。

加えて、その維持にも労力がかかる。宗教法人の規則及び認証書、役員名簿、財産目録その他会計書類、境内建物に関する書類、責任役員会議の議事録や事務処理簿といった各種書類を常時備え付けていなくてはならない。また、毎会計年度終了後4か月以内に、会計報告だけでなくこれら書類の一部のコピーを所轄庁に提出する義務がある。これらの維持管理業務を怠ると、法律により、代表役員、その代務者などは、10万円以下のペナルティに処せられる。

これに対し、普通法人ならば、思い立ったらすぐに設立できる。また、税務申告の際、財務諸表の添付などは求められても、境内建物の書類や議事録などの提出までは求められない。普通法人は、税金という対価を払って時間と労力というコストを節約しているともいえる。

宗教法人の大変さ(2) 収入の減少

設立・維持に関する義務への労力がクリアし、税金は免れたとしても、日常の維持管理費は避けられない。つまり、宗教法人であれ、支出がある以上、収入は不可欠なのだ。

しかし宗教法人は、普通法人よりもお金を稼ぐための活動が制限される。普通法人は営利活動、つまり稼ぐ行為それ自体が目的だが、宗教法人はあくまで宗教が目的だからだ。

そのため、彼らの主な収入形態は檀家や氏子からのお布施や寄附など、他人依存的なものに限定される。今の宗教法人の大変さのひとつは、この限定的な本来事業による収入が年々減少してきていることだ。理由は、檀家や氏子といったバックアップ組織の衰退・解散にある。

檀家や氏子は町内会や自治会と同様、その地域を支える組織だ。その地域を盛り上げようとする雰囲気が強ければ、組織は維持され、お祭りなどの行事は活発になる。逆に、その地域の人口が、少子化や現役世代の流出などにより減少していけば、地域の活性度は下がっていく。

高度成長期から現在に至るまで、核家族化、少子高齢化、地方の過疎化により、この地域の活性度が下降している。IターンやUターンで新たな流入があっても、新参者がそう簡単に地域になじめるわけではない。

お賽銭やお守りの販売で成り立つのは有名な寺社仏閣のみだ。多くの寺や神社は檀家や氏子からのお布施や寄附で成り立っている。葬式や祭祀の収入は棚ぼた収入に過ぎない。檀家や氏子の組織が崩れれば、寺社仏閣への基礎収入も減る。一方、建物の修繕には1000万円以上の費用が掛かるのが普通だ。だが、檀家も氏子も激減した状況で、その費用は担えない。

結果、当初は専業であったお坊さんや神主が、その運営費用を捻出すべくサラリーマンと掛け持ちするようになる。しかしそれでも維持しきれず、最後はお寺や神社を手放してしまうケースが後を絶たない。手放したとしても、株式会社の株主のように責任を取る存在が定められているわけでもない。そのため、放置され、荒れた宗教法人も少なくない。

宗教法人の大変さ(3) 税務調査の増加

さらに、2000年以降、宗教法人への税務調査が激増した。昭和の頃、宗教法人は税務的に「聖域」扱いされていたのと対照的だ。背景には、経営が困難になった宗教法人を脱税目的で売買するケースが相次ぐようになったことがあげられる。

また、これ以外にも、宗教法人法が透明性・公益性徹底のために設けた各種要件を守れず、檀家からのお布施を僧侶のお小遣いにしてしまうといった事情も影響している。こういったことから、税務調査が増加し、非課税で安心していた宗教法人に、法人税や所得税、加えてペナルティが課される事例が相次いだ。

今や宗教法人で非課税だからといって安穏としていられない。むしろ民営法人以上に、意識して法律を遵守しなければ痛くもない腹をつつかれる状況になってきている。非課税というメリットがかすんでしまうほど、現代の多くの宗教法人は、経営に四苦八苦しているのである。

鈴木 まゆ子
税理士、心理セラピスト。2000年、中央大学法学部法律学科卒業。12年税理士登録。現在、外国人の日本国内での起業支援に従事。会計や税金、数字に関する話題についての記事執筆を行う。税金や金銭、経済的DVにまつわる心理についても独自に研究している。共著に「海外資産の税金のキホン」(税務経理協会、信成国際税理士法人・著)がある。ブログ「 税理士がつぶやくおカネのカラクリ

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