(本記事は、坂本慎太郎氏の著書『伝説のトレーダーに50万円を1億円にする方法をこっそり教わってきました。』SBクリエイティブ、2018年9月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
●登場人物
教える人:坂本さん(こころトレード研究所)
証券会社のディーラーとして月に5000万円以上の利益を出し、ファンドマネージャーとして兆単位の運用を経験したこともある。
教わる人:山田くん(株式初心者の山田くん)
28 歳の営業職。会社の給与だけだとなんとなく不安で株式投資を始めてみたものの……儲からない(泣)。株式初級者。
山田くんは、これまでテクニカルだけでトレードしていたのですが、なかなか勝てないということで坂本さんに相談してきました(これは実に多い相談例です)
彼がファンダメンタルズを習得する過程で抱いた疑問やその回答は、ファンダメンタルズを学び、実際のトレードに活用できるテキストになると思います。
ここではその一例をご紹介して行きましょう。
「株価は業績で上下する!」という当たり前を究めよ
山田:「テクニカルを卒業してファンダメンタルズを勉強するゾって思ったんですが……、チャートが気になるんですよね」
坂本:「多くのテクニカル派がそうなんだ。そういうのを“刷り込み”っていうのかな?卵から孵かえったばかりの鳥は初めて見た動物を親と勘違いしてずっと追い続けるっていう現象と同じだね」
山田:「でもね、ほら、この銘柄。ゴールデンクロスして上がってますよ。やっぱりテクニカルには再現性があると思うんですけど」
坂本:「ああ、それね。決算が良かったんだよ。だから、決算発表の前から買われて、右肩上がりになって、その結果、ゴールデンクロスしたんだ」
山田:「ところがです、2日後には下がっちゃったんです。業績で株価が動くなら、決算が良ければ、ずっと上がるはずじゃないですか」
坂本:「下がった理由はちゃんと説明できるよ。でも、その前にテクニカルで考えたら、ゴールデンクロスしたんだよね。それなら上昇トレンドに入るはずなのに、なぜ下がったんだろう?」
山田:「テクニカルはそんなに単純じゃないんです。ほら、『新値更新』7日で数えるとゴールデンクロスの始まりは6日目、陽線の上げ止まりが7日目。『新値更新』7日と言ってますけど、統計的に4日を過ぎると下がることが多いらしいんです」
坂本:「なるほど。統計的っていうけど、それは1~2年しか見ていないだろう。5年前、10年前はどうなんだ。それに『新値更新』5日目以降でも上がり続ける銘柄もある。ゴールデンクロスしても下がる株もあれば、続伸する銘柄もある。例外がいっぱいあるのに再現性があるって言いきれるのかな?」
山田:「そう言われると……。じゃあ、決算が良かったのに下がった理由はなんですか?」
坂本:「わかりやすい理由をひとつ挙げてみよう。業績期待で短期売買しているトレーダーがいる。彼らは好決算を予測した銘柄の決算発表前日か当日の朝、買いを入れる。場中に好決算が発表されて、上がったら、いっせいに売って利益確定する。あるいは、引け後に決算発表があれば翌朝、上がったところで利確する。短期売買の参加者が多い銘柄は決算を受けて下がることがよくあるんだ。だけどね、業績が良ければ、そういう下げのあとで結局は上昇するんだよ。業績を無視して上がったり下がったりする株は、私に言わせればクソ株だ!」
山田:「じゃあ、ボクはクソ株をつかんじゃったのかなあ?業績が良くって、好決算だったのに続落してるんです」
坂本:「その銘柄は成長株だね。成長株に多いんだが、決算発表の時点で来期業績の期待値まで織り込まれていたから、好決算を発表したのに暴落したんだ」
山田:「期待値ってなんですか?」
坂本:「投資家は銘柄の将来を予想して売買をしている。たとえば、3月決算の企業で、2Q(第2四半期)の決算が良くて、そのときのEPS(1株当たり四半期純利益)が20円だったとしよう。投資家の期待通りに業績も伸びている。株価も右肩上がりだ」
山田:「上々な状況ですね」
坂本:「そう。そして、いよいよ3Qの決算発表だ。これは1Q+2Q+3Qの数字の累計だ。企業が出した増益予想は、1年を通した4Qまでの決算(1Q+2Q+3Q+4Q)だよね。でも、ここが問題なんだ!」
山田:「?どういうことです?」
坂本:「投資家のなかには、1Q、2Qの進捗がいいから3Q以降も期待して株価が上昇すると考えている人がいる。妄想が膨らんでしまうことで、3Q、4Qに大幅増益が出ること、来期分の成長を今期に勝手に含めることで高値を買ってしまう人がいる。ま、私に言わせれば、根拠のない妄想バカというところかな」
山田:「ドキッ?」
坂本:「そういうバカは3Qの決算なのに4Qまでに稼ぐ利益を3Q時点で達成してさらに4Qも儲かると頭の中でお花畑が広がっている。3Qの決算でEPSが2Qまでの倍、60円ぐらいになると妄想してるんだな。ところがだ、実際の決算はそんな数字にはなるはずがない。1Q+2Q+3Qの数字だからね。するとEPSは40円ぐらいとする。40円だって通期の利益をすでにクリアしてるんだから好決算だろ。でも、バカはそう思わない。すると『なんだこれ、全然ダメじゃないか』って投げ売りする。これが暴落の正体なんだよ」
山田:「そうなんだ……。じゃあ、期待値を織り込んでるって、どうやって見抜けばいいんですか?」
坂本:「たとえばPER(株価収益率)を見ていけばいい。30倍以上の高い数値になっていて株価が3ヵ月や半年で2倍になっているような銘柄は、気をつけたほうがいい。PBR(株価純資産倍率)も見て、高すぎないかを判断する。私なら、決算発表前に利益が出ていればいったん利確しておくね。そして、下がってきたところでまた買う」
山田:「じゃあ、ホールドでOK?」
坂本:「順調に業績が伸びているようなら、大丈夫だと思うよ」
兼業トレーダーのサラリーマンは中長期投資を目指せ!
坂本:「ところで山田君の投資スタイルは短期、中長期?」
山田:「よくわかりません……。会社を休んでデイトレしたこともあるけど、ダメでした」
坂本:「それなら、スタイルを決めたほうがいいよ」
山田:「エントリーしたらすぐに儲かる!そういうスタイルがいいです」
坂本:「じゃあ、会社を辞めて専業になる?」
山田:「それはムリです。安定した収入は魅力だし、専業でやっていく自信はありません」
坂本:「それなら中長期の投資スタイルにするしかないな」
山田:「ええーっ、どうしてですか?」
坂本:「さっき君に話した、決算発表の日の株価の動きを思い出してほしい。専業トレーダーであれば、好決算銘柄を朝買って、日中に上がったところで利益確定できる。1日中、モニターに張り付いて株価の動きを見ていられるんだから、日中の利確も可能だよね。決算がいいのに下がり出しても、すぐ損切りができて大ケガは負わない。うまくいけば、薄利で撤退できる。ところが、サラリーマンだとそうはいかないだろう?」
山田:「うっ!確かに。会議中とか営業中なんかにスマホで株価なんて見られないし」
坂本:「大引け間際にトイレに駆け込んでスマホで株価を確認したときにはもう遅い。その結果、気がついたときには株価暴落。塩漬けにしてしまうと資金がなくなる。だから、大損を抱えて損切りしかない。こんなケースが多くなると思う。結局、兼業は専業には勝てないんだよ」
山田:「昼間に株価をチェックするのって、できるようでできないことが多いんです。だから、成行で買い注文を出しておくと、約定単価が思った以上に高かったりして」
坂本:「負けるとわかっている戦いをするのは愚かだ。勝てる戦いをすべきだね」
山田:「それが中長期のスタイルなんですか?」
坂本:「そうだよ。それにファンダメンタルズをもっとも活かせるのは中長期なんだ。それだけじゃない。ファンダメンタルズによる中長期の投資は投資の王道、利益を得ると同時に投資の楽しみや醍醐味まで味わえるッ!すごいと思わないか?」
ストーリー通りに株価が動く 投資に醍醐味なんてあるんだ
山田:「儲かったときは楽しいと思うけど、それ以外は楽しみとか、醍醐味なんて考えたこともないですよ」
坂本:「ファンダメンタルズから株価の今後の動きをイメージしてストーリーが描ける。そして、その通りになったときには利益も出るし、醍醐味も味わえるんだ」
山田:「ストーリー……?」
坂本:「わかりやすいストーリーを挙げてみよう。上場企業は四半期ごとの決算発表があるよね。本決算発表の際にはほとんどの企業が通期予想を出している。たとえば、経常利益が来期は今期より1億円増と予想したとしよう。来期までには1年、つまり四半期決算が4回あるから、四半期ごとに1億円の4分の1の2500万円ずつ経常利益が増えていればいいわけだ。進捗率でいえば25%ということになる」
山田:「はい。4分の1は25%ですもんね」
坂本:「さて、1Qで2500万円増だと進捗率は25%、2Qで3500万円増になると1Q+2Q=6000万円増だよね。進捗率は2Qですでに60%だ。その後も順調に伸びて、3Qで90%に到達したとする。ここで描けるストーリーは、4Qでは上方修正が出てもおかしくない、さらに増配があるかもしれないというシナリオだ。その時点で株価を見るとPERは10数倍と割安……。さあ、君ならどうする?」
山田:「もちろん、買いますよ!」
坂本:「そうだね。するとほかの投資家も『進捗率がいいゾ』と思って買ってくる。そうなると放っておいても、4Q決算発表まで期待値が乗り続けて続伸していく。そして予想通りに上方修正が出ると株価はさらに上がる。その結果、儲かる!ということだ。こういう株を高進捗率が確定できたときにホールドしておけば強いと思うよ」
山田:「なるほど。まず負けないですね!」
坂本:「そして、もうひとつ。山田くんときれいな株価上昇のストーリーを話しておこう。これはTOB(株式公開買付)にまつわるストーリーだ。市光工業(7244)という企業の話だ。この会社は自動車用ランプとミラーを主に製造・販売しているんだ。だが、この分野では小糸製作所とスタンレー電気が強くて、市光工業はこの2社に対しては業績もシェアも、かなり水をあけられていた。ところが、2016年11月、ヴァレオ・バイエンというフランスの自動車部品会社が公開買付を行うと発表した。市光工業もこのTOBに賛同している。こうして市光工業はヴァレオ・バイエンの子会社になった。このニュースを知ったとき、私は『市光は変貌する』と考えた」
山田:「えっ?子会社になるのに、なんで『変貌する』なんて前向きにとらえたんですか?」
坂本:「親会社がフランスの部品メーカーということは販路がヨーロッパに広がるはずだ。資材の調達もグローバルになるし、効率化も進むはずだ。当然、業績も良くなるし、そうなれば株価だって上がる」
山田:「そういうシナリオを描いて、買いでエントリーしたんですか?」
坂本:「そうだ。2016年10月までは300円前後で横ばいだったのが、11月から急騰する。TOBの買付価格は408円だ。2018年5月には1578円の高値をつけている。4倍近い株価になった」
山田:「ニュースが出たときに成長のシナリオを思い描いたわけですね」
坂本:「そうして株を買い、あとは放っておいただけ!思い描いた通りのトレンドになって株価は4倍弱だ!おもしろいと思わないか?これが中長期投資の醍醐味なんだよ」
山田:「すごいなあ……」
坂本:「TOBとか、M&A(合併と買収)とかのニュースが出たら、関心を持ってそのあとにストーリーを描いてみるといいよ。自分の考えたストーリーに自信があれば買ってもいい。たとえ買わなくても、そのあと、その企業が成長するか、さらに株価がどう動くのか、監視するだけでも楽しい。全部が全部、きれいなストーリー通りにはいかないと思うけどね」
山田:「なかなか奥が深いなあ……。でも、今日の話でなんとなく、中長期投資の楽しみや醍醐味がわかったような気がします」
坂本:「そういう楽しみが待っていると思うと勉強しようっていう気になっただろ。ということでビールでも飲みにいくか!」
山田:「いいですね。もちろん、坂本さんのおごりで!」
坂本:「君はしっかりしてるなあ……」
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