(本記事は、坂本慎太郎氏の著書『伝説のトレーダーに50万円を1億円にする方法をこっそり教わってきました。』SBクリエイティブ、2018年9月25日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
●登場人物
教える人:坂本さん(こころトレード研究所)
証券会社のディーラーとして月に5000万円以上の利益を出し、ファンドマネージャーとして兆単位の運用を経験したこともある。
教わる人:山田くん(株式初心者の山田くん)
28 歳の営業職。会社の給与だけだとなんとなく不安で株式投資を始めてみたものの……儲からない(泣)。株式初級者。
山田くんは、これまでテクニカルだけでトレードしていたのですが、なかなか勝てないということで坂本さんに相談してきました(これは実に多い相談例です)
彼がファンダメンタルズを習得する過程で抱いた疑問やその回答は、ファンダメンタルズを学び、実際のトレードに活用できるテキストになると思います。
ここではその一例をご紹介して行きましょう。
銘柄を選ぶには店に足を運べ、月次の決算を見よ!
山田:「あの、外食関連の銘柄を買う前には実際に店舗に行ってみたほうがいいんですか?」
坂本:「近くにあれば行ったほうがいいな」
山田:「やっぱり味を見るんですか?」
坂本:「当然だよ。旨くなきゃ、話にならない。味のほかには、何席あるか、回転率はどうか、何人でオペレーションしてるか、そういうのを確認して、買えるかどうか判断するんだ」
山田:「えっ!足で稼ぐってことですか?」
坂本:「その通り。ここでは、店舗に行って『成長が止まったな』と思った例を挙げてみよう。サンマルクカフェを運営しているサンマルクホールディングス(3395)だ」
山田:「あそこのチョコクロ、結構、好きですよ。そういえば2年前ぐらいから、お正月に福袋を売りだしたんですよね。チョコクロが5個とコーヒーチケットが5枚で1000円(2018年1月)」
坂本:「それそれ。正月だけじゃなくて、3月いっぱいやってるだろ」
山田:「1500円だったのが3月末にかけて1000円に値下がりした年もあったなあ。ボク、そういうのを狙って買うんです。普通はチョコクロが170円、コーヒーが250円だから、1000円以上おトクなんですよ」
坂本:「確かに利用者にとっては嬉しいよね。でも、正月過ぎても、まだ福袋をやってるのを見たときにはダメだなと思ったな」
山田:「なぜですか?」
坂本:「山田くん、決算の前月あたりになると上司からプレッシャーがかかるんじゃない?」
山田:「もう、キツいっすよ。『これを売れ、あれを押し込んで来い』とか、めっちゃ言われます……。そっか、サンマルクも決算の数字合わせで福袋を始めたんですね?」
坂本:「私はおそらくそうだと考えている。『このままじゃ、業績見通しに達しないから、何かテコ入れをしなきゃ』って、看板メニューのチョコクロの安売りを始めたのではないか、と。こういうのをプロの投資家が見ると“経営が苦しい”って、わかってしまうんだ。ほら、チャートを見ると、ずっと下落してるだろう。この時期、外食産業の株価は軒並み上がっていたのに」
山田:「ほんとだ。でも、ボクみたいな素人には福袋の意味まではわからないですよ」
坂本:「なんで福袋を3月までやってるのかなあ……って推理することが大事なんだ。外食や小売業の業績が伸びているかは月次の決算を見るといい」
山田:「月次なんてどうやって調べるんですか?」
坂本:「その企業のホームページに行って、IR情報を調べればアップされている。外食や小売業はたいていの企業が月次を公開しているよ。 サンマルクホールディングスの月次はIR情報のトピックスを開けばいい」
山田:「(タブレットを出して)あ、IR情報があった」
坂本:「月次では全店より既存店を重視する。全店だと前年より店舗数が増えていれば数字が良くなるのは当たり前だからね。既存店の売上がどれだけ増えているかを見るんだ。既存店はオープンして1年あるいは2年程度経った店舗の売上だから、もし前年同比でマイナスになっていれば、ブランド価値がなくなってきている、成長が停滞しているって推測できる」
山田:「ホントだ。月次なんて見たことなかったなあ。月次って、リアルタイムで業績がわかっておもしろいですね」
坂本:「月次を追うのはファンダメンタルズの基本中の基本だよ。外食や小売業は必ず月次を調べてから、投資するかどうかを判断すべきだ。そして投資してからも常に月次は追いかける。既存店の売上が落ちてきたら、撤退を考える。どんどん伸びるようなら、保有し続けるのさ」
勝てる銘柄を選びたいから、街へ出てもボーっと歩きません
山田:「外食は店舗に足を運んで、味や客の入り具合なんかを自分の目で見る。そして月次で既存店が伸びているかを確かめ、もちろん業績も増益を確認して、初めてエントリーするんですね」
坂本:「そうだよ。情報誌や情報番組で、気になる店のオープンを知ったら足を運んでみる。そういうフットワークの軽さが必要なんだ。エントリーするときには外食に限らず、業界の動向とか将来性とか、買えるロジックが複数整ってから買い注文を出す。単に低PERだからっていう理由だけでは買ってはダメなんだ。自分が勤めている会社の関連企業なら、動向がわかるだろ?そういうのも銘柄を考えるときに参考にすべきだよ」
山田:「わかりました。できる限り情報を集めるっていうことですね!」
坂本:「たとえば、こんな例もある。ここの窓から、月島機械(6332)の本社ビルが見えるんだ。この会社は上下水処理などの環境プラントを製造している」
山田:「まだ明かりがついてますね。残業してるのかなあ……」
坂本:「窓から見えるから、定点観測してたんだよ。すると、平日は夜遅くまで明かりがついてるんだ。土曜日、日曜日も明かりがついている部屋がある。おそらく忙しいんだろう。本社が忙しいということは工場も忙しい。それは受注が溜まっているからだって推測できる。つまり、儲かってるんだ。私は、好決算を確信した。その頃、株価は低迷してたけど、決算発表を機に上がると思ったよ」
山田:「実際はどうだったんでしょう?」
坂本:「2018年5月11日に18年3月期の決算が発表されて、連結経常利益は前期比23.9%増で事前の会社予想値を上回る数字だった。そして受注高は創業以来初の1000億円超えで、売上高も過去最高を更新した。すると株価は急騰した。工場に行かなくても本社の状況から、業績がある程度推理できるという例だよ」
山田:「自分の周辺から、いろんなことが推理できるんだ……」
坂本:「たとえばデパートへ行って化粧品のフロアが混んでいたら……、中国人が多いな、どの商品をどんな買い方してるのかな、同じ商品はドラッグストアにあるのかな、ドラッグストアにはない商品を買ってるのかな……こんなことを気にしながら歩くんだ」
山田:「資生堂の高価格帯の化粧品が売れてるとか……」
坂本:「そうそう。そういうのも実地調査のひとつなんだよ」
山田:「で、資生堂が売れてるから、“買い”だとか……」
坂本:「そんなふうに実地調査しても早急に結果を求めちゃダメだよ。実地調査したって、実際のトレードに結びつくことなんてごくわずかだ。身近なところを少し気にして見ていくと気がつくことが多い。常にアンテナを張っていれば、サンマルクの福袋を見て経営が苦しいのかなって、推理できるようになるんだ。私なんか、新聞の折り込みチラシだって気にして見ているしね。もう、生活の9割が株式投資につながってるんだ。まあ、そうじゃないとトレーダーとして活動なんかできないけど」
山田:「街へ出たら、ボーっと歩いてるんじゃねえよッ!て感じかな?」
坂本:「そうそう、いろんなことに興味を持って歩けばいいんだよ」
山田:「ということで、坂本さん、この近くに新しい居酒屋がオープンしたんですけど、ちょっと行ってみませんか?」
坂本:「いいね。仕事も一段落したしね!」
山田:「ボク、バイオでずっと損してるんで、おごってください。居酒屋実地調査ってことで、必要経費で落ちるでしょ?」
坂本:「山田くん、君は、本当にちゃっかりしてるな(笑)」
山田:「あざーっス!」
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